合法的引きこもりの条件
なぜか父さんを交えての三者面談じみた学院長とのお話ミッション。
学院長は俺のことで父さんと話が弾んでいるが気は抜けない。
「ハルト君は古代魔法に興味があるのでしたね」
ぎくり。
今度はそっちか。ちゃらんぽらんなティア教授は毛嫌いされているらしいからなあ。『あんな研究室から直ちに他へ移りなさい。それが授業免除の条件です!』とか言われたら身を削る思いですっぱりティア教授を切り捨てる覚悟がある。
あ、でもあの人、腹いせにシヴァの正体をバラす危険があるな。
その兆候をみせたら即座に拉致して俺の楽園に連れ去るか。そこで研究させとけば満足するだろう。
さあ学院長よ、条件を言ってみろ!
「なるほど。いまだ未解明の古代魔法ならばハルト君の不思議な力の秘密にも迫れるかもしれませんね」
おや? 意外にも肯定的ですね。
「ですが話を戻しますと、授業への出席を免除するにはその実力を信じるに値する結果を提示していただかなくてはなりません。知識の偏りは慎重に見定めるべきでしょう。また実技の授業で力を発揮できたとしても、実戦で通用するか今の段階では判断できません」
ですから、と学院長は静かに告げる。
「条件は二つです。まず講義の授業はこちらが用意する筆記試験に合格すること」
それはカンニングでどうとでもなる。
ハイ次どうぞ。
「実技に関しては本来卒業試験に該当するのですが、〝オリンピウス遺跡〟の探索に挑戦してもらいます」
うん、それも知ってた。
なんでも魔物が徘徊する古い建物で、地下深くまで続くダンジョンになっているらしい。
けど聞いた話では卒業試験は指定された魔物をやっつけたり、凄腕の教師たちが置いてきたアイテムを取ってきたりする程度らしい。
最深部はかなりヤバそうだとの話だったが、それこそ凄腕の教師でも近寄れない場所に学生を送りこむなんて――。
「ハルト君には最深部を探索してもらいます」
「えっ」
「そこに眠るとされる〝至高の七聖武具〟を見つけ出し、持ち帰ってくるのです」
「無茶振りでは?」
わけがわからんまま思わず素で返してしまったが、俺だけが抱いた感想ではなかった模様。
「待ってくれ! それはかつて魔王討伐の直前、閃光姫を含めた我ら討伐部隊が総出でも果たせなかった難題だ。そしていまだに攻略の手掛かりすらつかめていないのだぞ」
んなもん無理に決まってるやんけ。無茶振りなんてレベルじゃないぞ。
でも待てよ? なんでそんな危険な試験をやろうとするんだ?
ははーん、わかったぞ。
これはアレだ。『挑戦するその勇気を讃えましょう』とかそんな感じのやつ。
「わかりました。俺、やってみます!」
「ハルト!?」
ふふふ、大丈夫だよ父さん。ほら見てごらんよ、学院長は俺の勇気ある発言に恍惚と、まるで恋する乙女のような顔つきになったじゃないか。
「ああ、なんて勇敢な若者なのでしょう……」
ほらね。これで何もせず実技系の合格は勝ち取った。あとは筆記試験をカンニングで突破すれば――。
「貴方なら、きっと成し遂げると信じています。がんばってくださいね」
あれ?
「お前がそこまでやる気になっているのなら止めはせん。しかしくれぐれも無茶はするなよ?」
おや?
「期限は一ヵ月に設定しましょう。もし達成できなくても気を落とさないで。そのときは私がハルト君専用のカリキュラムを作りまして、しっかりと指導しますからね」
あーれーれーぇ?
マズい流れだ。冷静に対処しなければ詰む。
「すみません、ひとつ質問をいいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「もし俺が『無理です』と答えていたら、どうなったんでしょう?」
「達成できなかった場合と同様に、私が直接指導することになりますね」
なるほど。
要するにこの人、俺を独占したいんだな。モテる男は辛いぜ。言ってる場合ちゃう。
いやこれ、万が一達成しても化け物扱いされるやつやんけ。
しかし苦境にどんよりする俺ではない。
活路を見出そうとする前向きな俺に今、天啓が舞い降りた。
「やってやろうじゃないですか。でもひとつ、我がままを聞いていただきたい」
「なんでしょう?」
俺は声を大にして願う。
「パーティーを、組ませてください!」
俺一人では困難でも、みんなで力を合わせればクリアできるかもしれない。
そして勝利をもぎ取れたならば功績が分散して、俺の評価が相対的に抑えられるって寸法よ。
さあどうする?
学院長は頬に手を添え思案中。
ここはドアに顔を突っこむ的な交渉心理戦術を用いて承諾を勝ち取るのだ、と俺は先んじて告げる。
「魔王討伐部隊でもできなかった超難関なわけですし、外部の人を頼ってもいいっすよね?」
これが受け入れられればシヴァ投入も可能。しかし学生の試験に下手すりゃ父さんをも連れていける過保護な提案が通るはずはない。
断られたら『じゃあ学内の誰かで』と妥協する姿勢を見せ、『それならまあ仕方ないですねえ』と相手にも譲歩させる。結果的に『パーティーを組む』との目的を達成するのだ。
「いいでしょう」
やったぜ! 目的達――あれ? いまの『いいでしょう』は何に対して?
「外部の人を頼ってもいい、と?」
「はい。そちらにいらっしゃる『地鳴りの戦鎚』でもよいですし、自信があるなら『閃光姫』を説き伏せても構いません」
いや、さすがに公務で忙しい大物さんは……てか実母は気持ち的にノーサンキューです。
「最近何かと話題の『黒い戦士』でもよいですね」
まさかこの人、初めからシヴァを引っ張り出すために?
「もともとオリンピウス遺跡の探索試験は複数人でチームを組んで行われます。今回はハルト君個人の試験ではありますけれど、同様にパーティー戦で貴方の個の実力のみならず、協調性や指揮能力を測りたいと考えていました」
なんだよ、最初からパーティー前提だったのか。
「通常は学生がチームを組みます。ただ今回は難易度が非常に高いですから、学生だけのパーティーでは私も不安だったのですけれど……ええ、そうですね。特例として誰かに頼ることも認めましょう。なんなら私を選んでくれてもよいのですよ?」
なんとなく嫌な感じがするので遠慮します。
「本当に、『黒い戦士』でもいいんですか?」
「ええ。そのお仲間も先の王都騒乱事件で活躍された手練とか。ですが、彼らと連絡を取る手段はあるのですか?」
「まったくありませんがなんとかします」
「そういった根回しや交渉もまた、貴族社会で活躍するのに必要な要素です。がんばってくださいね」
この人って裏で何考えてるかさっぱりわからんな。てかティア教授が言うようにぜんぶ表なのか? だとすればよけいにわからんわ。
ともあれ、シヴァを投入できるなら勝ち筋は見えてくる。
そうだ。
めっちゃ強い魔物やなんかを相手する必要は何もない。隠された財宝を探すのなら、結界魔法でどうとでもなる、はず。
俺がそんなヘンテコ魔法を使っていると知られることなく、シヴァによってお宝を見つけたと思わせることができるのだ。
ハルト・ゼンフィスをそこそこ活躍させつつ、課題のブツを見つけて持ち帰る。
ただそれだけを考えて、作戦を練るぞ!




