何色?
昨日夏季大会が終わった。結果は勿論予選敗退。分かっていたから悔しいとも思わない。それよりも絵を描くことができるようになったのがうれしい。今日は部活が休みだ。暑いから外に出ようと思えない。父親は仕事、家にいるのは母親と弟2人。みんな外に出るのを躊躇っている。僕はすることがあるから部屋に籠る。芽衣に頼まれた絵を完成させるために。
「よし、始めるか」
そういき込んでパレットを広げる。いつもはデッサンすることが多いのだけれども芽衣は色が付いている絵が好きである。多分。
「本当に、なぜこのモチーフ何だろう。普通は動物とか花とか、体なら顔とか言うはずなのに」
僕の癖だ。絵を描くことに集中してしまうと独り言を発する。絵画教室では流石に我慢するけどね。でも独り言を話して書く方が満足する作品ができる。
「最近の芽衣ってどんな色だっけ?ってか忙しくて全然話してないな」
芽衣といえば黄色しか思い浮かばない。いやそれは嘘だ。思い出したくもないあの漆黒の色。
「芽衣の色、全く分からないな」
筆が進まなくなってきた。一回休憩。冷蔵庫から冷えた麦茶をグラス一杯一気に飲み干した。テレビの音が聞こえる。
『本日の最高気温は38.4℃です。過去最高気温を記録しています。皆様水分補給と帽子をしっかりする…』
毎年言っている。過去最高気温とか50年に1度やら。青空と海がテレビに映る。すると弟が言う。
「いいなー僕も海行きたーい」
確かに。こんなに暑くなかったら行きたいかも。その瞬間アイデアが降りてきた。
「自分の思うようにしていいって言ってたよな?」
急に筆が走る。芽衣の足に自分の欲望を思う存分乗せてやった。
青空と海を想像して今回は天色で染めていく。しっかり芽衣の膝下の原型を残して。
「で、できた」
手がつりそうだ。窓から見た空は赤くなっている。麦茶を飲んだ時間から4時間たっていたらしい。これは明日も早めに学校に行かなければいけない。
「ああ、お腹すいた」
声を零しながら階段を下りる。母親が声を掛けてくる。
「最近絵に力入れているやん。なんかあったん?没頭していることは良いことだけど」
勘が良い。あったことはあるけどいう程のものではない。ってか母親に膝下の絵を見せたら確実に引かれる。
「いや、何もないよ。ただ友達に絵を頼まれていただけ」
「そうならいいわ。無理はしないでね」
分かっている。好きでやっているから無理とか特にない。
「わかった。ご飯食べていい?」
そういいリビングの椅子に座る。今日の夕食は生姜焼きらしい。
「いただきます」
そう言って食べ始めた。