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国王の秘密

「とりあえず、私の無事を知らせよう。どうしようかな、服がいまいちだから、やっぱり向こうから来てもらうか」


 離島住まいは、町に出るにはおしゃれしなきゃいけないという謎の心理を生む。


 私は土の精霊を呼び出して、今いる離島から向こう岸の浜辺までの橋を作り出すよう指示をした。


 土を海水よりかなり高く隆起させ、圧縮して硬い岩石にしてから脚部に等間隔で、アーチ状の穴を開けた。完全に塞き止めてしまうと海水の流れが変わって漁業に迷惑をかけてしまうからだ。折角なので古城にあったレリーフの模様を参考にし、美しい橋を作り出す。


「どうだ? 寝坊こそしたものの、私は約束通り3倍くらい魔力が強くなった。強さっていうのは破壊だけじゃなくて、創作もできるんだ」


 私は誇らしい気持ちで、ちょっとふんぞり反ってシウに自慢した。


「うん……すごすぎ。本当に神の領域じゃん。魔法でこれだけ緻密に橋を作れるなんて有史以来、こんな人いないよ」


 シウは白い波しぶきで輝く橋を見つめ、熱っぽい息を吐く。でも私の予想と違って、こんなすごい奇跡を見たというのに激しくドキドキはしていないようだった。さっきの私の裸の方が反応が大きかったかもしれない。だからって、もう見せる気はないけど。


「ふん」

「な、何で怒ってるの?」

「別に」


 私がこちらに来るよう手を振っていると、作った橋を恐々と通って、ゴブラン公爵の騎士たちが数名やってきた。多分初めて顔を合わせる。


「ご足労かけてすまないな。私を探していたんだって? しばらく土の中で眠っていたが、私はこの通り、健在だ」


 彼らに向かって私は堂々と胸を張る。


「あなたがサミア嬢ですか? 我々は、保護すべきは10歳の少女と聞いておりますが、そう見えません」


 騎士たちは互いに目を見合せ、一番年嵩の男が代表して質問をしてきた。


「ああうん、女の子っていうのはちょっと目を離すとすぐに成長するものなんだ」

「……」


 私の気の利いたジョークに、騎士たちはお愛想程度の苦笑いをする。ノリの悪い騎士たちだ。


「なんと言おうが、私がサミアだ。土の中に消えるような私に、常識的な成長を求めないで欲しい。それにこの通り、珍しい桃色の髪に水色の瞳だろう?」


 さらっと髪の毛を靡かせ、得意じゃないが愛想笑いをした。こっちの方が意外と効果的だったらしく、騎士たちの雰囲気が一気に和らいだ。


「そうですね、髪や瞳の色の特徴は合っています。では、サミア嬢。我々と共に来て頂けますか?」


 私の規格外の魔力を欲しがった国王が、外国の王子であるシウに渡さないよう動き出した話は聞いていた。もちろん、従うつもりはない。


「悪いが行きたくないんだ。国王に伝えてくれ。私は……セシオンの生まれ変わりだ。親愛なる国王の変わらぬ健康を祈っている。どうか私の好きにさせて欲しい、と」


 本当はセシオンの生まれ変わりじゃないが、それを言うつもりはシウがいる限りなかった。本当のセシオンはどこにもいないし、シウの心を傷つけるだけだから。


 そしてシウがはったりで言ったらしい、セシオンが握っているゼイーダ国王の秘密だが、実際にあるものだった。彼の考え方を熟知しているからこそのはったりだったのだろう。


 人嫌いのセシオンは、例え王族にでも口出しされたり、行動を抑制されることを嫌った。だから各国の王族の弱みはちゃんと握っている。


 これをチラつかせれば、私の意思に反して強権を振るうことはないだろう。


「はっ。申し伝えます。またお会いすることもあるかもしれませんが、一先ず失礼いたします」


 騎士たちは私の伝言を届けるために、橋を通って帰っていった。ついでに、シウの提案で既製服を数着と、服飾師を連れてきてもらえるようおつかいを頼んだ。確かに、私のちゃんとした服は早く欲しい。


