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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第一章:生まれた直後の奮闘記
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赤ちゃん、危機を脱する


 なぜ俺は、異種族に人の性教育を行っているのか?

 

「だからね、排卵しなければ子宮内で受精できないし、じゃなきゃ子どもはできないんだよ。仮に受精して着床しても、母乳が出るようになるのはずっと先で、それまで俺は生きてないわけ。わかる?」


 全裸で正座したままぷるぷる震える赤髪の美少女、フレイ。

 

「も、申し訳ございません。私の軽率な発言で、変に期待をさせてしまって……」


 フレイは目に涙を潤ませる。

 このままだと切腹しかねないと俺は考えた。ので、先手を取る。

 

「まあそう落ちこまず。ダメならダメで手はあるよ。とりま――」


 俺はいそいそと白い布を体に巻きつけ、寝床(最初に入れらていた赤子用のかご)にすぽんと収まった。

 

 

「侵入者への対処が先だ」



 探知用結界の警報が強く鳴った。小動物や鳥ではなく、魔力を持った〝人間〟だ。

 

「私も感知しました。こちらへものすごいスピードで迫って……いったん立ち止まったようです」


 うん。ぐちゃぐちゃの死体(俺を捨てた兵士たち)のところで止まり、またすぐにこっちへ走ってきた。

 

 あまり時間はない。

 ライダースーツを着るのに手間取っているフレイが隠れる間もなかった。

 

「俺が立ったり飛んだりしゃべったりは秘密ね。まずは話をつなごう」


 告げた直後、ずさーっと茂みを突っ切って、鎧姿の大男が現れた。

 

 強面のおじ様。たしか名前はゴルド・ゼンフィスだったか。辺境伯の。最後まで俺の命乞いをしてくれた人だ。

 だからといって、油断はできない。


「殺せばよいのでは?」


「いや、ひとまず会話だ。その人は――」


 糸電話みたいな結界を作り、フレイにだけ聞こえるようにゴルドさんの概要を説明する。

 

「あの人は俺を助けようとしたけど、王家は俺を殺したがってる。油断しないでね」


「やはり殺すべきでは?」


 こういうとこ、魔族だなって思う。

 

「……とりあえず目的を聞いてほしい」


 天然思いこみ娘に託すのはとても不安だが仕方がない。

 

 もしこのおじさんが独断で秘密裏に俺を救いにきたなら、離乳食を食べられるようになるまで保護してもらうのも手だ。

 仮に王の命令で俺の死を確認しにきたのなら、彼を欺いて俺の死を偽装することに一役買ってもらおう。

 

 いずれにせよ、慎重に見極めなくちゃならない。


「承知しました」


 フレイは小声で返したあと、凛とした声を響かせた。

 

「ここに何用で参られたか? 『地鳴りの戦鎚』よ」


 地鳴……何?

 おじさんは手にした荷物を地面に下ろし、バカでかいハンマーみたいなのを構えた。

 

「魔族か……。儂を知っているようだが、逆に問おう。そこの赤子になんの用がある?」


「ここを通りがかったのは偶然だ。しかしそれこそ、私にとって最高の幸運だった。我が生涯をかけるに値する、主君を得たのだからな!」


 だーかーらー、

 

「そういうのいいから!」


 俺は小声で叫ぶトリッキーな技を披露する。

 

 あれ? ダメでした? みたいな顔でこっちを見ないで。

 

「主君だと? 魔族が人の子を主と仰ぐか」


「そこはまあ、あれだ。種族がなんであろうと私には関係ない、とかそういう感じだ。たとえ宿敵たる閃光姫の子であろうとな」


「ほう? その子が王子だと、どうして貴様が知っている?」


「え? あー、ええっと…………そう! 〝王紋〟だ。ハルト様の左胸に、たしかに現れていた」


 ちゃんとできました! みたくキラキラした目でこっちを見ないで。

 尻尾をパタパタしてドヤってるとこ悪いけど、君、今マズいこと言ったよ?

 

「ハルト、とは貴様が付けた名か?」


 しまった、という顔をするフレイ。

 ここは上司として、適切な指示を与えるべきだ。俺、働いたことすらないけども。

 

 ごにょごにょ伝える。

 こくりとうなずくフレイ。

 

「そのかごの中にメモが入っていた。『大切に育ててください。名前はハルトです』とな。ちなみにメモはうっかり燃やしてしまった」


 ボッと片手から火を出す。

 

 俺が命じておいてなんだが、めちゃくちゃ嘘っぽいな。

 

「どうにも胡散臭いな。罪の意識に耐えかねた兵士が独断で行ったにしては、知らぬはずの本名をもじっているのが不可解だ。だが待てよ? もしや、あの方が(・・・・)……?」


 おや? おひげのおじさんが揺らぎ始めた。ここは主導権を奪い返すチャンス!

