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オレはおっぱいを揉みたいんだ  作者: はれ
第一章 疑似おっぱい探しを始めようか
2/49

1 デブの腹はおっぱいの感触に似ているらしい

 ――あまり広いとは言えないが、その部屋は中々居心地が良さそうに見える。奥に見える二つのベッドはシーツが綺麗に広げられていて、手前にある整理された学習机は鮮やかな黄土色を放っている。部屋の中には一つもゴミが落ちておらず、部屋の持ち主の管理がしっかりしていることが分かる。部屋のど真ん中に置かれた卓袱台も同様に黄土色をしているが――その卓袱台の上には、穂杖をつく人間の肘が置かれていた。

 

「飯、まだか?」


 そんな部屋に響き渡る、男の声。その声は淀みがなく、通りやすい澄んだ声をしていた。

卓袱台に肘をついていたその男の前髪は目元まで伸びており、髪の間から少し目つきの悪い双眸がギラリと光を放っていた。

 とはいえ、そこまで厳しい印象は持たれないであろう見た目の男であった。


「オマエは親父か。もうちょい待てよ」


 その言葉に返された――これも男の声――は、悪い言い方をすれば荒々しく、少し悪ガキっぽい雰囲気を持っていただろうか。口調も、品があるものとは到底言えないだろう。

 

「――よしっ、出来たぜ!」


 その会話からどれほど経っただろうか。また悪ガキっぽい声が響き、部屋の手前側の奥――キッチンから、その声の主が皿を抱えて卓袱台に近づいてきた。

 その男はくせっ毛をそのままの形で放置しているが、顔の形自体は整っている男だった。

 そんな様子を見たもう一方の男は肘を卓袱台から離して、皿が来るのを今か今かと待ち望む。

 悪ガキっぽい声の男は、皿の中身がこぼれないようにそーっと卓袱台に置いて、これまた悪ガキのような笑みを浮べて、こう言うのであった。






 「丸いオムライスが二つに、その頂点に置かれたケチャップ――おっぱいオムライスの完成だ!」

 「食べ物で遊ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――っ!」




 

 

 

 ************************


 

 

 ――俺の名前はライタ。多分、普通の大学生だ。

 ただ、行きたい大学が実家から結構離れていたので、大学が管理する住処――要は寮に住んでいるわけだ。

 この寮は貧乏人のためにあるので、ちょっと狭いし、同居人と一緒に生活しなければならない。

 で、その同居人こそが――


「なんだよ。確かに形は卑猥かもしれないが、味は保証するぜ?」


 とぼけた顔でそう言いながら、俺にスプーンを渡してくるくせッ毛で悪ガキのような声。そしてイタズラが好きそうに見える物の、整った顔を持った男。その名も(アキラ)である。

 この寮には食堂があって、普段はそこで飯を食っている。が、一週間に一日食堂がやっていない日があるため、その日は彰が二人用の飯を作ってくれるのだが……

 彰はあろうことか、二つにわかれたオムライスが乳房の膨らみ、その二つの山の頂点にちょっとだけトッピングしたケチャップが表す乳首――要は胸の形を模したおっぱいオムライスなんてゲテモノを作りやがった。

 

「こんなもん見たら食欲が失せるだろ。見た目も料理の一部じゃないのか」

「ま、ま、そういう事言わずに食えって」

 

 彰にすすめられたので、俺は溜息を付きながらオムライスの山をスプーンで崩す。スプーンに再び卵と米の山を作り出し、その山を口に運ぶ。ふんわりとした卵と、熱くてほろほろのお米。――うまい。悔しい事に美味い。

 知っていたことだが、彰は料理が出来る。ちなみに勉強も出来る。ついでにいうとスポーツも出来る。ちょっとイタズラ好きな所はあるが、性格も悪くはない。

 ――ただ、一つの度し難い性癖を除けば。


「はぁ。お前はおっぱい好きのアピールさえなければ、料理は上手くて、勉強が出来て、運動も出来る凄い奴なんだけどな。そのおっぱいだけでそれ以外が死んでる」


 俺が溜息を付きながらそう言うと、彰は俺にビシっと指を立ててこう返した。


「おいおい、オレからおっぱいを無くすなんて、乳輪のない乳首みたいなもんだぜ?」

「例えが意味不明だけど言わんとしていることは分かったよ」


 俺は呆れた声で返しながら、彰という男の人間性を再確認する。


 ――手短に言うと、彰はおっぱいが好きだ。

 

