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「やっぱりすごい揺れだな」
赤髪の男...いやレオが乗っているので先程よりも少し速度を落として走っているのだがなにせボロッボロの馬車だ。がたっがたっなんて可愛い音なんかではなく軋むような1歩間違えれば解体されてしまいそうな酷い音になってしまっている。やはり1人増えたのが大きいのか1人で乗っていた頃よりも更に音を発していたのだ。
ギッシギッシガタタングォンボッコボコ。
「やばい、やばいぞ。聞いた事のない音を出し始めたぞ!これ本当に大丈夫かよ...」
しかしながらスフィアはそんなことは梅雨知らず増えたことによるもうひとつの問題に直面していた。
すしずめ状態になった。そこで直面する。それはスフィアには男性耐性がないということ。さっきのように会話などは普通にできるのだが顔が近いことやその男女の噂の火の元になりそうなことになると滅法弱いのだ。だが、ある程度仲良くなるとむしろスフィアの方が距離感に麻痺が生じてくるのだがそれはまだ先のことようだ。
だから、
「そっ..そ、うだな...さささっさと学園街までいってしまおうか、御者さん!もっと飛ばしてくれ!!」
「わかりました!!」
「!?おい!これ以上スピードだして無事につけるのかよ!?」
どもってしまうしとんでもない行動に出てしまう、もう壊れる寸前の馬車を更に走らせるなんて愚行をも。更に急に早くしたら何が起こるのかも考えずに、
膝が付く近さだった2人の距離が急発進により必然的に近くなる。
「ひぇっ」
「うおっ」
なんて情けない声だろう。自己嫌悪に陥りそうだ。姿が変わる前ですらこんな声出したことなどなかったのに、どこから出ているのだろうか?実は私の声ではないとか?
はっとなって顔を上げるとにやにやとした顔をした赤髪がこちらを見ており互いの目が合う、
「.........リュ.....リュゼくんよォ...なんだその声...っぷ.....っっあははははっ!!」
「っ...わ、笑うな!」
「むっ無理...あはははは!!」
「おい、「おーい!坊ちゃん方ー!魔法街が見えてきたぜましたぜ!」
いい加減笑われるのに耐えられなくなってきて少しお灸を据えてやろうかと思った頃、目的地に到着した。身を少し乗り出し窓から見る風景は不思議な門を通り抜けている途中だからか禍々しい雰囲気を放っている...とすぐ抜けたところに現れる様々な馬車。皆ここで馬車から降りて魔法学園へ向かうのだ。
「おー、おー!やっと着いたなっ!!」
止まった途端にご馳走を前にした犬のように飛び出していくレオ。きっと初めての魔法街にテンションが上がっているのだろう。...それか狭い中に閉じ込められている状態があまりにもストレスだったのだろう。自分で荷物をだして私を急かしてくるその姿はまるで洋服を買いに見知らぬ街へ繰り出す少女かはたまた変わったものをコレクトするため知られざる名店へ繰り出す男児の如く、付き合わされるこっちの身にもなってって、あ、まって、まだおじさまにお礼を言ってないわ。
「御者さんありがとうございました、そしてお疲れ様でした。あ、そうだ。レオ、ここでなら使ってもいいよな?」
血に濡れたハンカチを指さし示す。そして指を1本たててくるくる円を描く。それだけれ彼には伝わったようで
「お、おう...」
「じゃあ御者さん、今ハンカチお返ししますね。」
そういうとスフィアは何かを持つような仕草をすると唱えだした。
「venkellnny」
するとどこからともなく飛んできたのかと思ったが違う。光の粒子が集まりそれは手の中に突然現れたのだ。とても綺麗なそれはたぶんこれから起こすことに関係しているものなのであろう。あらそれすら見たことの無い御者のおじさまは驚きすぎて目を剥いている。これって寿命縮んでないかしら?うーん、先に説明すれば良かったかしら?
