誰か答えておくれよ
俺いいこと思いついちゃった。
ほらそこー。負けフラグとか言わなーい。
とりま懸念であった実技系授業に対し、俺は翌日の授業に間に合わせるため深夜まで必死に起きて考えていたら寝落ちしてしまうも、寝起きに策をひらめいた。
人間、やっぱりよく寝ないといいアイデアは浮かばないよね。
そんなわけで迎えました『魔法射撃(精密級)』の授業。
遠くの的を正確に、それでいて一定以上の威力でもって射抜かなければならない難易度の高い授業でございます。
俺はこの最初の授業で華麗にポンコツを演じようとしたのだが、不運にもカラスっぽい鳥に邪魔された。威力はへろへろ、的も見事に外したのだが石つぶてを遠隔操作したのが高く評価されてしまったのだ。
同じ轍は踏まないと心に誓って以降はのらりくらりごまかしてきたけど、今日は違う。俺には秘策がある。
ジャジャーン、と取り出したのは魔法銃だ。
「ほう、それが噂の射出型魔法具ですか。どうして今日はそれを?」
お爺ちゃん先生がしげしげと魔法銃を眺める。ふだん俺のコピーであるハルトCに持たせていて、俺自身は授業で使ったことがなかった。
「自分の魔法力に限界を感じまして……」
俺は苦悩を眉根に集める(ような演技をした)。
「いやいや、君は魔法を遠隔操作できる稀有な技を持っています。威力と精度はこの授業でみっちり鍛えれば向上するでしょう」
「いえいえ、俺の魔法レベルは2ですからね。これ以上は何をやってもダメでしょう」
「いやいや、そこまで自身を卑下することはありません。君はまだ若い。可能性は十分に残されていますよ」
「いえいえ、魔法レベルは生まれたときから変わりません。この世の理を覆すなんて努力では無理っすよ」
いやいや、いえいえ、と互いに譲らない会話が続くも、
「ともかく! これは我がゼンフィス家に伝わる秘宝。これさえあれば魔法レベル2である俺でもこの授業に付いていくことができるでしょう」
無理やり打ち切った俺は自信満々に魔法銃をふりふりする。
ふふふ。俺がぐっすり寝て起きた瞬間にひらめいた素晴らしい策。
それはズバリ『すごい道具を持っている俺はすごくないけどスゴイ!』作戦だ。
授業に出る必要がないほどの実力を発揮しても、それは道具がすごいのであって俺ではない。でも俺はそのすごい道具を唯一使える存在 (ということにする)なので、やはり特別であり授業には出なくていいよね、と思わせるのだ。
俺がさっそく魔法銃の性能を披露しようとしたところへ。
「ほう、それが噂の魔法具か。しかしゼンフィス辺境伯家にそのような秘宝があったとは初耳だね」
端正な顔つきをした銀髪の男子学生が寄ってきた。誰?
「言葉を交わすのは初めてだね。私はアレクセイ・グーベルク。四年生だ、よろしく」
にこやかながら目は笑っていないイケメンに見覚えはないが、低音のイケてるボイスには覚えがあった。
『1』の人だ!
謎の覆面学生集団『ナンバーズ』の中で一番偉そうだった男。見た感じは物腰柔らかでいて重厚な威圧感を醸すイケメンだ。モテるだろうな。なのにあんなオモシロ集団で威張ってるんだよな。残念だな……。
「その魔法具、見せてもらっても構わないかな?」
「ああ、はい。どうぞ」
『1』の人ことアレクセイさんは魔法銃を受け取ると、上から下から横からしげしげ眺める。
「ふむ。ここに指をかけて押しこむと、筒の中から魔法が射出される仕組みか」
そうつぶやいた直後。
「グーベルク君、何を!?」
お爺ちゃん先生が慌てて止めようとするも、俺に銃口を向けて引き金を引いた。
シーン。
何も起こらない。まあ当然だ。あれは俺(とハルトC)にしか使えないのだから。
「使うのにコツがいるのかな?」
しれっと尋ねるアレクセイさん。悪びれもしない。
「それは俺にしか使えない契約になっていますので」
「ほう? 契約者にしか使えないなんて……まるで〝至高の七聖武具〟のようだね」
「ふふふ……」
あちらさんがニヤリと笑ったので、俺も意味深な笑みで返した。なんだかよくわからんときはこうするのがいい、と前世でネット情報から得た知識だ。
お爺ちゃん先生が割って入る。
「まさか! 七聖武具は王国どころか世界の宝。それを言葉は悪いが学生に預けるなど許されることではありませんよ」
「しかし七つのうち二つは形状すら知られぬ伝説の武具です。そうと知られず眠っている可能性はあるでしょう。彼が肯定も否定もしなかったのは、そういう意味では?」
お爺ちゃん先生がむむぅとうなる。
これ、話はいい方向と悪い方向のどちらに進んでいるんだろう? きっといい方向だな。俺はネットの集合知を信じるよ。
「この魔法具の力をぜひとも見てみたい。どうかな? ハルト君、私と勝負してみないか?」
「へ? いやでもこの授業って対人戦闘じゃないですよね?」
「もちろんお互いを傷つけるようなことはしないさ。なに、ほんのお遊びだよ。べつに何かを賭けるわけでもないしね」
危険がないならいいかな、と一瞬思ったがよく考えてみよう。
詳しくは知らないが、この人はかなり優秀な人だと思う。なのにちゃんと授業に出ている真面目君だ。彼をちょっと超えるくらいだと周りはどう思うだろうか?
