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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第六章:学院引きこもりライフ
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わりと簡単にできました


 静かな湖畔の崖の上から、釣り糸を垂らす俺。

 アウトドアでエンジョイするなど引きこもりの風上にも置けないとお叱りを受けそうだが、『たまにはお日様の光を浴びたら?』と母さんに心配されてのことであり、目的は別にあるので許してほしい。


 ちょっと離れた場所には屋根付きの休憩所があり、そこには円卓が置かれていてシャルたちが集まっていた。

 円卓会議、というらしい。

 俺は彼女たちの話し合いをこっそり聞いている。


 ちなみに俺の横では石の巨人が膝を抱える格好で座り、同じく釣り糸を垂らしている。

 こいつ、円卓会議のメンバーなのだが俺に付き合ってくれているのだ。優しい。


 さて、円卓会議の今日の議題はといえば。


「王妃さまがナンバーズと手を結んだそうです。これは、どういうことでしょうか!?」


 シャルの元気いっぱいの声にメンバーたちが色めき立つ。


「我らに恐れをなしたに決まっている。ふふふ、怖がっているな」と相変わらず的外れなフレイ。

「互いに平和的な解決を模索している、と考えられないかな?」イリスは真面目だなあ。

「何かしら利害の一致を見出した、ってことかな?」とリザは冷静だ。

「はっはっは。フレイ様、我らの存在は秘匿されていますよ」とジョニーはこっそりツッコむ。


 この中で唯一といっていい、的確な判断ができるであろうティア教授は、


「ほぉ~ん」


 鼻をほじっていた!

 なるほど、あえて話の腰を折るようなクソ真面目な推論は胸に仕舞い、シャルたちに大いに楽しめ、と。この人、空気が読めるんだな。びっくり。


 とはいえ、まったく参加していないということはなく。


「で、シャル君はどう考えるのかな?」


 みなが注目する中、シャルがキリリと答える。


「まず前提として、ナンバーズのみなさんは〝これからは選ばれし貴族の自分たちがサゲぽよした国をアゲてかなくちゃ〟という一風変わったお考えをお持ちです。王妃さまに対しては、〝王国をサゲぽよした張本人〟だから嫌っているそうですね」


「ぇ? ぁ、うん、まあそうだね」


 シャルの言葉遣いが乱れている。最近なんのアニメ見てたっけ?


「そして王妃さまは、〝わたくしこそが世界一ぃ!〟と誤解していらっしゃいます。一番は兄上さまなのに」


 シャルって純真無垢であるがゆえか、ズバズバ言うよね。本人がいたら怒髪天ものだ。


「というわけで、王妃さまもナンバーズのみなさんを疎ましく思っていらっしゃると思うんです。たぶん」


「うんうん、その辺りは正しく状況を理解していると思うよ」


「えへへ♪」


 ティア教授のお褒めの言葉に照れまくる我が妹。


「で、互いに相容れない二陣営が手を組んだ。それはなぜだろうね?」


 シャルが唐突にカッと目を見開く。


「なんとなくですが、そうせざるを得ない、何か世界を揺るがすような脅威が迫っているのではないでしょうか? なんとなくですが!」


 なんかもう大興奮です。可愛い。


「なるほど、あり得るな!」


 フレイとリザ、それにジョニーがうむうむとうなずく。

 イリスはちょっと疑いの眼差しを向けているが、空気を読まないこいつにしては珍しく黙っている。成長したな。


「ふむふむ。となると目下のところの攻略対象だったナンバーズに、閃光姫が加わったわけだ。しかも彼らを脅かす者も現れそうだ、と。どうしようねえ?」


「特訓です!」


 間髪容れずにシャルが叫ぶ。


「我らの最終目標は、ナンバーズさんたちをそそのかしている闇の巨大組織を倒すこと。しかしその前にいくつもの障害が生まれました。わたくしたちも戦力の底上げが必要だと思います」


