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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第六章:学院引きこもりライフ
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何かが起こっている?

 俺の名はハルトC。ヘンテコ魔法使いの転生者ハルト・ゼンフィスによって作られた、奴のコピー・アンドロイドである。


 本体は授業への参加免除を勝ち取ってから湖畔のログハウスに拠点を移して引きこもった。俺は奴の代わりに、学内にあるティア教授の研究棟の一室に引きこもっている。


 それ意味あるの? と問われると困ってしまうが、いちおう学内でなんらかの活動をしている体裁をとる必要があるらしく、何かあったときにハルト・ゼンフィスがいないと面倒な事態になりかねないので仕方なく、だ。


 ま、俺は魔法が使えないからティア教授の手伝いをするにも限界があるし、だからか教授もコピーの俺には何も言ってこない。

 お気楽な引きこもりライフは今のところ邪魔されていないから、こうしてベッドで惰眠を貪っていても問題ないのだ。


「ハルト・ゼンフィスはいるか!」


 バーンと(部屋の)ドアが開かれ、聞き馴染みのあるような凛々しい女性の声が響いた。


「いたな。いつまで寝ているつもりだ。とっくに授業は始まっている時間だぞ」


 布団を剥ぎ取られた。片眼鏡をかけた美人さんはたしか、ベルカム教授だったかな。ティア教授をライバル視している、ある意味残念な人だ。


「俺は授業への参加を免除されております」


「気構えの問題だ。授業へ参加しなくてよくても、貴様は研究分野で相応の成果を出さねばなるまい? 一分一秒たりとも時間を無駄にはできんはずだ。その意味では寝る間も惜しむほどでなくてはならない」


 研究成果なんてのは本体が、いずれティア教授に泣きついて適当にでっち上げればいいんじゃないかな? とはまあ、言えないですけど。


「俺になんか用っすか?」


「せめて起き上がってから訊け。というか、着替えてすぐそこの会議スペースに来い」


 ずいぶん上からの物言いだな。まあ、この人はこういう性格っぽいから仕方ないけど。

 面倒だが、へいへいとおざなりに返事すると、不満そうに眉根を寄せながらもベルカム教授は部屋を出ていった。


 俺はのっそり起き上がり、たっぷり時間をかけてから着替えた。にしても、なんであの人がここに?

 不安を抱きつつ、俺は会議室へと向かった。



 テーブルの上にあった本とかガラクタとかが床に散乱している。それに代わってたくさんのノートが広げられていた。

 何やら小難しい計算式がびっしり書かれている。


「聞いたぞ? 貴様、この程度の属性比率計算式を一目見ただけで解けるそうだな」


「誰がそのような世迷言を?」


「シャルロッテ・ゼンフィス。貴様の妹だ」


 シャルちゃんなんで?


「いや、見ただけで解けるわけないっすよ。何か大きな誤解があるように思います」


 とはいえ、そこを追及しても時間を取られるだけだろう。俺は忙しいのだ。二度寝したいし、そのあとはアニメ見たいし。


「てか、俺に計算させて自分が楽しようって魂胆ですか?」


 ここは教師による理不尽な要求を、道義的見地から糾弾すべきだろう。


「そうだ」


 いっそ清々しい。まったく悪びれもせず、躊躇いの欠片も感じさせない断言は凛々しくもあり。


「いやいやいや、なんでですか横暴だ!」


「さっきも言ったが、研究する者にとって時間は貴重だ。大幅に削減できるのなら、それを使わない手はない」


「俺の貴重な時間はどうでもいいと?」


「さほど時間は取らんのだろう? 頭の体操と考えればちょうどいいくらいだ」


 あー言えばこー言う。負けるもんか。


「ベルカム教授って研究室を持ってますよね? そこの学生にやらせればいいじゃないですか」


「むろん、やらせている。彼らの解答が合っているかどうかを確認する意味で、貴様にも頼みたいとここへ赴いた次第だ。ああ、そうだったな。先に言うべきことがあった」


 ベルカム教授は足元から何かを持ち上げて、テーブルの上に置いた。じゃらっとか鳴る。

 重そうな袋だ。その口から覗くのは、金貨……。


「学生とはいえ、手伝いをしてもらう以上、報酬は支払おう。そら!」


 ベルカム教授は袋の中から三枚の金貨をつかんでこちらに見せた。


「えっ、全部じゃないんっすか?」


「これでも報酬としては破格だぞ? ぬぅ……ならば、これでどうだ?」


 さらに二枚、金貨をつかむ。まあ、学生相手のアルバイト代としてはけっこうがんばってくれたほうかな。


 しかし俺に小難しい計算なんてできるはずがない。


「すみませんけど、俺は計算が苦手なんで無理です」


「しかし貴様の妹は『見た瞬間にわかる』と言っていたが……ふむ。まさか計算式ではなく、術者の魔法力を見て即座にその者の属性比率を看破する、という意味なのか? それはそれで……」


 よくわからんが、たしかに本体なら結界で作った『ミージャの水晶(改)』で属性とその比率も瞬時に把握はできる。

 が、それは秘密にしている。ので、『被験者を連れてくる』とか言われるとややこしいことになりかねなかった。


「てか、ティア教授はどうしたんです?」


 俺が他の研究室でアルバイトするとか言ったら憤慨しそうだけどな。『ならこっちを手伝っておくれよ! お金は払えないけども!』ってね。


「あいつなら実験室で何か怪しげなことをしていたな。いちおう許可を求めたが、生返事が返ってきただけだ」


「ちょっと失礼しますね」


 こういうときこそ役に立ってもらわねば。俺は急いで実験室へ赴き、勢いよくドアを開け放った。


「ティア教授!」


 小さな背中に声を飛ばす。作業台を向こうにして何やらやっていて、こちらの呼びかけには気づいていないようなんだけど……。


「ふぅむ。やはり臓器は人のそれだねえ。変わったところは特にないなあ。にしても、切ったそばから傷が再生してやりにくいったらないね。魔力が枯渇する気配も見せないし」


 なんだか生臭い、変な臭いがする。

 俺はそっとドアを閉じた。ずびゅんと会議室へ舞い戻る。


「なんか怪しげなことしてました!」


「だからそう言ったろう? そもそもあの女が怪しげなこと以外をするはずもない」


 常識みたいに言われたが、不審に思った俺のがまともだよな?

 こうなったら本体に丸投げするしかない。そう考えた俺の思考に、とある人物の顔が浮かんだ。


「ベルカム教授、俺の時間を金貨数枚で買えるなんて思わないでいただきたい」


「ぬ、ぅぅ……。たしかに大貴族の息子である貴様には、はした金ではあろうが……」


「とはいえ教授も困ってるご様子。そこでどうでしょう? 俺がふさわしい人物を紹介しますよ」


 俺は意味深に笑みを作る。で――。



「ハルトありがとう!」


 しばらくしてやってきたイリスに事情を説明してアルバイトを斡旋してやった。こいつは普段から配達だかのアルバイトをする苦学生。金貨に釣られて二つ返事だった。


「まあ、計算能力で言えば文句はない。しかし釈然としないな……」


 ベルカム教授を煙に巻き、俺はこの難局をまんまと乗り切ったわけだが。


 面倒事は、これにとどまらなかった。このとき確かに、何か不穏な事態が進行していたのだ――。




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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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