表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/72

カタリーナの思い

「ボルディア国から、不可侵の証として第四王子とわたくしとの婚姻を望む親書が来ておりました。遅くまで執務室にいらっしゃるお父様にお夜食を届けたとき、見てしまったのです」


 まさに孝行娘なカタリーナだが、クロドメール国王は爪が甘いなと舌打ちしそうになる。シウも私に一切教えてくれなかったということは、断固として拒否するつもりだからだろう。


「クロドメール国王もシウも、そんな針のむしろみたいなところにカタリーナを送らないよ」


 ボルディア国は、最も終戦及び和平交渉に手こずっている国だ。払えそうもない賠償金を吹っ掛けて来たり、クロドメール領土の離島を要求していると聞いていた。


 高額の賠償金や離島がもらえないなら王女を求めるなど、強欲が過ぎるし、カタリーナが行ったっていじめられるに決まっていた。


「お父様とお兄様は、守ろうとしてくださってますけれど……いわゆる政略結婚も王女の務めのひとつだと思っております。わたくしが行けば、きっと無用な争いは防げますわ」


 苦労人のカタリーナは外見だけでなく、内面も大人だった。尊敬と共に、私は自身の不甲斐なさに少し落ち込んだ。


「ごめん、カタリーナ」

「え?」


 私はカタリーナが悩んでたなんて全然気づかなかった。のんきに、カタリーナとはずっと一緒だろうな、一緒に色んなことしたいなとしか考えていなかった。いつまでも頭の中が天の国のお花畑なのかも。


「もう心配いらないよ。全部私が何とかするから、カタリーナは安心して」


 私は少し高い位置にあるカタリーナの肩を抱いた。身長はあるけれど、華奢な肩だ。何せまだ、たったの16歳なのだから。


「そんな、大丈夫です。ただのちょっとしたいたずらですから、マルクス様にだけそっと私の気持ちをお伝え下さい」

「いいから、あとはベッドで聞かせてくれ」


 私はカタリーナの体を押し、ベッドへと促した。少し困ったように眉を下げたカタリーナだが、大人しく、お行儀良くベッドに入り、枕に頭を乗せた。私も隣の枕に頭を乗せ、体を横たえる。


「サミア様って、やっぱりすごく歳上ですわね」

「その通りなんだ」

「お姉様ですわ。優しくされたら、わたくし、もっとこの国を離れたがたくなってしまいますわ……」

「離れなくていいよ」


 私は顔をカタリーナに向け、彼女の栗色の瞳と視線を合わせた。


 やっとカタリーナは、平穏な暮らしを手に入れたはずなのだ。シウが父母にあまりにも似てないことから起きた、クロドメール国王との諍い。それに巻き込まれてカタリーナは苦労してたのだから、好きな人と過ごしてもらいたい。


 私は、カタリーナからマルクスのどこか好きなのか、どのように見つめてきたのかをじっくり聞きながら眠りについた。



 翌日、とりあえずマルクスのいる神殿へと行った。なおシウは二日酔いのため話にならず、後回しとした。私の今日の予定は詰まっていて、聖女と魔導師に合同で治療をする術を、病院で指導する予定なのだ。


「おはよう、マルクス」

「おはようございます、サミア様」


 マルクスは早朝から爽やかそのものと言った感じで、いつもの白い祭服が似合っている。長い金髪もきちんと整えられ、清潔感の塊であり、外見だけでいえばカタリーナだけでなく、かなりの人々が好意を寄せるだろう。


 しかし、挨拶を交わしあう私たちの前で待機している聖女たちと魔導師たちは身を寄せあい、萎縮していた。朝っぱらから、マルクスに何かしら説教をされたらしい。自分が悪役となれば、後から来て引率する私が天使のように見えるだろうと、汚れ役を引き受けてくれたのだ。――そういう人だと、カタリーナは気付いて好きになったらしい。


 私は待機してくれてる聖女と魔導師たちに少し待機しててくれるよう告げ、いかにも大事な話があるみたいに、マルクスを聖堂の片隅に招いた。


「マルクス、何も言わずに私の昨夜10時頃の様子を見てくれないか?」

「はい」


 疑いなき眼で、マルクスは言われた通りにしてくれた。ちょっと良心が痛む。


「あっ」


 マルクスの驚きの声と共に自分の頬を勢い良く平手打ちにした。彼も自罰意識が高過ぎるタイプだったのか。乾いた音に、待機している聖女と魔導師たちの視線が集まった。


「いけませんよ、サミア様。こんないたずらをされては困ります」

「ごめん」

「王女殿下の名誉に関わりますし……」


 そう言いながら、マルクスの顔は平手打ちのせいだけではなく赤くなってきた。私が頼んだのは丁度、カタリーナがランプで寝衣を透けさせていた辺りだ。


「カタリーナに頼まれたんだ、マルクスに意識されたいらしい」

「はっ?」

「じゃあ、私はみんなを連れて病院に行ってくる。続きは後で話そう」


 彼の情緒をすっかり乱すことに成功し、私は早足で出発することにした。カタリーナは、マルクスを一方的にこそこそ見てきただけで、接点はないそうだ。なので、まずは今日一日くらいはカタリーナのことを考えてもらおうという作戦だった。


「さあみんな、病院に行こう」


 私は聖堂の真ん中の通路、身廊をすたすたと歩く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