「サミアが戻ってきたら、ダニーロが腕をふるってご馳走作ってくれるって言ってたよ。服が届いたら、夜には食べにいけるよね」

「それは楽しみだな」


 シウは私に、用意していたというチェリーパイや洋梨のタルトを出してくれたので、とりあえず紅茶を淹れて腹ごなしをする。空腹は感じていなかったが、胃も成長したのか食べ始めたらいくらでも食べられる。甘さが体に染み渡るようで、ものすごくおいしい。私が食べている間、シウはニコニコして見守っていた。


「小さいサミアのままのイメージで用意してたけど、今も甘いもの好きなんだ?」


 シウの何気ない質問にハッとして、私は動きが止まる。そういえば、セシオンは甘いものは出されれば食べる程度で、私ほど大好きじゃなかった。


「か、体が変われば食の好みも変わるんじゃないか? シウだってそうだろ」

「そうだよね。いっぱい食べて」


 適当に誤魔化すと、シウは納得したようで私のお皿に追加のチェリーパイを乗せてくれた。チェリーの魅惑的な赤黒い果肉の下から、とろっとしたカスタードが早く食べてとばかりに垂れていた。


「サミアはすごくきれいになっちゃって困るなあ。あの騎士たち、サミアのことすごいじっと見てたよ」

「それは誰でも見るんじゃ?」


 私は失踪してたかと思えば、子どもから大人一歩手前まで急成長を遂げた何者かわからない人物だ。本当に人かどうか、私にさえわからない。悩んでもどうにもならないので、深く考えていないけど。


「ところで、ゼイーダ国王の秘密ってどんなものなの?」


 私が紅茶の2杯目を淹れようと席を立ったところで無邪気にシウが質問をしてきた。私は苦笑する。


「別に、ただ国王の病気を治してやっただけだ」

「どうしてそれが秘密なの?」

「それはな」


 ポットにお湯を入れ、私は席に戻る。


「王族に良くある下半身の病気だったからな。場所が場所だけに恥ずかしいんだろう」

「えっ?!」


 シウがショックを受けたように、顎を落とした。シウもクロドメールの王子だから、不安にさせてしまったかなと私は説明を続ける。


「王族だからというか、職業的に王様は座りっぱなしだから、鬱血が続いて発症する病気だ。早いうちにその辺の聖女に頼んで治してもらえば良かったのに、恥ずかしいからと隠す王族が多い。当時の国王はまだ若かったしな。だが怪我や病気は、発生してからなるべく早く治さないと治療が難しくなる。あれはかなり進行してたし、私以外には無理だっただろうな」


 勇者セシオンは、世界一の回復魔法の使い手でもあった。更に、患者の恐怖心を和らげる錯乱魔法、痛みを知覚させない麻痺魔法、施術中の出血を減らす炎の刃など回復以外の魔法を同時に駆使することができた。


「つまり……見たの?ゼイーダ国王の下半身を?」


 シウの紺碧の瞳は恐怖に見開かれ、眉は苦痛に歪んでいた。


「見なきゃ治療は出来ない。医療行為だ」

「わ、忘れて!! サミアにそんな記憶があるなんてやだ!!」


 シウは白銀の髪をかき混ぜ、頭を抱えた。もしかしなくても、嫉妬している。なお、ゼイーダ国王に限らず偉大なセシオンは多くの男女を治した。でも純粋な医療行為であり、今後、ほかの誰かの治療に役立てられるから私はこの記憶は大事にしたい。


「シウも、将来的に王になるのなら気を付けた方がいい。もし病むことがあったら、早めに私に教えてくれ」


 それはそれとして、シウをからかうのが面白くて私は口元が吊り上がるのを感じた。


「ならない! 僕は王になんてならない!」

「じゃあ弟君にこまめな運動を忠告してやるように。私はシウの弟君の治療はしたくない」

「サミアにそんなのさせないよお……」

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