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「はぁー、お前ってすっげぇモテるんだな...。」
「ぜぇ..ぜぇ......レ..オ........もな.....。」
駆け出したのはいいものの段々と後ろから着いてくる大勢の人、人、人。邪魔すぎる、なんなんだ一体!!
はじめは元気に駆け回っていた2人だったのだが段々と本気になっていき今はもう恐怖の鬼ごっこ状態...どこから回ろうかなんて話していた時には魚群になる過程を自ら体験してしまった。
そう忘れては行けない。今のこの街は他の魔法学園へ向かう者の溜まり場。リュゼ達と同じような学生が集い顔見知りを作る場にもなる時に大事なステージとなっている。...つまりはお偉いさんの取り巻きになるために媚びを売ったり、将来を考え顔のいい子(整っている子は大体魔力が高い)や将来安定な子(例えば宰相の子騎士団長の子など)が狙われる言わばコンカツ?みたいな一種の戦場となっております。
そんなところに、
「レオ!どこに行こうか?魔法具専門店?魔道図書館?それとも.....ちょっと待て、」
「どうした?」
妙に浮ついたような気配を多数感じぴたりと足を止めた途端周りが人で覆い尽くされる。
「は」
「リュゼ、」
ネギを背負ったカモが揃って出てきたら...?
さてここでリュゼくんとレオくんの姿を振り返ってみよう。リュゼくんは言わずもがな国宝並の美貌です。そして本人は知りませんが制服には実は貴族でも高いレベルでは無いと付けられない程の高価な装飾品がついております。大方髪色と目の色を変えたので少しは緩和されたとお思いですがちょこっと変えただけじゃ消えないオーラを背負っておりますどうぞ。
はい!次はレオくんの見た目です。リュゼくんとは違いこちらは野性的な魅力を持つ猛々しい目鼻立ちが良い男の子です。
レオくんは通常獰猛な熊のような睨みつけるだけですくみ上がってしまうだろうつり上がった目に燃え盛る炎のような赤い髪、オマケについた獅子のようにとがった歯、着崩した制服...怖そうな悪そうな破落戸と言って納得してしまうそんなナリをしております。
ですが今のレオくんははじめての魔法街でテンションが上がりペットにしたい可愛いわんこ系男子とやらに早変わり!そしてリュゼくんと同じ装飾品!...以上です。
...わんぱく少年に見えなくもない彼の行動は一周まわって人々の目を惹いている。
普段ならお行儀が悪いいただけない行動なのだが入学マジックッッ!心奪われ声をかけようと周りの子らは追いかけ始めた。
何やら自分たちでは立てられそうにないほどの足音に気づき後ろを軽く振り返ったら頃にはもう遅く王勢の下っ端貴族たちがキンギョの糞になっていた。疑問に思っても止まらなきゃ良かったなんて思ってももう遅くこの出来事はリュゼにとって少しトラウマになった。人間怖い、周り囲む人怖い、追ってくる人怖い...。
無事魚群から抜け出し、
そして冒頭に戻る。
「よし、しっかりと撒けたな...とりあえず一旦どっかで服変えようぜ、あとお前はついでにその顔隠す...うーん、そうだな仮面でも買っとけ...。」
「ぜぇっ、ぜぇ..ぜぇ.....仮面...お前...も..必要.......。」
息も絶え絶え答えることしか出来ないリュゼにレオは可哀想な目で見る。
「.....リュゼ、お前びっくりするほど体力ないんだな...。」
「...お..お前が.......規格外..........な...だけ..。」
そうとんでもないほど走ったのだ。
その後リュゼの息が整うのを待ってから2人はちょうど近くにあった服屋さんへ逃げはいった。店内に入ると近くにあったマネキンとトルソーが一礼し腕を奥に誘うように出し動き始め私達を案内してくれた。
一礼前、目と目(?)があった。
[いらっしゃいませお客様、どうぞ奥におはいりくださいませ]
店内はちゃんと整えてありシンプルかつ優美。まさに貴族御用達のお店、と言ったところである。客間に案内され座るソファは1級品。マネキンたちの手で出される紅茶も茶菓子もどれもが高品質。...オーダーメイド制も取り入れているだろうに店主はこの場にいない。それだけじゃないのだけれど違和感に他の気づけない。でもこれだけは言える、おかしい。
「レオ、なんか変だこの店。」
「同感だ、さっさと出よう と言いてぇがまた追われるのはもう勘弁だろ?囲まれるのには慣れてるんだが相手が悪ぃよな...蹴散らすにも蹴散らせねぇし」
「.......うん、もう嫌だ無理、ニンゲンコワイ.....」
私誰かを追ったことはあっても追われるなんてこと無いですし好かれる性格ではなかったので囲まれたこともない、はじめてだった、人に囲まれて身動きひとつ取れなくなるなんて。怖かった。レオが引っ張り出してくれなければ今頃クッキーのようにぺたんこになってしまってたわね。感謝するわ。
だから今後は私があなたが困った時どんな状況でも助け船を出してあげることにするわ。
「リュゼ...わかるぜ、わかるから落ち着けよ...。なあ、トルソーとマネキン。なんでもいいから俺らが着られる服ってねぇの?」
ソファの上に三角座りで縮こまるリュゼをみて背中をさすり落ち着かせてくれるレオ。
そんな怖いことあるって思うやつは1回体験してみろ!!あの血走った目、ギラギラ輝く肉食獣の目、神に擦り寄るような尊む目を持つものたちに追われ迫られ追い詰められ...。
ぞくり...