「うむ、確かにな。私やリザは、この姿では本来の力が発揮できない。しかし本来の姿で立ち回るのにも制限があろう」


「でもそう簡単に魔法レベルは上がるものじゃないよ」


 イリスが割って入るも。


「いいえ。だってイリスさんはつい最近、一気にレベルが上がったじゃないですか。その辺りのコツをご教示ください!」


「ぇ、ぃゃ、あれはボクが何かしたわけじゃなくて……」


 しどろもどろになるイリス。墓穴を掘ったな。そう、何かしたのは俺です。それをきちんと伝えていないのも俺でした。


 と、ティア教授が立ち上がる。


「さて、ワタシは戦闘要員ではないからこれで失礼するよ。特訓方法が決まったら、それに合わせて助言させてもらうけどね」


 言って、そそくさとその場を離れた。


「まずは滝を探しましょう!」


「なんで!?」


 議論はオモシロ可笑しく進んでいく。

 まったく反応しない釣り糸をぼけーっと眺めながら、聞き耳を立てていると。


「やあ、釣れているかい?」


 背後からの声に振り向くと、ティア教授がなぜだかここへやってきた。


「釣れませんよ。餌を付けてないですからね」


「なるほどね。盗み聞きに集中するためか」


 よっこらしょ、と俺の横に腰を下ろすロリっ子メガネ教授。


「なんだかんだでシャルたちに付き合ってくれて、ありがとうございます」


「いきなり気持ち悪いね。ま、微笑ましくはあるけど、無駄な時間を過ごしているとは感じていないよ」


 へえ、『研究時間が減るから嫌だ!』とか文句言われるかと思って、先んじてお礼を言ったんだけどな。意外だ。


「シャル君は不思議な感覚を持っている。最大魔法レベルの高さに加え、過保護な君がいろんな魔法を彼女にかけているだろう? 詳細まではさすがにわからないけれど、それらが何かしら干渉して、不穏な〝空気感〟みたいなのを感じ取っているんじゃないかな?」


「えっ、それって『世界の脅威』が現実であると?」


「少なくとも人を見下すことにかけては世界でも指折りの王妃が学生ごときと手を組むのだから、何かはあるのだろうね」


 それは俺が『やれ』って言ったからなんだよなあ。

 この人もシャルに染まってきたんだろうか? それならそれでいいか。


「で、君はどうするんだい?」


「何がです?」


「特訓だよ」


「俺はやりませんよ」


 引きこもりは、努力とは遠い世界の住人なのです。


「君が、じゃないよ。世界の脅威とやらは横に置くとして、下手をすれば閃光姫と対峙する可能性もあるんだ。君の護りがあるにせよ、そこそこの勝負にもっていくには、確かに彼女たち自身の力を上げなくちゃいけない」


「まあ、特訓してなんの成果も得られない事態は避けたいですね」


 シャルがしょんぼりするのは本意ではない。


「君ならできるんじゃないかい? イリス君のときのように」


 にやぁ、と悪そうな笑みを浮かべるティア教授。その背後に、目を凝らす。


 細い管が、いくつも伸びていた。

 全部で36本。うち33本が地面にまで伸びていて、3本は途中で途切れている。3本中1本だけ他の2本より長い。


 この管は、ティア教授の魔法レベルの概念そのものを表している、らしい。

 イリスは1本が他の管に絡みついていたから、魔法レベルがそれ以上あがらなかった。それを解いてやったら突然、他の管がぐんぐん伸びて一気に魔法レベルが上がったんだよな。


 俺はティア教授の、地面にまで伸びていない長めの管をじぃーっと見て。


「きゃぴぴぴぴぴっ!? うきゃんっ!」


 ティア教授が陸に上がった魚みたいにびくんびくんして、最後に小躯が大きく跳ねた。


「いいいい今なにをしたのかな!?」


 うん、わりと簡単にできちゃったな。


「無理くり管を伸ばして、地面にくっつけてみました」


 結果、彼女の現在魔法レベルが1上がったのだ――。



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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! やっぱりシャルさんは良い直感が有り、そして賢いです! 確かに、そろそろ円卓の少女達、ハルトさんの彼女達にはある程度チートの強さを身に付けさせたいですね。あん…
[一言] きゃぴぴぴぴぴ
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