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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第五章:学校パラダイス計画
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早期退学できぬなら


 ティア教授はシヴァを一瞥したのち、部屋に飛びこんできたコピーに正対する。

 

「ハルト君、どうかしたのかい?」


「実は俺、学校が嫌いなんです。もう退学したいので協力してください」


 いきなり真顔で何言ってんのこいつ? シャルにも話していないトップシークレットなのに! また嫌なことがあったのかな? あったんだろうな俺だもの。

 

「仮にも教師にする頼み事じゃないね。辞めたいなら自主退学という手があるけど?」


「それができたらこんなとこ来ませんよ!」


 逆ギレぎみにふんぞり返るハルトC。客観的に見て俺ってクズだな。

 

「俺はね、引きこもってぐうたら過ごしたいんですよ」


「どうしようもない男だなあ、キミは」


「なのに、なんでか知りませんけど国王が俺を推薦なんかしやがりましてね」


「おっと自慢かい?」


 ハルトCは俺なんぞお構いなしで、むしろときおり睨みを寄越しながら、身振り手振りを交えて学院に通うに至った経緯を語り、理想の引きこもり生活を解説し、あまつさえ早期退学計画にも触れる始末。

 

 いったい彼に何があったというのか?

 

「ふむ。事情はおおよそ理解したけどやっぱりコレ、教師を頼る案件ではないよ?」


「そこをなんとか!」


 必死である。俺って奴は……。

 

 うーんと腕を組むティア教授はちらりちらりと俺を見ないで?

 と、またも廊下を駆ける靴音。

 

「やはりここにいたか、ハルト・ゼンフィス!」


 片眼鏡をかけた金髪の美人教師が現れた。

 

「げぇ、オラトリア・ベルカム!」


「教師を呼び捨てとはいい度胸だ。だが許そう。私は呼び名にはこだわらない。今から補助属性に関する貴様の見解をたっぷりねっちり聞かせてもらえれば尚更にな」


 ベルカム教授はハルトCの襟をぐっとつかんだ。

 

「ちょっと待って! 俺いま授業中なんっすけど!?」


「教授並みかそれ以上の知識を持つ貴様が講義を受ける必要がどこにある? というわけで担当教授に話はつけてあるから安心しろ」


「なんで俺のときだけこんな目に! 今日は俺の担当の日じゃないのに!」


 たしかに今日は、本来なら俺が授業に出る第五曜日だ。けどゴメン、事後処理で今日はいろいろ動き回る必要があったから交代してもらったのよね。

 

 あ、思い出した。

 この前の俺の担当日に、同じくベルカム教授に捕まりかけたのだ。そのとき『次は必ず』と約束して見逃してもらったのだが、そうか、今日たまたま見つかってしまったのか。

 ……ゴメンね。俺が蒔いた種だった。

 

「俺は何もわからんのです。今日は調子が悪い日なんですってば!」


 訴えもむなしく、ハルトCは女教師に連れ去られてしまった。

 またストライキを起こされそうで胃が痛い。

 

「さて、シヴァ君はどう思う?」


「何がだ?」


「ハルト君の実力からすればオラちゃんを振り切るのは容易いはずだ。けど彼はあれほど嫌がっているのに簡単に捕まってしまった。おかしくはないかい?」


「調子が悪い日、と言っていたな」


 今日はリザも側にいなかったからなあ。円卓会議とやらで。そういう意味では不幸が重なった日と言えなくもない。

 

「なるほどねえ。さっきワタシが言った難問とはまさしく〝調子が悪いハルト君〟の存在なのだけど……そのうち話してくれるのかな?」


 そこまでわかってんなら隠す意味なさそうだなあ。

 いっそコピー(あいつ)に倣ってティア教授を早期退学計画に引きこむか。うん、そうしよう。なんかいろいろ面倒臭くなってきたし、ティア教授は方向性こそまったく異なるが『現在の地位や状況より優先すべきものがある』という根本部分で俺と一致しているし。

 

 俺はずぽっとヘルメットを脱いだ。

 

「ぶっ!?」


 盛大に噴き出すロリっ子メガネ。

 

「そうです。シヴァの正体はハルト・ゼンフィスでした」


「難問を難問のまま正体を明かさないでくれたまえよ!」


 なぜか怒られた。

 

「なぜキミが二人もいるのさ?」


「さっきのは俺のコピー、あるいは分身。結界魔法で作った体に、俺の思考をトレースして人工知能を組みこんだものです」


「さらっと難解に言ってくれるなあ。理屈の説明を求める!」


「なんかいろいろやってたらできちゃったんですよね」


「感覚だけで人と寸分違わぬ自律人形ホムンクルスを作ってしまったのか……。キミ、本当は神様か何かなんじゃ?」


 神様は信じていないのでは?

 

「そんなことよりティア教授」


「うぉい! 説明! ちゃんとしてよ!」


「だから俺にもさっぱりなんですよ。で、相談があるんですけど」


「まだワタシを働かせるつもりなのかい? だったら先にいくつか報酬を受け取りたいのだけどねえ。ま、みなまで言わずともわかるよ。ハルト君のコピー、だったかな」


「ハルトCです」


「……その呼称で区別してるのか。安直だね。まあいいや。キミの願いはそのハルトC君が言っていた、『早く退学させてよ!』ってことだろう?」


 話が早くて助かる。俺はうなずいた。

 

「キミが学院の枠に収まらないのは理解している。ぶっちゃけハルト君が学院に留まるのは無駄だと思うよ」


 おお! もっと話が早いぞ!