 

「そちらばかり質問せず、いい加減に先の質問に答えろ。音に聞こえし『地鳴りの戦鎚』が、こんな森の奥深くに何用か!」


「……その赤子を、迎えに来た」


「断る!」


 君はちょっと黙っていようね、とやんわり諭す。

 

「魔族の貴様がなにゆえその子を欲するかは知らぬ。が、儂とて殺めるつもりは毛頭ない。ただ、人の業に翻弄されて死にゆくしかない命を、救ってやりたいだけだ」


 フレイは命令どおり黙っていたのだが、ここは理由を訊くところなので、そう指示する。

 

「王命に背いてでもか? なにゆえだ」


「……以前、儂の妻が身ごもった。だが子どもは産声を上げることがなかったのだ。たとえ素質がなかろうと、生まれたのなら生を謳歌してほしい。儂の、我がままだな」


 俺は、人を信じない。信じられない。

 でもなんだろう? このおじさんは、信用していい気がする。

 

 でも前世の俺は、そうやって期待するたび、縋るたびに裏切られてきた。

 この世界でも、繰り返されてしまうのだろうか?

 

 急速に、感情が凍っていく(・・・・・)

 

 前世の俺はただ怯え、ふさぎこみ、暗闇に逃避するだけだったのに。

 ああ、ダメだな。今は嫌なことを思い出すと、

 

 

 ――すべてを消して(・・・・・・・)しまいたくなる。



 考えるのはよそう。俺はすーはーと深呼吸して心を落ち着かせた。

 ところで。

 

「ぅ、ぅぅぅ……そ、そんな哀しいことが……ずびっ!」


 フレイちゃんが涙をはらはら流している。感受性強すぎませんか? ホントに魔族なの?

 おじさんもそう感じたのか、どこか雰囲気が柔らかくなった。

 

「妙な魔族だな、貴様は。魔族は人の命など毛ほどにも感じないと思っていたが。道中で見つけた死体は貴様がやったのだろう?」


「人の兵士ならば、これすなわち敵。敵は見つけ次第殺す。しかしそれはそれ。愛する我が子を抱きしめることすらできなかった母親は、どれだけ哀しかったろうか。母の腕に抱かれることなく命ついえたその子は、いかに悔しかっただろうか。人だ魔族だなど関係あるか!」


 ぶわっと涙や唾と一緒に鼻水まで飛び散らすフレイちゃん。可愛いのに残念だ。


「なるほどな。主君だのなんだのと、いまいち怪しいところもあるが……そら」


 ひげのおじさんは巨大ハンマーを下ろすと、大きな袋の中から皮袋っぽいのを取り出してフレイへ投げた。

 

「密かに王子の乳母役に無理言ってもらってきた。生まれて何も口にしていないはずだからな。腹を満たしてやってくれ」


 どうやら水筒らしい。中には俺が待ち焦がれた母乳が入っているのだろう。

 フレイは警戒していたが、俺が指示すると水筒の蓋を開け、俺の口にあてがった。

 

 ぐびぐび飲む。

 俺を殺すつもりなら、こんなまどろっこしいことはしない。しないよね?

 

 ぶっちゃけ味はまったくわからなかった。でも空腹は治まった。

 

「で、魔族よ。貴様はその子をどうしたいのだ? 連れ去ったところで育てられるとはとても思えぬ」


 うん、その意見には全面的に同意です。

 

「主君と仰ぐのは自由だが、本人が望むかは別問題だ。せめて成人するまでは、その成長を見守るのが臣下の務めではないか?」


 このおじさん、正論でぐいぐいくるな。

 フレイはぐうの音も出せない。


「反論はないようだな。では取引だ。儂はその子を預かる。成人まできちんと育てると誓おう。心配なら、貴様をその子の側仕えとして雇ってもいい」


 ちょっと驚いた。よく知らないけど、この世界では人と魔族は敵対していると思っていたんだけど……その辺りつっついてみるか。

 

「魔族を雇用するのか。周りが許すとは思えんな」


「その姿なら人との混血と疑われまい。というか、違うのか?」


「私は純血のフレイム・フェンリルだ」


 あえて正直に告白させてみる。さあ、どうする?


「なんと……これはまた大物だな。どうりでヘルハウンドどもが近寄ってこないわけだ。話がそれたな。貴様が純血種の魔族であることは、儂が黙っていれば済むことだ。貴様もそう振舞えばいい。そちらの返答は?」


「私を信用する理由がわからない。ゆえに貴様を信用できない」


「儂とて貴様を信用などしていない。もし妙な動きをしたなら、この戦鎚で頭をかち割る」


「はっ! 吠えたな人間。貴様こそ、我が主に害ありと判断したら、容赦なくその首を食いちぎってやる」


「どうして貴様がその子を主と仰ぐのか……今は訊くまい。取引は成立、と考えてよいか?」


 そこすごく重要だと思うんだけど、それ以上に俺の命が大切ってことなのかな?

 わからない。けど――。

 

「よかろう。ハルト様は貴様に預け、私はそばで監視させてもらう」


 ひげのおじさんは小さくうなずいて巨大ハンマーを背に収めると、荷物の中から白い布を取り出した。

 布をびりびりに破き、ナイフで自身の腕を斬りつけて血を布で拭く。


「王子を入れていたかごは破壊してくれ」


「獣に襲われ、食われたと思わせるわけか」


 フレイは俺を抱え、かごを踏み潰した。

 

 これで、俺は死んだと偽装できたはず。ミッション・コンプリート! 乳児時代を生き抜く糧も(たぶん)手に入れたぞ!

 

 ふひー疲れた……。でもフレイを介していたおかげか、対人コミュニケーション能力に著しく乏しい俺でもどうにかなったな。結果オーライと考えよう。

 

 そんでもって――。

 

 

 

 

 ――俺はゴルド・ゼンフィス辺境伯の庇護の下、まず十年を生き延びるのだった。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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