 手短に言い過ぎた。


 もうちょっと具体的に話すと、おっぱいが大好きなのはまだ許容できても、それが普段の言動や行動に出てしまうのが問題なのだ。

 外出したら待ちゆく女の人の胸を凝視する事なんて序の口。おっぱいを見るために女性専用車両に乗った――わけではないが、その隣の車両に陣取った事もあった。

 更に、本人はそれを周りの人間にアピールしてくる。さっきのオムライスもその一部だ。この前はゆで卵を二つ乗せた、おっぱいラーメンなる料理を出してきやがった。

 そんなおっぱい好きの成果が出たのか、最近は服を見るだけで胸の本当の大きさが分かるようになったらしい。

 そして、そんな彼のおっぱいアピールに付き合わされるのは、大抵同居人の俺なのである。


「ほんと、おっぱいが好きなのは分かるから、それを胸の内に隠してほしいな……」

「おっぱいだけに胸の内ってか。上手いな。ライタ!」

「うっせえ! ……ご馳走様。美味かったよ」


 俺は皿を持ってキッチンに向かい、流しに皿を置く。あとは水に漬けておけば彰が洗ってくれるだろう。

 さて、飯も食い終わったし、携帯機でゲームでもするか――そう思ってリビングに戻ると……


「……何してんの?」


 何故か彰がキッチンの方角――つまり、俺に向かって土下座をしていた。

 おっぱいで満たされた頭お花畑ならぬ、頭おっぱい畑の彰が遂におかしくなったのかと、俺は心の奥でちょっとだけ心配した。おっぱいで言うならBカップくらい。

 

「オレの同居人且つ、オレの親友であるオマエに、折り入って話がある」


 ――嫌な予感がする。

 彰が改まってくるなんて、ろくでもない話をする前兆に違いない。

 多分、「明日、おっぱいの感触を調べに行こうと思うんだ」とか言い出してくる気がするぞ。

 ま、まぁ、俺の予感は大体外れる。確率としてはGカップのおっぱいが生まれる確率くらいだ。だから大丈――


「明日、おっぱいの感触を調べに行こうと思うんだ」


「Gカップゥゥゥゥッ!!!!」


 


 ************************



「いいか、オレたちには彼女がいない。ので、本物のおっぱいを揉むのは今の所不可能だと言っていい」

「そりゃ日頃からおっぱいおっぱい言ってるお前は彼女いないだろうな。あと俺『たち』って勝手に俺を彼女いない組みに入れるな。いないけど」

「そこでだ。本物が揉めないなら、似た感触のものを揉めば疑似おっぱい体験が出来ると思うんだ」

「思わない。全然思わない。思わない度数で言えばお前がI don't oppai って言っても信じないくらいには思わない」


 彰の話を聞くに、どうやら彼はやっぱりおっぱいが揉みたかったらしい。

 だがこんな奴におっぱいを揉む権利は訪れないため、疑似的なもので――例えはウナギの代用食品としてナマズの蒲焼きという商品があるように、『おっぱいっぽい感触の物を揉む』ことでおっぱいの感触を知りたいそうだ。

 別におかしな話ではない。彰ならこれくらいは言ってくるだろう。問題は――


「なんでそれを俺に話すの?」

「無論、オマエも明日オレと付き合うからだ!」

「断る!」

「即答かよ!」


 当たり前であろう。別におれはおっぱいが好きでな――まぁ好きかもしれないが、別に彰ほど好きではない。付き合う理由など何一つないのだ。


「フッフッフッ。断るなら別にいいんだぞ~? ただ、断った場合……明日から金輪際、オレは家事をしないがな!」

「なぁ!?」

 

 実はこの部屋、料理を始めとした家事の全ては彰が受け持っている。これは本人がやりたいと言っているので甘えさせてもらっているのだが、こんな所でそのカードを切ってきやがった。

 ――実は何度かこのカードを切られたことはあるのだが、多分断っても彰は家事を辞めないだろう。だが、拗ねてしばらくの間サボる可能性はある。普段からヒモ生活が滲んでいる俺はそれすらもキツイので……


「あー分かった分かった。明日付き合えばいいんだろ。はいはい」


 こうして折れるしかないのである。断じておっぱいの感触が気になるからではない。断じてだ。

 そんな俺の返答に、彰は右手でガッツポーズする。


「いいいぃぃぃよっしゃあーい! これでオレだけ補導される運命を免れたぜ!」

「そんな事で俺を付き合わせるつもりなの!?」

「てなわけで、バス(風呂)とシャワー浴びて来いよ。胸だけに」

「うっせえ!」

 

 彰に牙を剥いてから、俺は脱衣所の扉を閉め――ようとした所で、俺は彰に向かって振り返った。


「ほんとお前、おっぱい好きだな……」

「おう! オレのおっぱい好きはおっぱいにも届くほどだぜ!」

「それじゃあ一生訪れませんね、どんまいちゃんこ鍋」


 俺は呆れかえって、風呂に浸かって寝る事にした。

 

 ――後々俺は、この時の事を後悔する。というか、もう後悔したような気もする。

 なぜなら、この彰という男に――俺は永遠と振り回される運命なのだから。


 