 

「でも無理だね」


「なにゆえ!?」


 ティア教授は腕を組んで困り顔。

 

「キミは本当に自身の関心事以外には無頓着だねえ。ワタシが言うのもなんだけどさ」


「解説プリーズお願いします」


 はいはい、とティア教授は指を二本ぴんと立てた。

 

「理由はふたつ。まずキミは『国王の推薦』の意味を軽視しすぎている。国王アレは凡庸だけど愚昧ではないんだ。ゆえに権威が大きく失墜していようと支持する者はいまだに多く、『王の言葉』はキミが考えているよりずっと重い」


「ふむ、つまり?」


「たとえキミが無能をきちんと演じきれたとしても、教師連中は『じっくりねっとりみっちり指導すれば多少は芽が出る』と期待するし、期待しなくても必死にそれを目指すのさ。留年も退学もさせず、どうにかこうにか進級させて五年後に卒業を迎えるまでね」


「………………えっ、それって端から詰んでたってこと?」


 こくりとうなずくティア教授。

 俺はあちゃーっと額をぺちり。

 

「理由一個だけですやん!」


「いやいや。もうひとつの理由こそ真にキミを縛るものだよ。仮に王が自身の非を認めて推薦を取り下げたとしよう」


「おおっ! その手があったか!」


 シヴァになって脅せば一発だ。理由なんていくらでも捏造できる。

 

「話は最後まで聞きたまえよ。キミはご両親、特にゼンフィス卿に迷惑をかけたくないのだろう?」


「王様が勝手に推薦して勝手に取り下げたなら問題ないですよね?」


 ティア教授はなぜだか首を左右に振る。

 

「言ったろう? 王の言葉はいまだに重いんだ。しかもゼンフィス卿は国王派閥のトップ。その息子が王に推挙されながら振るわなかったとしたら、周囲はどう見るだろうね?」


「どう見るんですか?」


 はあ、とこれみよがしにため息を吐きやがったぞ?

 

「ゼンフィス卿は国王派内で求心力が低下し、敵対派閥に付け入る隙を与えるね。比較的高い世間一般の評価も下がるかもしれない。後者はさほど影響ないにしても、貴族社会でのゼンフィス卿の地位が揺らぐことは確実であり、致命的だよ」


「なんで息子の俺が退学したくらいで? しかも義理ですよ? それに最初から魔法レベル2のポンコツという触れ込みだったのに」


「貴族連中の足の引っ張り合いってのはそういうものさ。むしろ直接本人を狙わないから質が悪い」


 むちゃくちゃめんどくせえ……。

 

「でも不思議だね。ぶっちゃけワタシは当初、魔法レベル2のキミが王の推薦を受けたと聞いて陰謀論を疑ったものさ。蓋を開けてみれば神代の化け物クラスの古代魔法使いときた」


「陰謀、って……ああ、無能の俺を王に推薦させて父さんを失墜させようって奴がいたと?」


「うん。でもまあ、さすがに王がそれを見過ごすとは思えない。彼は愚昧ではないからね。だからワタシは何かあると睨んで入学前にキミの実力を知ろうとしたのさ」


「となると、王様は俺が無能じゃないと考えたってことですよね? 俺、直接の面識はありませんよ?」


 実の息子ではあるけど知られてはいない。父さんも知られないよう注意していたはずだ。

 

「国王を説得できる人なんて片手の指で数えられる程度だよ。というか状況から一人に絞られる。キミ、マリアンヌ王女の前でその実力をいかんなく発揮したことはなかったかい?」


 姉ちゃん?

 あー、十歳くらいのころに一度、当時クソ生意気だったライアスをボコったなあ……。

 てことは姉ちゃんが余計なことをしてくれやがったのかあ……はあ……。

 

「心当たりが思いっきりあるみたいだね。でも四つん這いになって打ちひしがれる必要はないよ。まだ手はある」


「なんですと!?」


 俺はがばっと起き上がる。

 

「発想を転換するのさ」


「どこを引っくり返せば!?」


 俺がずいっと顔を近づけると、ちょっと嫌そうな感じでティア教授は仰け反る。すこし冷静になった俺はたまには自分で考えるかと思考を巡らせた。

 

 まずもって俺の第一目標は学校を早期に退学することだ。しかしながらティア教授によれば現状、それは不可能に近いらしい。

 いや待て。履き違えるな俺。やりたいのは『引きこもること』だろう?


 前提を再確認した俺の目の前では、ちびっ子メガネがぬぼーっとしている。

 そういやこの人、授業は週ひとコマしか受け持ってなかったな。それ以外はずっとこの研究棟にいて……。


「ああっ!」


 まさか、まさかぁ!?

 

「気づいたようだね」


 うん、俺わかっちゃった。

 学校の呪縛から逃れられないというのなら――。

 

「学校で引きこもればいいじゃない!」


「その通りだよ!」


 これぞ天啓。コロンブスの卵的発想の転換だ!

 さっきベルカム教授も言っていた。『教授並みかそれ以上の知識を持つ貴様が講義を受ける必要がどこにある?』と。

 俺がこの学院の枠に収まらないとことさら強調して認めさせれば、俺は学校に在籍しつつも授業に出なくてよくなるかも。

 

「って、マジそれって可能なの!?」


 俺は心底訝った――。


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