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消したいこと

作者: 佐藤千奈

あの時手放さなければ…

そんなことを私は毎日思う。

あの時ー中学校3年生の時、受験のことでイライラしていた私に話しかけて来た一人の男性。

【雲母 玲夜】くん。

私より3つ上の人だった。

「君、名前は?」彼の第一声

「……福本 雫です。」

私の名前を聞いた彼はそっか、よろしく。

そう言って私に手を差し伸べた。

それが私と彼の出会いだった。

そこから2人が恋仲になるのに時間なんて

かからなかった。

玲夜と出会ってから私は色々と順調になっていった。

受験でイライラしてたあの日が嘘みたい

受験も上手くいき、高校1年生になった。

友達も増え、勉強もまぁ、そこそこ(笑)

玲夜とは付き合って半年。

高校にはたまに迎えに来てくれたり、

週末にはデートしてくれる。

そう、傍から見たら幸せなカップル

でも、私には少しの不満がある。

彼 玲夜のことを私は何も知らない。

好きな食べ物、好きなこと、仕事、そして、誕生日さえも私は知らない。

知ってることと言えば、名前と年齢くらい。

聞いても「その内ね。」と 人差し指を立て言う。

【その内】その言葉をこの半年の間に何回も聞いた。

そして、来月9月12日は私の誕生日。

その日にもう一度同じことを聞こう。

私はそう決めた。

私の誕生日まで玲夜とは今まで通り

デートしたり、メールをしたりと玲夜のことについては何も触れずに過ごした。

「俺、ほんと雫の笑顔が好きだな」

彼がいつも会うと言ってくれる言葉

そんな言葉を聞いて私は、顔を真っ赤にしていつも照れる。

それまで考えていたこともすぐに忘れちゃうほどに。

だから、今、玲夜のことで悩んでることは忘れていく。

彼が好きと言ってくれる【私の笑顔】を

私自身もすごく好き。


次の日

いつも通り学校へ行く私の後ろから

「ハッピーバースデー!雫!!」

「琴!!」

あ、そうか、今日は私の誕生日だ。

私のことを祝ってくれたのは学校で

1番の親友 【梅原 琴】

琴は、私の話をいつも聞いてくれる。

もちろん、玲夜のことも

そして琴も、「私、雫の笑顔好き!」

そう言ってくれる。

私は、1番の好きな人、親友の2人から

笑顔が好きと言われ、とても幸せだ。

琴は、私が話す玲夜の話を聞いて心配してくれるのか、お菓子やら音楽で私を笑顔にしてくれる。

私は本当に素敵な親友をもった。

「雫、今日頑張れ!!」

そうだ。今日は私の誕生日。

玲夜に玲夜のことをもう一度聞くと決めた日

私は笑顔で「うん!!」と琴に返した。

その日の夜

私の学校へ玲夜が迎えに来てくれた。

玲夜はいつも車で迎えに来てくれて、周りの子が

「いいな〜雫の彼氏はかっこよくて優しくて」

そう言ってくれる。

ほんと、私にとって自慢の彼氏だ。

私は玲夜が好き

だからこそ玲夜のことをもっと知りたい。

【よし、思いきって聞くぞ】

そう決心してからもう2時間が経った。

食事をしたりドライブしたりで中々話せなかった。

でももうそろそろ、帰る時間だ。

何としても帰る前に聞くんだ。よし。

「あ、あのさ」少し裏返った声が出てしまった。