 ************************






「という事で、まずはデブの人のお腹を揉むところから試してみようと思う」

「初っ端から問題起こしそうな計画をどうもありがとう」


 ――翌日、俺たちは隣室に住んでいる、有泉君の部屋の前に立っていた。

 有泉君はこの寮一のおデブちゃんで、朝食にポテチを三袋消化する猛者なのだが、彼のお腹がおっぱいの感触に似てるのではないかと彰は予想したのだ。

 ――はっきり言って、発想が貧弱だ。Aカップと言って差し支えないだろう。


「という事で、有泉の部屋のインターホンを鳴らしたんだが……」

「部屋から出てこないな……彰。俺はまだ寝ていると予想するぞ」


 というのも、今は朝の七時なのだ。休日ではこの時間帯に寝ている人も多いだろう。俺も九時くらいまで寝ていたかったのだが、ウキウキして一睡も出来なかったらしい彰に起こされた。


「オレもそう思う。仕方ねぇな。ちょっと待ってろ」


 彰はそう言うと、一度俺たちの部屋に戻って行ってしまった。

 かと思っていたら、すぐに彰は戻ってきたが、その手には何かを持っている。それは――


「……マシュマロ?」

「いや、おっぱいだ」

「マシュマロだよな」

「いや、おっぱいだ」


 …………


「おっぱいだよな?」

「いや、マシュマロだ」


「――殺す! 今この場で貴様を殺す!」

「プッ……クッハハッ! からかい甲斐があるなぁ」


 割と本気で彰に殴りかかる俺に対して、彰はするすると俺の拳を避ける。

 クソッ――相変わらず、すばしっこい奴だ。


「まぁそれはそうと、こいつは百均で買ったマシュマロだ。これを使って……」

 

 彰はそう言いながら、有泉君の部屋のドアの前に立った。そして左手でマシュマロを持ち、右手で片方足りないメガホンを作ってから――


「有泉! マシュマロ食うか!」

「食うぞぉ」

「すげぇ、三秒で出てきた」

 

 彰がマシュマロ持って呼びかけただけで、ドアが猛スピードで開き、巨大な体を窮屈そうにしながら有泉君が出てきた。

 有泉君はマシュマロを受け取って、袋を開いて一つずつ丁寧に食べていく。図体と食欲の割には律儀な食べ方だ。


「おはようだ有泉。んで、お願いがあるんだが?」

「お願ぃ? マシュマロ食わせてもらってるから大抵の事ならやってやるぞぉ」

「良い奴だなオマエは。んじゃ遠慮なく言わせてもらうぜ。――オマエの腹を、揉ませてはくれないか」


 改まって言うような事かよ。と俺は心の底から思った。


「そんなことでいいのかぁ? 別にいいぞぉ」

「マジで!? 本当にいいのか!?」


 そんなに喜ぶような事かよ。と俺は心の底から思った。


「マシュマロ食わせてもらったしなぁ。ほい」


 有泉はマシュマロを頬張りながら、ダルダルのTシャツの裾を捲り上げた。すげえ。四段腹だ。

 そんな四段腹を見て、彰はおそるおそる、右手を近づけていく。


「い、良いんだな。触るぞ。いいのか」

「いいからとっとと触れ」


 彰の手が伸びて行って……有泉君の腹に、触れた。

 それから感触を確かめるように、モニッ……と、その腹を揉む。二度、三度と。


「お、おお……」


 そんな感動するような声を漏らすことはないだろ。と俺は心の底から思った。

 ていうかこいつはデブの腹を胸の感触だと思って触ってるのか。やばいな。


「おい、ライタも触れよ。超絶気持ちいいぜ」

「……まぁ、いいけど」


 俺は彰に拗ねてもらいたくないので、腹を揉みに行く。繰り返す。彰に拗ねてもらいたくないからだ。

 有泉君の腹に向かって、俺は普通に手を伸ばす。で、触る。そして揉む。


 ――モチモチとやわらかい感触が、俺の手に伝わってくる。それこそ彼が今も食べているマシュマロのように柔らかいが、弾力はそこまでない。総合的な感触を擬音で表すなら、タプタプ。と言った所だろうか。この感触のクッションを開発すれば人をダメに出来るだろう。

 ――そんな感触を味わっている内、俺はこの感触はおっぱいよりも気持ちいいのではないのだろうか。という感情を抱き始めた。

 そうだ。このタプタプという感触は素晴らしいものだ。出来る事ならこのタプタプをずっとタプタプしてタプタプタプタプタプタプタプタップゥ。


「ゴボハァッ!」

「ライタ!?」


 俺は口から唾を吐きだし、その場に倒れた。


「大丈夫か! おい、大丈夫かよライタ! くそ、今から人工呼吸してやるからな!」

「しなくていいからな!? むしろやめろ!」


 俺は素早く起き上がり、本気でやりそうだった彰を止める。

 しまった。タプタプ感を堪能しすぎて気を失いかけてた。タプタプ恐るべし。


 俺は手を戻し、有泉君に礼を言った後、彰に向き合った。


「こんなのが、今日一日ずっと続くのか……」

「おう! おっぱいの感触は分からないから、正解はないけどな!」

「この計画終わりが見えねぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――ッ!」

「そう、この計画こそ――ぎじゅっおっぴゃい計画だ!」

「噛むなぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!」


そんなにさわやかに言う事じゃないだろ。と俺は心の底から思った。

 

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