子犬のコロと動物サンタ
お子様へ読み聞かせられるお話を意識しております。
子犬のコロは散歩が大好きです。
今日も広場を目指して元気に散歩に出かけます。
「今日も寒いなぁ。……あれ?」
コロはある家の前でピタリと足を止めました。
その家の庭先には、昨日までは無かった大きなモミの木が飾られていたのです。
「またキラキラの木が増えたんだ。何なんだろう? 不思議だなぁ」
コロは町の様子が今までと違う事が不思議でなりません。
最近はどの建物も綺麗な看板や旗が飾り付けられているし、街灯や木はキラキラ光るライトが巻き付けられているのです。
おまけに皆ニコニコしています。
鼻の頭を赤くして駆け回る子供たちなんて、いつもに増して楽しそうに見えるのです。
「皆どうしたんだろう。何か良い事でもあるのかな?」
コロが不思議がっていると、塀の上から声をかけられました。
ネコのミーミです。
「あら、子犬のコロ。不思議そうな顔してどうしたの?」
「ボク、どうして皆が楽しそうなのか分からないんだ。町がキラキラなのと何か関係があるのかな?」
「あら、それはクリスマスが近いからよ。クリスマスになると人は町をキラキラにして、楽しく過ごしたり、サンタさんからプレゼントを貰ったりするのよ」
「そうなんだ。でも、サンタさんってだぁれ?」
「赤い帽子に赤い服を着た人らしいわよ。ほら、最近あちこちで見かけるでしょ? たぶんあの人達よ」
言われてみれば確かに、最近赤い格好をした人をよく見かけます。
コロが先ほど通り過ぎたケーキ屋さんの前にも、赤い三角帽子に赤い服を着た男の人がいました。
彼がサンタさんなのでしょうか。
「どうしてサンタさんはプレゼントをくれるの?」
「さぁね。そこまでは知らないわ」
ミーミはヒラリと塀から飛び降りて、コロと並んで歩き始めました。
「分からない事はジョンじいに聞きに行きましょう」
「そうだね、そうしよう」
ジョンじいはパン屋さんで飼われているおじいさん犬で、皆が知らないような難しい事を沢山知っています。
ジョンじいならサンタさんの事を教えてくれるかもしれません。
「ねぇジョンじい。サンタさんの事を教えてよ」
「サンタさんはどうしてプレゼントをくれるのかしら?」
コロとミーミの質問に、ジョンじいはモサモサの長い毛を揺らして答えます。
「ワシもよくは知らんが、サンタは誰にでもプレゼントをくれる訳ではないぞ。一年間、良い子に過ごしていた子供だけがプレゼントを貰えるんじゃ」
「そうなんだ! 教えてくれてありがとう!」
「さすがジョンじいね。それにしても、良い子に過ごしていた子供だけにご褒美をくれるなんて、サンタさんって良い人なのね」
「ボク、良い子に出来てたかなぁ? なんだかドキドキするね」
「あら、コロも私も、いつも良い子だもの。きっとプレゼントを貰えるわよ。今からサンタさんへのお礼を考えておきましょう」
ブンブン、ユラユラと嬉しそうに尻尾を揺らすコロとミーミを見て、ジョンじいは言いにくそうに口を開きました。
「待て待て。残念じゃがのぅ、サンタがプレゼントをくれるのは人間の子供だけなんじゃよ」
「そんなぁ」
折角サンタさんとお友達になれると思ったのに、ガッカリです。
しょんぼりと耳と尻尾を垂らすコロを見て、ミーミは「そうだわ!」と明るい声を上げました。
「人間のサンタさんがダメなら、動物のサンタさんに会いましょう」
「動物のサンタさん?」
首を傾げるコロに向けて、ミーミは得意気に鼻を鳴らします。
「そうよ。コロは犬のサンタさん、私はネコのサンタさんを探して、プレゼントを貰うの。じゃないと人間ばっかりズルいじゃない」
「うーん、動物のサンタさんっているのかなぁ?」
ジョンじいも首を傾げています。
「ワシは知らんが、人間のサンタに聞けば何か分かるかもしれんのぅ」
「ありがとう、ジョンじい。早速聞いてくるわね」
ミーミがトトッと駆け出します。
コロも慌ててジョンじいにお礼を言い、ミーミのあとを追いかけました。
「あ、いたわ。人間のサンタさん」
ミーミが見つけたのはケーキ屋さんの前でケーキを売っている、赤い帽子に赤い服を着た若い男の人です。
コロとミーミは思いきって声をかけました。
「こんにちは、人間のサンタさん。ボクたち動物のサンタさんを探してるんだ。どこにいるか、知ってたら教えてよ」
「動物のサンタさん? 何の動物だい?」
赤い服の人は心当たりが無いようで、腕を組んで考え込みます。
「犬が良いな」
「ネコでも良いわよ」
目を輝かせる二匹に、赤い服の人は困ったように肩をすくめました。
「悪いけど、ボクは知らないなぁ。それにボクはサンタさんの格好をしてるけど、本当はケーキ屋の店員なんだ」
「そうなんだ」
なんと! 赤い服の人は本物のサンタさんではありませんでした。
ガッカリするコロのシッポを引っ張り、ミーミが次の場所へ促します。