カァ///と恥ずかしくなってる私に対して「ん?」

と優しく覗き込む玲夜

なんて優しい顔で見るんだろう…

はっと我に返り、意を決して聞く。

「玲夜は、何をしてる人なの?」

よし、聞けた。

…中々返事が帰ってこないと思い

横に座る玲夜を見る。

なんだか怖い顔してる…。

というより、怖い。

と思ったら、いつもの優しい顔に戻った。

そして

「そろそろだね。俺は殺し屋だよ。」

玲夜はそう言った。

殺し屋?確かにそう聞こえた。いや、言った。

えと…戸惑う私に対し、玲夜は続ける

玲夜の仕事【殺し屋】

その名の通り、依頼があればその相手を殺し

報酬を貰うという。

私が受験で悩んでいた時期と同じ時期

つまりは玲夜が中学3年の時、その世界に入ったらしい。それからはずっと殺し屋だと話した。

…仕事は分かった。玲夜の顔が真実だと言っている。

私はその事を信じるしかない。

でも、玲夜が殺し屋だとしてなんで私と付き合ったのかという新たな疑問が生まれた。

そんな私の考えを見抜くかのように玲夜は

私と付き合った理由を話てくれた。

私が悩んでいる所を見て昔の自分と重なったのがきっかけで私に話しかけたのだと

そこからは本当に私のことを好きでいたとも言ってくれた。

私は好きでいてくれただけで良いと思ってしまった

私も彼が好きなんだから

でも、そんな彼の仕事は【殺し屋】

私はどうしたらいいんだろう…

すると優しく私の顔を覗き込む玲夜

「俺のこと、嫌いになった?怖くなった?」

…私は…

「怖いよ、でも…玲夜が好きなことは変わらない…」

所々言葉がつまりながらも私は玲夜に言った。

すると「そっか、良かった」そう笑顔で彼は言った。

じゃあ、と私と玲夜はそれぞれの家に帰っていく

私は家に着き玲夜のことについて考えた

玲夜が好きなことは確かに変わらない

けど、殺し屋ってどう考えても駄目な事だ

私はどうすれば……

プルルルル…プルルルル…

電話??玲夜かな

誰からの電話かと思い携帯の画面をみた

すると画面にはこう出ている。

【琴】親友の琴の名前だ

こんな遅くに琴から電話なんて珍しいなと思いながらも私はその電話をでる。

琴は、今日のことが心配で電話をくれたみたい

私は包み隠さず全てを話した。

しばらく沈黙が続いた後、琴が言う。

「そっか、でも、雫が好きなのはしょうがないよ暫くはそのままでいよ」と

「ありがとう」私はそう言った。

琴なら警察だとか言うと思ってたけどなんだか意外だなと心の中で思った。

次の日、琴は学校で私を笑顔にしようとしてくれた。

琴に迷惑をこれ以上かけられないと思った私は、

琴の前はもちろん他の友達の前でもいつも通りで過ごしていた。

そして、放課後には玲夜が迎えにきた。

玲夜の車まで琴はついてきてくれた。

玲夜の車に乗り、「じゃあね」と琴に別れを告げる。

暫く車を運転させてから、玲夜は、車を道の脇に停めた。

なんだろ、昨日の今日でやっぱり気まずい…

「さっきの子、友達?」と玲夜が私に問いかける

さっきの子?「琴のこと?学校で1番の親友よ」

そう答えると急に玲夜は私のことを抱きしめた

何?!て、照れる

ぎゅーっと抱きしめたあと私の耳元で玲夜は言う。

「ごめんね」

ごめんね?昨日のこと?

