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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第四章:王都、騒乱
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円卓の騎士、出撃です!


「しかし冷静に考えて、ここは学院なのだから教師に頼るべきでは?」


 言葉のとおり冷静になったイリスフィリアが言う。

 

「これほど巧妙に隠蔽された魔法術式です。『どんなものか』を説明し、納得してもらうには時間がかかるでしょう。『解析わかるんです』は明るみにできませんし、時間がありません」


「時間がない?」


 イリスフィリアは虚空に浮かぶ文字列を注視する。

 

「時限式ではないようだけれど……ん? 今日の夜には自然消滅してしまうのか」


「はい。そう最適化されています。それはすなわち『今夜までに起動する』意図の表れでしょう。起動条件は不明ですけど、今この瞬間、起動してもおかしくありません」


 術者が遠隔で起動させるとあるのだが、術者が誰でどのような手法、タイミングかは読み取れなかった。


「起動させないためには術式を破壊するのが最良だ。それとて一筋縄ではいかないだろうけれど、成功したとしても連動して他の魔法術式が一斉に起動してしまう。やっかいだな」


 イリスフィリアとリザが難しい顔をする中、

 

「なら四つ同時に破壊しましょう」


 シャルロッテはあっけらかんと言い放つ。

 しかしイリスフィリアは少女の瞳に揺るぎない信念を見た。

 

(知っている。アレは無根拠な妄言とも、無垢なる期待とも異なる性質からくる自信だ)


 手札から導き出されるあらゆる手法を考慮し、いくつもの最良手が用意できた者のみが到達する境地。

 かつて自身を滅ぼした最優の戦乙女――閃光姫と同じだった。

 

(いや、魔王と対峙した(あのときの)彼女よりも自信にあふれている。なんなんだ、この子は……)


 理由は明らか。

 シヴァという絶対的な存在を、彼女は信じて疑っていない。水が高所から低所へ流れる不変の摂理を信じるがごとく。むしろ摂理に反しても成し遂げるとの信頼の為せる業か。

 

(きっとこの少女は、彼を深く知る人物だ)


 その正体にすら迫っているのかもしれない。

 

(知りたい、ボクも)


 だが自分にはまだ資格がない。そう痛感させられるほどの潜在能力ポテンシャルをシャルロッテは持っていた。


「ん~……でも手が足りませんね」


 リザとフレイは力任せでどうにかなる。シャルロッテにも秘策があった。

 しかし四ヵ所に対して三人だ。シヴァには頼れない。


「リザ、ここの魔法術式を起動できない状態にしたうえで、遠隔操作で破壊することはできますか?」


「できる……と思う。けど、地脈がすでに使われているから、維持するにはわたしがここから離れられなくなる」


「維持を誰かに頼めばできますか?」


「どうかな? 魔法レベルが高くないと無理かも」


「ティア教授にお願いしましょう」


「彼女はダメ。あの人、起動したところを見たがると思う」


「そ、そうなのですか?」


「絶対」


 うーんと悩む二人に、イリスフィリアが声をかけた。

 

「ボクに当てがある。まだ学内にはいるはずだ。誘ってもいいかな?」


 シャルロッテは一瞬きょとんとしたものの、にっこり微笑んで言った。

 

「もちろんです。兄上さまのご友人が推薦されるのですから」


 つられてイリスフィリアの頬も緩む。

 

「ではこちらは頼むよ」


 自己強化した彼女は疾風のごとく林の中へ消えていった。


「フレイに状況を説明しておきましょう。彼女には墓地の魔法術式を破壊する準備をしてもらいます」


「わたしはここの破壊準備をしたら、ここから一番近い王宮前に行けばいいかな?」


「そうですね。ではわたくしは南の大聖堂に」


「わかった。じゃあ、始める」


 リザは静かに呪文を唱え、冷気をその身にまとうのだった――。

 

 

 

 イリスフィリアは二人の生徒を連れて戻ってきた。

 うち一人の男子生徒が林の中の光景を見て叫ぶ。

 

「なんだこりゃあ!?」


 愕然としたのはライアスだ。その横にはマリアンヌがいて、同じく驚きに目を見開いていた。

 

