誘拐犯
「ねぇねぇ、僕とも遊ぼうよー。積み木一緒に積もうよー」
「今こっちは子守りしてるの、わからない?」
「積み木なんて一人でも遊べるだろ、こっちは忙しいんだ」
「………忙しいって、何もしてないじゃないか」
その空気に耐えきれず、少年は家を飛び出した。
「どうして……パパもママも弟ばかり構うんだよ……僕はいらないってことかよ……」
「どうしたのさ」
「え?」
ふと顔を上げると、そこに居たのは少女。見た感じ少年と同い年に思えるが、どことなく圧を感じる。
「君のような子どもが一人で何を? もしかしてパパとママと喧嘩でもしたの?」
「………なんでもない、です」
「そう? 良かったら私の家に来る? そこらへんにある家よりすごい広いし、おやつもたくさんあるし、なによりペットがたくさん居るよ。もちろんワンちゃんもネコちゃんも居るよ」
「え、い、いきたい……」
「じゃあ遠慮しないでおいでよ」
「でも、知らない人にはついていっちゃだめってお母さんから言われてるし……」
「じゃあ今そのお母さんと連絡とれる?」
「え……」
「とれたとしても、とりたくないんでしょ? わかっているよ。さぁいこうよ、うちのペット達はみんな懐こいよ。君のママやパパと違って、君のことを好きになってくれるはずだよ」
「ほんと、ですか」
少年は、少女についていくことにした。
「………あの、ここは」
「私の家だよ。………どうかした?」
「あ、いえ………」(ワンちゃんネコちゃんは……?)
「それと、君は一体いつ帰るつもり? 早く家に帰らないと君のママとパパが心配するんじゃない?」
「………僕は、帰りたくないです」
「どうして?」
「……だって、いつも弟ばかりに構って、僕には全然構ってくれないんだもん。無視されるなら、帰らない方がマシだよ。弟の方を愛しているんだから、僕のことなんて捜してるはずもない」
「……なるほど。それじゃあちょっと見てみようか」
「え?」
「君のご両親が君を捜していないのか、君を愛していないのかを。私は少し魔法が使えてね、目を閉じてごらん」
少年が目を閉じると、少女は指を鳴らした。
「さぁ、何が見える?」
「……パパが、走り回ってる」
「君のお父さんが君のことを必死に捜しているんだよ」
「でも、きっと本心じゃない。言われたから捜しているんだ」
「だとしてもあんなに必死なんだ、帰ってあげた方が良いんじゃない? 君のことが好きなんじゃない?」
「でも……」
「君の弟が居なくなれば帰るの?」
「え、だ、だめだよ、ママとパパが悲しむよ」
「そうか、それでも君は帰らないつもりだね? 帰らなかったら今日の晩御飯にするつもりだったんだけど」
「…………え」
「大人より子どもの肉の方が美味しくてね。今からならまだ間に合うけど、どうする?」
「……だっ、だれかたすけてえええええええええ」
その後、少年は無事保護された。
「すまなかった……パパ達が悪かった……」
「僕も、ごめんなさい」
「それと……お前はこの三日間どこに行ってたんだ?」
「……え? まだ2時間くらいしか経ってないはずだけど……」
「何を言っているんだ、お前が居なくなってから丸々三日が経ってるんだぞ」
「……どうやら無事に帰れたっぽいな。にひひ、あの子はダメだったけど、十分だ。にしても、親が居るなんて羨ましいな。親が居ることに感謝し、せいぜいパパとママとで幸せに暮らすことだね。それでは、良い幻を」