「次はハクビシンに聞きにいきましょ。彼もかなりの物知りよ」
ハクビシンは夜の町を駆け回って生きている、たくましい情報通さんです。
コロとミーミが町外れの倉庫へ行くと、ハクビシンはスヤスヤとお昼寝をしている所でした。
二匹はハクビシンの茶色い背中をユサユサ揺らして起こします。
「ねぇ、ハクビシンさん。ボクたち動物のサンタさんを探してるんだ。どこにいるか、知ってたら教えてよ」
「ふわぁ……動物のサンタ、ですか? 何の動物でしょ?」
ハクビシンも心当たりが無いようで、大あくびをしながら目を擦っています。
「犬かネコが良いな」
「トリやネズミ、ハクビシンでも良いわよ」
期待に満ちた目を向ける二匹に、ハクビシンは申し訳なさそうに鼻をひくつかせました。
「悪いけど、知らないですねぇ。この町に動物のサンタがいるなんて話、聞いた事ないですよ……ふぁぁ……」
「そっかぁ」
よほど眠かったのでしょう。
ハクビシンはまたスヤスヤと眠ってしまいました。
やっぱり動物のサンタさんなんていないのかもしれません。
コロはだんだん悲しくなってきましたが、ミーミはピンと背を伸ばしていて全く諦めていません。
「次はカメ達に聞きに行きましょう。彼らはとっても長生きよ」
なるほど、とコロも真似をして背すじを伸ばします。
カメは昔から公園の池に住んでいて、特に昔話に詳しいのです。
コロとミーミが公園の池に行くと、何故かカメ達の姿が見えません。
一体どうしたのでしょうか。
二匹はサンタさんより先にカメ達を探す事にして、池の周りをウロウロとさ迷います。
すると頭上から声が掛けられました。
「おぉーい、カメさん達なら、今は冬眠中だよ」
「え、そうなの?」
教えてくれたのは公園に住む親切なハトでした。
冬眠中なら仕方ありません。
コロとミーミは気を取り直して、ハトに話を聞く事にしました。
「ねぇ、ハトさん。ボクたち、動物のサンタさんを探してるんだ。どこにいるか、知ってたら教えてよ」
「動物のサンタさん? 何の動物かい?」
ハトも心当たりが無いようで、フワフワにふくれた体をプルリと震わせます。
「何の動物でも良いよ」
「魚や虫でも良いわよ」
少し不安そうな二匹の様子に、ハトは悩みながら答えました。
「人間のサンタさんなら、さっきケーキ屋の前で見かけたよ」
「そっかぁ……」
これで振りだしに戻ってしまいました。
流石のミーミもこれ以上はもう、動物のサンタさんを知っていそうなお友達は思いつきません。
「動物のサンタさん、見つからなかったね」
「こんなに探しても見つからないなんて、犬のサンタさんもネコのサンタさんも、どこにもいないって事なのかしら……」
今までの元気はどこへやら、ミーミはしょんぼりと肩を落とします。
コロは動物のサンタさんが見つからない事よりも、ミーミの元気が無くなってしまった事の方が悲しくなってしまいました。
「そうだ!」
コロはテテッと駆け出し、大切な宝物を隠している秘密の砂場に向かいます。
「あるかな、あるかな?」
ザクザク、ほりほり。
ザクザク、ほりほり。
「あ、あった!」
コロはある宝物を掘り起こすと、それを咥えてミーミの元へ大急ぎで戻りました。
「ねぇミーミ。ネコのサンタさんの代わりに、ボクがプレゼントをあげるよ。これ、前に見つけたボクの宝物なんだ」
コロが咥えていた宝物をミーミの前に差し出します。
赤色の可愛いリボンです。
「あら、ありがとう、コロ。とっても素敵なリボンね」
少し砂がついているけれど、ミーミは丸い目を更に丸くして喜びました。
「それなら私もコロにプレゼントをあげるわ! 少しだけ待ってて」
言うが早いか、ミーミはピューッと駆けて行ってしまいました。
プレゼントも嬉しいですが、コロはミーミがまた元気になった事の方がずっとずっと嬉しくて、シッポをブンブン振り回します。
ミーミはすぐに戻ってきました。
「はい、これ。犬のサンタさんの代わりに、私からコロにプレゼントよ」
「わぁ、ボールだ! ありがとうミーミ!」
ミーミが咥えてきたのは少しだけ空気の抜けた、小さな黄色いゴムボールです。
コロンと転がるボールを見て、コロはピョンピョン跳ねて喜びました。
「嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」
大はしゃぎするコロを見て、ミーミも楽しそうにシッポを揺らします。
「ねぇ、コロ。動物のサンタさんは見つからなかったけれど、私たち、結構良い子だったわよね」
「うん。たぶん良い子だったと思うよ!」
二匹は顔を見合わせて笑いました。
そして日が暮れるまで、二匹仲良くボール遊びをして過ごしたのでした。
ちなみにクリスマスの朝、コロの枕元にはピカピカの赤い首輪が、ミーミの枕元にはフワフワの猫じゃらしのオモチャが置かれていたそうですよ。
<おしまい>