続けて唱える。
「Wasserlava」
先からキラキラとした水が出てきてハンカチを包み込みあっという間に新品同様に様変わり!あぁ、なんて魔法は素晴らしいのでしょうか!血なんて洗い落とすのはすごく大変...けれど魔法さえあればなんの問題もなし!まず前提として魔法を使うにはラナヴィという魔法を使うための器...?がないと無理なのですけれどね。それが貴族限定の器官であって平民で度々出るのは愛人の子だからだとかそんな事情知りませんわ。
「 Lacheloss」
手の中にあったものがまた現れた時と同じく一瞬で消えそこには綺麗なハンカチだけが残った。突然現れたり消えたりするものにおじさまは自分の目を疑うかのように何度も擦り必死に今起こった出来事を頭の中で整理しているらしい。目が上方をみてさまよっている。
レオは呆れたようにスフィアではなくリュゼを見つめため息を吐いた。
ここに足を踏み入れるまで家を出てから魔法を使うのを禁止されていたスフィアはひと仕事終わったかのように達成感溢れ、御者のおじさまにスッキリとした表情で渡す。
「はい、どうぞ。助かりました。」
「はへ.........?」
「あの、お返しします。」
おじさまがおじさまらしからぬ声で未知の単語を吐き出した。差し出したハンカチを受け取ってもらえず無理やり握らす。するとふへぇとらしからぬ声。あれこれさっきの私と同じ辞典に載ってる言葉では...?と驚くと出てしまう語に関心を持ったところで大きなため息を吐いたレオがスっと会話に入ってくる。
「はー、リュゼお前それを使うのはやりすぎじゃね?というかなんでもう持ってんの?」
「秘密。御者さんへの感謝から考えてこの位はまだ大丈夫だと思うけど」
それに細かい作業は使わないとできないしやろうと思ったら凄く疲れちゃうじゃない。落ち着きましょ?ね?
「いやいや、平民相手にはやりすぎだ。それにまだってちょっと自覚あるじゃねーかよ!!...俺以外の前でやるなよ?お前じゃなくてこの御者が狙われるぞ。」
「大げさじゃ」
「お前の領じゃそうかもしれないがもう郊外だ、その頭が飾りじゃないのならしっかり使えよ。」
はぁ、やれやれ。
啖呵を切ってくるレオを視界に入れないよう後ろをむく。
...そこまで言うことかしら?!こいつきっと友達1人も出来ないわ!ええ、ええ。絶対できない!!注意するにも言い方ってものがあるでしょ!?
ふー!ふー!冷静に、冷静に。今はリュゼ。誰も寄せつけないオーラを持つ男。すれ違ったら皆振り向く美男子。こんなことで怒っちゃいけない。落ち着くのだそう、落ち着け。
気持ちの整理が一旦ついたあとレオではなく御者のおじさまの方に向き直しきっちり45度上半身を倒す。
「......ふー、御者さん申し訳ない、あなたを危険に晒すつもりはなかったんだ。だからこのことは漏らさない方がいい。そしてお礼は言わないでくれ。」
そして次はレオの方をクルリと向き直し突きつけるように言葉を発する。
「それにレオ、忠告してくれるのはありがたいが言い方を考えろ、言い方を。俺は全く気にしないがほかの奴らは違う。ちょっと言動が気に食わないだけで悪戯に邪魔してくる。だからその言動が見た目とそぐようにしておいた方がいい。」
「は?そのままそっくりお前に返す」
「俺は別にいい」
この姿私のものじゃないですし。
「俺もだよ!!」
「...がははっ!!お前ら仲良いな!それにやっぱり言わせてくれ、ありがとな坊ちゃん!これで娘に怒られなくて済むし自慢もできるな!いいことずくめだこりゃ、ガハハハハッッ!!」
今まで惚けていた御者のおじさまが復活して大きな声で笑い始め幼児同士の睨み合いは終わった。なんでも前向きに考えられるところも素敵ですわ!おじさま!
機嫌が戻ったスフィアは少し浮かれている。
「うん...仲は悪くないと思います。だよなレオ?」
「お、おお。」(...今の流れでそうなるのかよ!?変なやつだなほんとお前ってやつは....)ゴニョリゴニョリ
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「さて、リュゼ。早速買い物と行こうか!」
「...?!」
てっきり現地解散かと思ったので驚いてしまった。ぽかんと口を開けて驚く私に彼は何も気に留めず建物を指さし腕を掴んで引っ張り始める。強い力...。ふむどうやら浮かれているのはお互い様だったようだ。先程の軽いジャブなど何も無かったかのように駆け足で2人は入学準備を進めるためと単純にここにしかない変わったものを探しにいくため入り組んだ魔法街へ踏み込むのであった。
前より読める文章になってると願いたいです