忘れよう。頭を振り記憶を吹き飛ばそうとしている間に大変優秀な2体の従者は例のごとく目で伝え、行動をはじめた。
[あります、少々お待ち下さい。]
レオが尋ねるとマネキンとトルソーは2人をじっくり観察し何かをお互いに情報交換したあと奥に入っていき
ガサガサガサッウワッオマエタチナニカッテニオイッッ...
ぽっぽーぽっぽー...
両手に いっぱい の服 を見繕って きてくれた!
「...さんきゅーな!」
「...ありがとう。」
両手でおさまるくらいを適当に持ってきてくれたのかと思ったのだが1回では済まずマネキンとトルソーが何回も往復し大きな山になってきた頃、このままじゃ雪崩が起きると思い服を2人で手当り次第手に取り見ていく。
「あーっと、どれがいいかな。」
「動きやすくて顔が隠れるやつ、隠れるやつ...。」
「お前これにしたらいいんじゃね?」
「お前はこれ、似合いそう。」
「でももう一味足りねぇな...」
「なあなあ!これは!?」
「うーん、って俺今男!なんでそんなん着ないといけないんだ!着る時はお前も一緒だ!さぁどうする...??」
「却下で!! というか今ってなんだよ」
おっとそれは野暮ですぜ旦那ァ...お口チャック。×
*-*ぽっぽーぽっぽー
「「決まったっ!!」」
鳩が再び鳴き出すほどの時間をかけ選び抜いた服を纏いお金を多めに払う、これは恥ずかしがり屋の店主さんへの気持ちだ。あとは長い時間居座ってしまった迷惑料...。まさかこんなに時間が経つのが早いなんて思わなかったわ。
残った服はトルソーとマネキンがまた両手いっぱいにし片付けていたのでもちろんその分も込みだ。
店からでて両手に袋状態になった2人は少し寄り道をしたあと看板に大きく書かれている仮面屋という文字につられではなくこの服の完成のため向かいこれまた時間をかけ逸品を選んだ。
な、の、で!今の服にピッタリの仮面となっております。
ピッタリピタピタ...。
今のところ入った店全てが変わっていて男児の男心を擽る。はじめは出てこない店主。
ここのお店のポリシーはこうだ。
っ!ここにない仮面はありません。
っ!ここには必ずあなたの求める仮面があります。
っ!仮面好きな人に悪い人はいません。と思いますがもし道を踏み外している人を見つけたのならば定員にお知らせください。
っ!仮面を愛し愛されましょう。そのあなたの仮面への信仰心が愛を育み新しい扉を開けることでしょう。
っ!返品不可です。
「うげ、仮面狂かよこの店主...」
しばらく吟味していたことで店主に熱意が伝わったのか途中で荷物を仕舞うためと準備を整えるための一室貸してもらえそこでお互いが持ってきたいわゆる収納鞄の中に着ていた服を詰める。更に今日が乗ってきたのかリュゼがレオに髪色を変える魔法と目の色を変える魔法を使いオッドアイの金髪に変え化粧を施した。...ノリノリである。
:お店から出てくる頃にはもう日が暮れていて生徒たちも宿に戻っているのだがそこは2人のために割愛しよう。
夕暮れが綺麗な時間帯になりつつある現在。その美しい風景と全くマッチしない珍妙な姿をした人達が歩みを進めていた。一歩一歩しっかりと歩んでいるせいかその特殊な靴からくっきりはっきりピコポコと音が鳴っており家へ帰る子供の興味を引く存在になっている。すれ違う大人は哀れみ懐かしみなど様々な瞳で写し去っていった。学生には当然蔑みの目を頂きました、っち...ありがとうございます。
当時旅芸人なんて貴族が思うにそう野良は乞食でしかなく平民にとっては普段では体験できない娯楽で人気だったのだが数が少なくなり今や知識あるものしか知らない職になっている。旅芸人といっても種類がありサーカス団系手品師系パフォーマンス系アーティスティック系の大きく4つありそれぞれ格差が大きい。この国だけの話なので他国に行くと話は大きく変わるが。とにかくこの国は衰退の一途を辿っている状態なのだ...戦勝国のはずなのに、解せぬ。
話は戻るが洋服を総とっかえした2人の姿は先の制服姿で出ていたオーラが微塵もなくなったのだがなんだろう、あれ想像してたやつとなんか違う。どうしてそうなった...!!
