早朝の出来事Ⅰ
いつものアラームが鳴る。今日は出来上がった絵を芽衣に渡すために早起きをした。カーテンを開ける。まだ薄暗く、肌寒い。でも心地よい静寂だ。
静かに階段を下り、身支度をする。まだ誰も起きてこない。身支度ができたらすぐに家を出た。
コンビニに寄る。お弁当を作ってもらってないので昼ごはんも買う。今日はおにぎり3つ買った。朝ごはんは前と同じオレンジジュースとメロンパン。今日は曇りみたいだ。
「誰もいない国道。なんか良いな」
独り言だ。僕はいつも人工物の周りに人の影もなく静かな瞬間に目を奪われる。寂しくて冷たい。見放されてはかない感じが心に響く。
井田書店もシャッターが閉まっている。また行かないとだな。
遮断機が下がっている。田舎電車が通る。ちらちら見える会社員の顔。みんな憂鬱そうだ。
学校が見えてきた。オレンジジュースを潰しながら飲み干す。門はもう開いていた。
「学校の先生って大変だな」
また独り言。
上履きに履き替えて3階の教室に向かう。学校は前とはまた違う表情を見せてくれた。曇りだからか全体的に暗い。そして静か。チャポンと蛇口から水滴が落ちる音がする。これも好きな表情だ。
足音が聞こえる。芽衣ではない足音。近づいてくる。
「うわっ!びっくりした!」
松田先生だった。門を開けたのは松田先生だったのか。
「おはようございます。こっちこそびっくりしましたよ」
「こんなに早くどうした?」
「ちょっと渡し物があって早めに来ました」
「そうか!早起きえらいな!」
早く起きるのは辛くない方なのでなんともない。ただ好きで早起きしているから偉くない。
「先生も早くから大変ですね」
「今日当番だったからな」
やっぱり当番とかあるみたいだ。担当とかにされるより当番の方が良いよな。
「今暇か?少し手伝ってほしいことがあるんだけど」
暇ではないけどな。芽衣に絵を渡さないといけないし。でもまだ来てなさそうだし。
「一回教室行ってきてもいいですか?誰も居なければ手伝いに行きます」
誰も居なければ暇だしな。手伝うのも悪くない。何をやらされるのか分からないけど。
「おう!大丈夫だぞ。気が向いたらでいいから体育館に来てくれ」
そういって職員室に戻っていった。
階段をもう一回上がり教室に入る。誰もいないみたいだ。少し座る。静寂が心地よい。これがずっと続けばいいのに。
「あ、松田先生が待ってる」
窓から体育館が見え、頑張ってほうきで砂を掃いている。
駆け足で体育館に向う。階段を2段飛ばしで下りていく。また足音が聞こえる。
「おはよー!」
黄色い声が聞こえる。芽衣だ。
「あ、おはよう」
「今日も早いね!どこ行くの?」
いつも通り元気そうだ。
「松田先生が手伝ってほしいって言われて。今から体育館に行くんだ」
「そうなんだ!私も鯉にご飯あげてから行くよ!」
え、来るのかよ。なんか気まずくないか。まあ僕が引き止める理由はない。
「わかった。待ってるよ」
そう言って逆方向にそれぞれ走っていく。
「遅くなりました」
急いだ様に言った。
「お、来てくれたのか!じゃあ何を頼もうかなー」
体躯館内をきょろきょろして言う。そして目線を送る。
「じゃあ、あのバスケットゴールを出してくれるかい?」
「分かりました」
そう言って、体育館に入る。体育館ってこんなに広かったんだなと思いながら歩いていく。ゴールを出すための棒を手に取りゴールを出し始める。うちの学校のゴールはゴールの根元にネジがあってそれを回してゴールを引き出す。これを4ゴールする。
「学校の先生って偉いよな」
素直に感心した。だってどれだけ早く来てもお金はもらえないのに。自分なら到底できない。
「おう!おはよう!」
松田先生が校舎側に向って手を振る。僕からは何も見えない。
「おはようございまーす!」
これは絶対芽衣だ。声で分かる。
「小島も早いな!実は桐谷もいるんだぞ」
言わなくて良いよ。
「知ってます!さっき会いました」
ほらね。
「何か手伝いましょうか?」
すると、松田先生が小声で芽衣に何か言っている。
「 、 ? 、 。 」