「何が?」と問いかけても

ただずっと【ごめんね】玲夜はそう言った。

私はただ、彼の頭を撫でることしか今はできなかった

もう遅くなった頃なので帰ろうとした私の手を

玲夜は掴んだ。すごく強い力で

「…行かないで」

玲夜はか細い声で言った

そして、そう言った玲夜の顔はとても寂しそだった

玲夜……私は玲夜の手を離して

「でも、帰らないと親が……」そう言うと

「そうだよね、ごめん」と玲夜は言った

私も【ごめん】そう言って帰って行った

そう、あの時玲夜の手を離さなければ良かった……

家に帰っても私は玲夜ことばかり考えていた。

いつもは元気な玲夜があんなに寂しそうな顔をするなんて

プルルルル…プルルルル…

玲夜が心配になり、電話をかけた。

でも、電話に玲夜が出ることはなかった。

次の日もそのまた次の日も

玲夜は電話に出なかった。もちろん迎えも

週末のデートも無く…

1週間が経っても玲夜とは連絡がとれないまま

私は落ち込んでいた

「どうしたの〜?雫!」

琴…心配してくれてるんだな

私は玲夜と連絡がとれないこと、

とれなくなる前の玲夜の【ごめんね】という言葉の意味について琴に聞いた

1人じゃどうすればいいか分からなかったから

すると琴はこう言った。

「そっか、連絡とれないのは彼が死んだからだよ」

ニコッと琴は微笑みながら言った。

……聞き間違い?

玲夜が死んだ…?

「えと、どゆこと?冗談ならやめ「冗談じゃないよ」

私の言葉を遮って琴は話す

私を迎えに来た玲夜を見て琴はびっくりしたと話した。玲夜のことを知っていたから

玲夜は殺し屋、そして、琴のお父さんは玲夜に殺されたのだと言う。

そして、その恨みを持ったまま育ち玲夜に会った。

玲夜に会ったことで奥底にあった恨みが込み上げてき殺意に変わっていき、玲夜を殺したのだと真実を教えてくれた。

素直に冷静に

…何…言ってるの…?

琴は玲夜に復讐をしたってこと?

何でそんなに冷静に私に話せるの…?

怖い、琴が怖い。

「ねぇ、雫、そんな顔しないで。笑って?

私、雫の笑顔が好きなの」

私の顔に手をそえて琴が言った。

怯えている私に琴は続けた

「ふ、怯えた顔も好きだな」

そう言った琴の顔は、私の知ってる琴じゃなかった。

だんだんと琴への恨みが私の中で大きくなっていくのが分かった。

我に返ると、もうそこに琴の姿はなかった

琴……?