1人はティアドロップが描かれハートをモチーフにした複雑な模様が描かれたお面をして燕尾服のように後ろが長いジャケットとスラックス、ジャケットは半分ずつ柄と色が違い半分は黄色と青の水玉模様にもう半分は無地。スラックスは斜め半分に柄がついており白生地に黒のハーリキンチェック柄が足元から伸びている。革...では無いだろう変わった赤と青の尖った靴を履きペポペポ音を鳴らしている。どうやらあの傍から騒音の発生源がこいつだったようだ。
もう1人はダイヤモンドモチーフが描かれているまさしく道化のお面をしてこれまた同様色違いの服装だ。ひとつ違うのは靴。周りのことを考えてか単にダサいからなのかそれともサイズがなかったのか分からないが同じような靴なのに音がなることはなく代わりに先に丸い玉がついているものを履いていた。そして片手にふたつの荷物、多分自分の分と彼の分だろう。
そうもうわかっていただろうが2人はまるで道化師のような...ではなく道化師そのものの格好だった。
レオは陽気なピエロ、リュゼは泣き虫ピエロ。赤と青でペアルックのピエろ姿をした2人は揃ってのんびり歩くことに成功したのであった!
「おお!やったな!誰も俺たちに群がってこねぇ!」
「本当だなぁ...平穏ってこんなにも幸せなものだったんだなぁ...」
あぁ...どっかの年寄り爺さんみたいね。
「だなー。っはは!俺ら超間抜けな姿!」
「ふふっ、」
「...リュゼこれちょっと持ってろ、せっかくだから昔見たコイツの真似でもしてやるよ」
そう言ってひとつ荷物をリュゼに渡しもうひとつの鞄から大きな玉と小さな玉をあわせて7つ取り出すと本物の道化師のようにヘラヘラ間抜けさを演じジャグリングをはじめる。そしてフィニッシュ盛大に転ける。マヌケなピエロの役。悲しき主役になれないピエロ、なぞ微塵も感じさせない完璧なほど完璧に道化を演じれ本当に道化師を名乗れるだろうレオにリュゼは思わず吹き出して淑女らしからぬ笑い方で大っぴらに笑う。やっとちょっとすきっとした。
「っぷ...っっははは!お前最っ高!本職にも劣らないなぁ!あー、この国が敗戦でもした時には旅芸人としても暮らしていけると俺は思う!」
「それは褒めすぎだっての!それに縁起悪いこと言うんじゃねーよ!っにしてもまさか魔宝具なしで髪とか目の色変えられるなんて興奮したぜ!お前の特殊魔法すげぇな!」
魔法具で変えれるものに価値はない無駄だと思っていた、まさか喜んでもらえるなんてそして褒められるとなんだかむず痒い。
「そ、そうか?ふふふっ!よしじゃあ今日からレオは魔法愛好会副会長だな!」
「え、なにそれ」
「知らないのもしょうがない、だって俺一人しか愛好会メンバーはいないのだからな!!」
「そこは胸張れねーだろ!!なんで張ってんだ!!」
「貴族は虚勢を張った者勝ちだろ?だから今は無い胸張ってやる!」
「誰だよ!こいつに偏った教育したやつ!出てこい!!」
酒も入っていないし徹夜でもないなのに真夜中のようなテンションで話していると
「あの、すみません。」
何やら声がして1人の女が割り込んできた。周りにもたくさんの人がいるのになぜ我々ピンポイントに?疑問に思うが様子を見るに彼女はなんだか焦っていて何かを探すようにずっときょろきょろ視線を彷徨わせている。これは何かある、レオと視線を交え頷いたあとふざけていた気持ちを切り替えさっきの"泥酔風〜関わったらイケナイ人〜雰囲気"を全くなしにし紳士的に彼女に問うた。
「はい、如何なされましたか?」
「私の使い魔が居なくなってしまったんです、知りませんか?」