『お前『1』の人がちゃんと授業受けてるのにその程度でサボる気? かー、マジか。お貴族様だなあ』(皮肉たっぷりの視線)
いや俺お貴族様なんだけどね。むしろ王子様だし。
ともあれ想定する範囲では授業をサボるのが難しくなりそうな予感しかしない。
比較対象なしで魔法銃のすごさを見せつけ、勢いで『俺は授業など不要。だから単位だけちょうだいね(ハート)』ともっていくのがベターだろう。
よし断ろう。
おばあちゃんの遺言とか宗教上の理由とかそんな感じで。
「すみま――」
「やってやれよハルト。お前の実力を知らしめるいい機会だろ?」
俺の声を遮ったのはライアスだ。
「な、何にらんでるんだよ?」
余計なことを言いやがって、という目で見ています。
他の学生たちもはやし立てる。ほらね、もう退けなくなったじゃないか。
というわけで、残念ながら勝負することになってしまった。
「ではルールを説明しよう。的はそれぞれ五つ。すべて射抜くまでの時間で勝敗を決める」
実に簡単なルールだ。でもこれ、けっこう難しいな。
的を射抜くことではない。
俺の目的はあくまで『授業を合法的にサボる口実を得ること』だ。そのためにこの勝負で必要なのは、ただ勝つのではなく『圧勝』だ。
的は五つ。
んなもん五発を同時に射抜けば一瞬だ。けどルールを決めたアレクセイさんが、同時に破壊できないわけがなかった。
それでは互角の評価しか得られない。
考えろ、ハルト。ルールの隙をつく何かいいアイデアがあるはずだ。何か……何か………………ぐぅ。
一瞬寝てた。昨夜は夜更かししちゃったからね。
でもおかげでひらめいたぞ!
ルールの隙をつく抜群のアイデアが。
作戦はこうだ。
俺は的を射抜くための五発とは別に、アレクセイさんの攻撃を撃ち落とす魔法も同時に放つ。
勝負は先に的をすべて射抜いたほうが勝ちだ。なので相手が的を射抜けないようにすればいい。
ふふふ、策に溺れたなアレクセイさん、と俺が不敵に笑うも、彼は涼やかな笑みで応じるのみ。
はっ!? まさか向こうも同じ手を? あり得る。いやそれしかない。あの自信に満ち溢れた笑みと、彼が謎組織のリーダーっぽいのを考慮すれば、相当な切れ者に違いないのだ。
どうしよう? どうすれば?
考えがまとまらない中、
「準備はいいですね? それでは私が手を挙げたら開始してください」
お爺ちゃん先生は授業そっちのけで審判を買って出る。
「用意…………始め!」
しわしわの手が持ち上がった。
アレクセイさんは事前に詠唱していたようで、彼の眼前に五つの魔法陣が展開される。
騙されるな。
五つあるから五発だとは限らない。俺の魔法を撃ち落とす何かがあそこから放たれるのは確定的に明らかなのだ。
俺は魔法銃を構える。
だが奴への対抗策が浮かばない。
どうしようどうしましょうと焦りまくった俺は同時に見えない小結界を無数に生み出して、
ズガガガガガガガッ――!!
銃口が火を噴いたかのように見せかけての、すべての的を破壊し尽くす面制圧射撃。勢い余って的の向こうの盛り土まで跡形もなく消え去った。
ふはははは! どうだ。あんたの的は俺が先に破壊してやったぞ。これって俺の勝ちでいいよね? ダメかな? ルール的にどう?
藁にもすがる思いで先生に目をやると。
「はわわわわ…………」
大口を開けて目を見開き、ぷるぷる震えていた。声がかけられない。
ならば、と今度はアレクセイさんを見た。お前は文句を言ってくるか?
「な、ぁぁぁ……」
あれ? こっちもあんぐり口を開けて震えているぞ?
振り返ると、生徒諸君もみな同じ感じだった。
で、俺は今後授業に出なくていいの? 出なきゃダメなの? DOCCHI!?
俺の疑問に答えてくれる者は誰もいないよシャルロッテ――。