プルルルル…私は琴に電話をかける

琴が許せない、けど、ここで琴を恨んでしまったら琴が玲夜にしたことと同じになってしまう。

…出ないか

あの時玲夜が琴のことを聞いてきたのは

こうなるかもしれないと悟ったからなんだ

死ぬかもしれないと思って言った言葉だったんだ

【ごめんね】


月日が経ち、

玲夜は死んで琴いなくなったまま2年が経った

私はあれ以来、2人がよく言っていた

【雫の笑顔が好き】

その言葉が許せなく私は笑わなくなった。

学校の中でも

「あの子ってほんと無愛想よね」

「そんなに毎日がつまらないのかしら」

そう言った陰口ばかり言われている。

言われて当然だ

友達が笑わせようとしてくれていても

私は笑わない、笑えない

親も初めは心配していたが、次第に理解してくれるようになった

3年生の2学期が終わる頃に転校生がきた

名前は【黒田 真二】

見た目がチャラそうな人だ

「よろしく、雫ちゃん」

「よろしく」

隣の席か

まあ、関係ないけど

先生が校内案内しろなんて言うから

私は転校生に校内を案内してる

見た目通りチャラい人で

【好きな人はいるの?】

【どんな人がタイプ?】

【俺、雫ちゃめっちゃ好みなんだけど】

なんて色々聞いてくるけど全部無視して

私は黙々と案内していく

それにしても、なんでこんな時期に転校してきたんだろう。

なーんて考えながらも歩いていたら校内まわりきった

「じゃ」という私の腕を掴んできて

「俺、ほんとに雫ちゃんが好み!一目惚れした!」

と、転校生は言ってきた

は?何言ってるの、馬鹿みたい

もちろん私は無視して腕を振り払い帰っていく

だけど、次の日もその次の日も

転校生は私のとこにきて「ねぇ、好き!」

と言ってくる

あまりにもしつこいのでさすがの私も

「転校生、迷惑」そう言った

これでもう諦めてくれるでしょ

そう思った私の考えとは裏腹に

次の日もやってくる

どんなに来ても私は無視をする

クラスの子が【あの子、笑わないのよ変な子】

と転校生に言っても「それでも好きなんだ」と言う

そして、私が1年の時、琴の次に仲良かった子が

転校生に話しかけていた。

何を話してるかは分からないけど

私に近づかないように言ってくれてるのだろう

そう解釈した

でも、次の日もまた転校生は私のとこに来た。

「好き!あ、それと俺は転校生じゃなくて黒田真二」

「知ってる」そう返して私はトイレへと逃げた

そして、帰り道、もうすぐ家に着くという所で

私の前を歩く一人の人を見つけてしまった

【黒田真二】だった

後ろを歩く私に気づいた黒田は笑顔で手を振る

私はその場から逃げ、遠回りで家へと向かう

家に着いた時さらにびっくりした。

隣が黒田の家だったのだ

黒田も私を追いかけたのか同じタイミングで家へ着く

「わぁ、隣だったなんだね!よろしく」

お辞儀だけして私は家へと入っていった。

はぁ、最悪だまさか隣だなんて

まぁでも、関わらないことには変わりないしいいか

黒田に追いかけ回されるせいで疲れ、夜ご飯の時間まで私は寝た。

「雫ー、ご飯よ!」お母さんのその言葉で目を覚まし

リビングへと行く

すると、そこにはあの黒田もいた。

目を見開く私に黒田は言う

「起きた?雫ちゃんのお母さんが良ければ一緒にご飯食べないかって誘ってくれたんだ」

誘った?!なんでまた…

チラッとお母さんを見ると悲しい顔をしていた。

なるほど、私が笑わないのがやっぱり心配だったのね

ご飯は食べたいし、と思い椅子に座る

「お!これ美味しいです!な、雫!」という黒田の言葉に対してもちろん、私は無視をする。

それでもめげず話しかけてくる黒田

ほんと、調子狂うな

それに今気づいたけど、顔がどことなく玲夜に似ている

ま、玲夜はもうこの世にいないし、1人の人に3人似てる顔した人がいるっていうからそれだな

次の日朝から黒田に会ってしまった。さすがお隣

一緒に行こうかって隣を歩く黒田

「隣歩かないで」私が言うと

少ししゅんとした黒田。でもすぐ戻って何事もなかったように隣を歩く

表情がコロコロ変わってって面白いやつだなと私は思っている

そして、あっという間に2学期、冬休みが終わった。

私は大学へ進学する

3年前同様に受験勉強でイライラしていた

玲夜も琴もいない今、爆発できる人もいるわけがなく

またあの時と同じブランコへと座っていた

そんな私に声をかけてきた人がいた

「雫、大丈夫か??」それは、黒田だった

黒田を見て何を思ったのか安心したのか

私は号泣してしまった

そんな私を黒田は優しく抱きしめてくれた

はぁ、と落ち着いてから黒田に聞いた

「なんでここにいるの?」と

すると、黒田は笑って「たまたま」と言った

その言葉がつい面白く笑ってしまった

は、笑った…私が…

黒田の方をみたら、目を見開いていた

笑った本人の私も目を見開いて

それから少したって私と黒田は2人で爆笑した


あれから1年

私は無事、志望大学へと合格した

そしてあの黒田と今は付き合ってる

黒田は就職希望なのにずっと私に勉強を教えてくれたりしてくれた

それなのに、黒田は余裕と希望した場所に就職した。

私は、黒田がいなかったら不安に押しつぶされていただろう。黒田のおかげで今ここにいると思う。

その時気づいた、ずっと玲夜と琴のことを思いながらもその2人との思い出を消したいと思っていた。

でも違ったんだ、どんな思い出も消していいことなんてひとつもないんだ。

ねぇ、玲夜、黒田と恋したことをあなたはどう思うのかな、喜ぶ?かそれとも悲しむ?

玲夜のこと理解してあげられなくてごめんね

そっちで見守っててよ、私が行くまで ー

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