舘谷葵は悪くない
葵は元気そうではあったけど、実は微熱があると笑っている。人を家に招くのにマスクもしていない。
1階のリビングのテレビがついていて、映画を上映していた。どうやらSFモノらしい。
「ほら、メシ」
「さんっきゅー」
「ホイコーロー作ろうか?」
「いや、私も作るよ」
「病人は大人しくしてろ」
葵を追い返して俺はひとりキッチンに立つ。映画に飽きたのか、テレビのチャンネルをザッピングしているのが音でわかる。
料理は作業感があって好きでも嫌いでもない。葵と会話を交わしながら着々とこなす。
「葵、お前熱は?」
「さんじゅうななどごぶー」
「普通に風邪じゃん」
「だからそうなんだよ」
「他の症状は?」
「ルーお医者さんみたい」
「うるせえよ」
「鼻水」
「一応マスクしてくれよ」
「なんで?」
「いや、うつされたくない」
話題を変えて俺がしばらく家で一人だと話すと、葵はこう提案した。
「あ、だったらその間ウチに泊まってきなよ」
「は?」
「その間ここで過ごせばいいじゃん。僕は介抱してもらえる。ルーは寂しくない」
「寂しいなんて俺は一言も」
「嘘つけ。顔に書いてある」
俺は黙った。言い返しても無駄な気がしたのだ。
「…わかった、そうするよ」
「やりぃ。あ、明日の晩飯はチンジャオロースがいい」
「だったら風邪早く治して手伝え」
働かざる者食うべからず、だ。
「わかったよ。治す。チンジャオロースには勝てないや」
ドサッという音がしたあと、葵の意外と可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「…」
なんだか、安心した。




