ロマン武器ができました
偽聖武具の使用感を試そうと、壊しても怒られない手頃な城壁はないものかとティア教授に尋ねたところ。
「……」(ティア教授は呆れ顔)
「……はあ」(イリスはこれ見よがしにため息をつく)
俺なんか変なこと言った?
「朽ちた古砦なんかは探せばあるだろうね。けれど、それを壊したところで目的は達成できないよ?」
「どうにもハルトと会話が噛み合っていなかったように感じたのだけど、その理由がわかったよ。キミは『城壁』というものを誤解……いや誤認しているようだ」
「城壁って石とか積み上げて壁にしたもんだろ? 他にどんな解釈があるんだよ」
「その解釈自体は間違っていない。ただ足りないんだ」
イリスの言葉をティア教授が継ぐ。
「城壁に限らず主要な建物には防護結界を張るものだよ。なるべく術者の負担を減らすよう地脈なんかを利用してね。だからただの石壁の何倍、何十倍も堅牢だ。ワタシとイリス君が話題にしていた『城壁』はそういったものさ」
あー、だから『一撃で破壊する』ってのが難易度高い風に言ってたのか。
「てことは試し撃ちする場所を探すのは難しいなあ」
王都の城壁をこっそり、とできなくはないがいろいろ面倒臭そうだ。
かと言って『なければ作ればいいじゃない』ともいかない。
どのくらいの防御力なら『普通の城壁』レベルなのか俺自身がわかっていないからだ。
「まず『一撃で破壊する』のが難しいとは考えないのか、キミは」
そっちは普通の城壁レベルに合わせればいいだけだろ。簡単じゃないか。
「まあ、手頃な場所という意味ではあるにはあるね、近くに」
さすがティア教授。どこかを問えば、にんまりとして彼女は答えた。
――オリンピウス遺跡だよ。
というわけで、俺たちは『どこまでもドア』でオリンピウス遺跡の入口へとやってきた。
ずっと放心状態のメルちゃんは、タイミングよく現れたポルコス氏に託している。
「今さらですけどティア教授、ここの城壁っぽいのはみんな朽ちているようですが?」
「要は同程度の強度があれば検証は可能だろう? だから、ほら。あの建物をさ、どっかーんとね」
遺跡の入り口である宮殿っぽい建物はたしかに小ぎれいだ。何かしらのパワーで守られているからだろう。
「まずはヒュージ・ロックイーターを倒した武器でやってみたまえ。だいたいの強度がわかるよ」
魔法銃で先に試すのか。でもアレ、威力の調整ができて前より高出力でぶっ放せるんだよね。
まああの時と同じくらいでいいか。
俺は魔法銃を構えて深く考えずにぶっ放す。
大きなエネルギー弾が宮殿入り口のすぐ横に命中。滑らかな壁面に亀裂が生まれた。
「おおっ、硬いっすね」
「……その武器も大概だねえ。並大抵の攻撃では傷ひとつ付かないはずなんだけど」
あ、そうなの? んー、でも魔法銃の最大出力なら建物をまるっと吹き飛ばせそうだな。言わないでおくけど。
「それじゃあ本番といこうか。ちなみに入り口は破壊しないでおくれよ? 学院長に小言を言われそうだから」
そういやこの遺跡、卒業試験とかで使うんだったか。さっきはヤバかったな。
聖武具(偽)を装着する。
そのまんまなんの芸もなく撃ち放ってもよいのだが、それではあまりに味気ない。
ワクテカする妹に俺のサービス精神が刺激されたのもあり、ちょちょいと機能を付け加えて。
『……起動』
「なんかしゃべりました!?」
わー、すっごい目がキラキラしてる。
ネットから拾った超テキトーなドイツ語音声が機械的に流れると、ロボットアームがギッチョンガッチャン動いて背中から杭を一本、腕の台座に固定した。
『準備完了』
「よし、行くぞ!」
『了解,マスター』
俺は大地を蹴り、一直線に宮殿っぽい建物へ駆けた。台座の付いた腕を引き絞り、入り口からちょっと離れた壁にこぶしを打ち出す。
壁にぶち当たるちょっと手前に円形魔法陣を出現させ、そこにこぶしが合った瞬間。
杭が飛び出し、大音響を轟かせて壁を粉砕した。五メートル近い大穴が開く。
うん、なかなかの演出ではなかろうか。
「どうかな?」
「さすがです兄上さま!」
くるりと振り返るとシャルがきゃっきゃと小躍りしていた。
喜んでもらえて俺も嬉しい。そして威力は十分。もうちょっと出力を上げてもよさげかな。
攻撃する瞬間に小粋なセリフを吐くようにしてもいいかも? あ、でも破壊音にかき消されちゃうかな?
などと考えながらみんなのところに戻ってくると。
「本当に一撃で粉砕するとは……」
「アレ、王宮の守りと同等かそれ以上だよ……?」
「無生物が会話する理屈がわからない……」
イリスもティア教授もリザも、驚きが勝っているようだ。もうちょっとはしゃいでいいのに。
「とりあえず威力は問題ないですよね、ティア教授」
「下手すれば閃光姫の『光刃の聖剣』以上じゃないかな? ところでひとつ訊きたいのだけど」
「なんですか?」
「射出用の機構を組みこんでおいて、どうしてゼロ距離で殴りかかったのさ?」
なんだ、そんなことか。
俺は建物に体を向け、腕を伸ばした。杭を撃ち出す。さっき壊した壁の近くに大穴が開くも、先ほどより小さく二メートルほどだ。
「こんな風に中長距離用の飛び道具としても使えます。ただ距離が遠くなればなるほど威力が落ちるように設計してまして」
最大威力を発揮するにはゼロ距離が必須なのだ。
「キミなら距離によらず同程度の威力にもできるだろうし、なんなら逆に距離が離れれば離れるほど威力が増すようにもできるんだろうね。それをしなかったのは………………ロマンか」
やはりこの人はわかっている。接近すればするほど高威力。そんな制限があったほうが燃えるものね。
さて、これで俺が学院で引きこもるための課題はクリア、なのだけど。
「さっそく名前を決めないとですね。ああ、どんなステキな名前がよいでしょうか」
そっちはシャルに任せるにして。
「すまん、ちょっと俺は忘れ物をしたので一度戻る」
俺はみんなを置いて『どこまでもドア』に走った。
「ん? 忘れ物ってベタだね。もうここに用は――」
「そこまでわかってるならごゆっくり!」
ティア教授は何かを察したように肩を竦める。いろいろ便利な人ではある。なので俺はとっとと用事を済ませてしまおう。
――研究棟に、侵入者が現れた。




