舘谷葵はパフェが食べたい
「遅いよ」
「ふっ」
そいつのところまで行くと、軽い拳が飛んできた。これは男子の行動。
校門近くには誰もいなかった。夕暮れをバックに歩き始める。
「ああいうのってどうすればいいの?あの返しでよかったの?また女の子を泣かせちゃった」
これは女子の口調だ。
「いーんじゃねーの」
「適当に答えんな…こっちは真剣なの」
前半は男子。後半は女子。そういうことだ。
舘谷葵は男と女を足して2で割ったような精神を持っている。それは容姿も例外ではなくて、中性的な顔立ちと地毛の短めの茶髪。
当然、モテる―男にも女にも。証明済みだ。
な、最初に言ったろ。「ひとりの、女と男の変なクラスメイト」って。
「そういうときは『ごめんなさい、好きな人がいるんです』って言っとけ」
「わかった。経験ないのによく分かってるね」
「喧嘩売ってんのかテメー」
「買う?」
俺とは幼馴染の腐れ縁だが、彼とも彼女とも言えない葵がなぜこんなことになっているのか、俺は知らない。たぶん元からこうだったのか、何かきっかけがあっても俺が覚えていないかだ。
「買う?」
「なんだよ、そんな喧嘩したいのか」
「違うよ、あのパフェ」
そう言って女子高生のたむろするパフェのワゴンを指さしている。途中から話を聞いていなかったらしい。反省。
「金がない」
「奢るよ。愚痴のお詫び」
そう簡単に奢られてしまうと、まるで俺がとてつもない弱者みたいで癪だ。
「いや、いい。こんな男子二人でとかむさ苦しい。JKいるし」
「ちぇっ」
不満そうに制服のズボンのポケットに手をしまう。今日は男子服だ。傍から見たらただの男子2人組。容姿に恵まれない俺はその中でこいつを引き立てる役にしかならないだろう。
「アーニーフットボールってどんなだっけ」
「知らね」
「…じゃ」
「おう」
人波に紛れて交差点を渡り終えて、俺たちはいつものように別れた。
ちなみにあとから調べたことだが、アーニーフットボールなんて単語は存在しないそうだ。
気にしない。支離滅裂な発言はいつもの話。
頭の中でお話を作るのが好きなのだ。




