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ゴブラン公爵邸へ

 シウと取り留めのない会話をしているのも良いが、今のうちにこちらも作戦会議をしないといけない。


 私はシウの袖を引っ張り、身を屈めさせた。シウと私の身長差はえぐいもので見上げてばかりいると首が痛くなってしまう。


「これで白竜とデニーロの縁は繋がった。今後は度々会うようになるだろう。そうなると、いずれ公爵に見つかるな」

「うん、嫌がらせに不当な逮捕とかするかも」

「だからシウ、お前の王子の権力を使って公爵と交渉しよう」


 公爵は白竜の力を恐れて、領民が近付かないように手を回している。7年も前から拗れ続けている部分を、ほぐしてやる必要があった。


「なるほど。サミアは思慮深いねえ」


 私の計画を聞いたシウは、誇らしげに頷いた。




 その夜、寝ているときにまたも魔王兵の巨人は地面から現れた。寝台に響く地鳴りと、古城の一部が破壊される音で目を冷ます。でも今夜は来て欲しかったので、願ったり叶ったりだ。


 私とシウ、それから白竜にも協力してもらって、わざと私たちの姿が町人に目撃されるよう、派手に巨人を倒す。光の精霊に踊ってもらい、風の精霊に雷を落としてもらい、盛大なショー状態にした。



 翌朝は何食わぬ顔で町へと赴き、昨日テーネスについて聞き込みをしたご婦人方に囲まれたりする。


「ちょっと!」

「見たわよ昨日! あなたたちが白竜を従えて巨人と戦ってたわよね?!」

「旦那の望遠鏡を借りて見てたのよ! あんなに強くて、一体何者なの?」


 婦人方の勢いに押されることなく、シウは愛想よく微笑んだ。基本的にシウは人に構われるのが好きだから絶対楽しんでる。

 

「かわいい奥様方、実は僕、通りすがりの王子なのです」


 キャアッと歓声があがる。王子というのはジョークと取られて信じてもらえてないようだが、事実だ。――それはともかく、シウは女好きな気がする。女性なら誰にでもかわいいって言うのか?


 シウは私の内心のもやもやに気づきもせず、打ち合わせ通りの台詞を役者のように語る。


「昨日、テーネスを探していると僕は言いましたが、本当は白竜が探していたのです」

「ああその人、あちこちに聞いたけどそれらしき人は見つからなかったのよ」

「ええそうでしょう。料理人ではなかったようです。でも、デニーロの息子ということが判明しました」

「あら、デニーロっていったら丘の上の人気レストランの……」


 それからシウは、テーネスと白竜の間にあった出来事を語った。


 白竜とテーネスに親交があったこと。白竜は、テーネスの仇討ちとして旧公爵城を襲ったこと。


「そうだったのね。あのテーネスは無職の穀潰しだとばかり思っていたわ」

「まさかあのテーネスが、反乱戦争を終わらせるきっかけになっていたなんて……」

「そう、神のご意志かと思ってたけど、白竜の私怨だったのね」


 婦人方は、熱心にシウの話を聞いてそれぞれの感想を持ったようだ。


 私は白竜が公爵城を襲ったことの善悪については、問うても仕方がないと思っている。ただ、あったことは事実として正しく認知されるべきだ。その上でどう思い、どうするかはこの地に住む人に任せたい。


 そうやって私たちは昨日話しかけた人全員に、同じように話をした。ほとんど話好きなご婦人だったので、噂はすぐに広まるだろう。


 そのまま数日待つと、計画通りに私とシウは公爵の部下に囲まれ、公爵邸へと案内された。噂は首都にいた公爵の耳へと届き、わざわざこちらにやって来たらしい。


 新しく郊外に建てられたという公爵邸はどこもかしこもピカピカと輝き、調度品や内装は豪華を極めていた。


 応接室に通されてしばし待つと、ゴブラン公爵が現れる。7年前に殺されたゴブラン公爵の甥に当たるらしい。彼は30代半ばと見え、軍人のように体格が良かった。


 付き添っている侍従が私たちに一度席を立つように促すので、面倒だが従う。


「コスタンテ・デ・ゴブラン公爵様であります」


 侍従の紹介に私とシウはとりあえず礼をする。貴族や王族との付き合いはセシオンの記憶にあるが、何せ偉大な勇者セシオンなので適当にやってた記憶しかない。おまけにスカートをつまんで膝を曲げる女性の礼はうろ覚えなので照れくさかった。


「僕はクロドメール王国の王子、アンブロシウス・ゲルト・クロドメールです。本日はゴブラン卿にお会いできて光栄です」

「……」


 私は長い名前がないので名乗りはやめて、曖昧に笑っておいた。公爵も子どもである私より、他国の王子と名乗るシウに目を見開き戸惑っている。クロドメール王国は、この国より国土も広く人口も多い大国だ。


「真偽を確かめたいのなら、どうぞ。ここは港町ですから、クロドメールの領事館もありますし」


 シウは何気ない動作で、いつの間にか嵌めていた金色の大きな指輪を取り外して侍従に渡した。何か紋章とかあるんだろう。それは別の人に渡され、少し慌ただしくなる。


 その中にあって、ゴブラン公爵は深呼吸をして厚い胸板を膨らませ、落ち着きを取り戻した。


「なんと、伝説の白竜の生まれ変わり、竜騎士と名高いアンブロシウス王子でしたか。こちらは部下からの伝え聞きであったもので、部下の非礼を御詫び致します。どうぞおかけになって下さい」


 本物として扱うことに決めたらしい。もし偽物でもその方が合理的なので、英断だと思う。


「殿下はこの数日、かねてより我が公爵城に巣食う白竜と親しくしていると聞き及んでおります。やはり白竜の生まれ変わりともなると、意気投合してしまうものなのですか? 更に町民に、特定の意思を持たせるような噂話を流布しているようですがあれはやめて頂きたい」


 全員がソファに腰かけてから、ゴブラン公爵はシウに話しかける。私は眼中にないようだ。お茶が運ばれてきたが、私にはジュースだった。


「殿下も将来は国を治める立場になるお方、法律で取り締まれもせず、税金も徴収できない存在がどれ程厄介か、ご理解頂きたいですね。出来ますれば、白竜に立ち退くよう説得願いたいくらいです。白竜に睨まれているせいで、あの地帯はずっと税率を下げたままなのです。港の整備や、護岸工事もままなりません」


 たまたま公爵の座に就いた現ゴブラン公爵だが、それなりによく喋れるやつなんだなと私はシウの発言を待つ。見上げたシウは、どこか挑発的に薄く笑っていた。馬鹿にされたと思ったのか、ゴブラン公爵は頬の筋肉をピクッとさせた。


「ゴブラン卿がどれだけ広く土地を所領しているか、僕は知っています。はっきり言って今の税率でも統治に影響はないでしょう。個人的な恨みをもっともらしく語られるのですね」


 ゴブラン卿は頬の筋肉をもっとピクピクさせた。


「私は伯父上を殺されたのです、白竜を恨んで当然でしょう! それとも、殿下は野蛮な竜の心を捨てきれないのですか?!」

「あなたの伯父に殺された領民がどれ程いるか、ご存知でしょう。公爵が自領民を殺すことは野蛮ではないのですか?」


 シウとゴブラン卿は、言語と視線で殴りあっているが、シウの方が優勢に感じた。余裕の笑みを崩さないまま、シウは肩をすくめる。


「不毛な水掛け論はこのくらいにして、私は提案をしたいと思います。簡単なことです」

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