 三メートルほどの氷の〝杭〟が、いくつも地面に突き刺さる直前で停止していた。

 魔法術式の起動を抑えつつ、地面に打ちこめば術式を破壊するリザの魔法だ。


「マリアンヌ王女! マリアンヌ王女ですね。お久しぶりです!」


 シャルロッテは戸惑う王女の手を取ってぴょんぴょん跳ねる。

 

「もしかして……シャルロッテちゃんですか? まあ! 大きくなりましたね」


「はん、ちんちくりんがそのままでっかくなっただけだな。てかコレ、お前がやったのかよ?」


 ぎろりと上から威圧するライアスに、シャルロッテは目をくりくりさせた。

 

「どなたですか?」


「ライアスだよ! 姉貴と一緒なんだから気づけよ」


「……成長促進? そんな魔法があったとは驚きです」


「ねえよ! ふつうに育ったんだよ!」


「そんなことよりライアス王子」


「くっ……、やっぱこいつまったく変わってねえ……」


 ぐぬぬするライアスを気にした様子もなくシャルロッテが言う。

 

「こちらの魔法の制御権をあなたに委譲します。よろしいですか?」


「あ、ああ。イリスから話は聞いてるけどよ……」


 正直実感が伴わない。貴族派が台頭して国内はぐちゃぐちゃのドロドロではあるが、王都を混乱……いや騒乱を招くような企てが進んでいるなんて。

 

(けどまあ、シヴァって野郎が絡んでるんだよな……)


 救国の英雄にして王妃たる母ギーゼロッテが警戒する男だ。子どもの妄想と切り捨てるには躊躇われた。

 

(それに、あの魔法って『氷結の破城杭』だよな?)


 魔法レベル30以上が使えるランクB相当の魔法だ。それをあの数作り上げるには、術者はレベル40オーバーだろう。お遊びと一笑できるものではなかった。

 

「いいぜ。やってくれ」


 ライアスが自身の魔力を高めると、体に冷気が絡みついた。瞬間――。

 

「ぬおっ!?」


 魔力が練り上げた端から吸われていく。

 

「ちょ、こんなん無理だっつーの!」


 弱音を吐くライアスに一喝が飛ぶ。

 

「気を強く持ちなさい、ライアス!」


 とたん、魔力の吸引が弱まった。

 

「私も手伝います。二人がかりでなら、なんとか……」


 言いつつも、マリアンヌも眉間にしわを寄せて余裕がなかった。

 彼女が伸ばす左手の甲、王紋が光を帯びる。

 ライアスの背もシャツ越しに光り輝いた。


(か、カッコいいです。わたくしも欲しい!)


 シャルロッテは王紋に目を奪われるも、今はそれどころではないとぶんぶん首を振る。

 

「リザ、どうですか?」


「ん。制御が安定した。杭を打ちこむのはわたしが遠隔でやるから、維持だけに集中して」


「早いとこ頼むぜ。夜まではもたねえぞ」


 こくりとうなずいたシャルロッテは四次元ポーチに手をつっこんだ。引っ張り出したのはピンクでふりふりの衣装だ。

 

「……おい、何やってんだよ?」


「わたくしも戦闘モードに移行します。よい……っしょと」


「でぇ!?」


 いきなり服を脱ぎ始めたので、ライアスは慌てて目を逸らす。


「というか、そのポーチの容量以上の物が出てきているのだけど……?」とイリスフィリア。


「細々した説明は後ほど。リザ、ちょっと手伝ってもらえますか?」

 

 シャルロッテはリザの手を借りえっちらおっちらと着替えを完了。

 

「正義の魔法少女イモータル☆シャルちゃん、死の運命(あなたのなやみ)ぶちのめ(かいけつ)します♪」


 マジカルステッキっぽいものを持ってポーズを決めた。


「急げっつってんだろ!」


「わたくし、これを着なければ空を飛べませんから」


 衣装にはハルトが様々な機能の結界を仕込んでいるのだ。

 

「といいますか、言外にそこはかとなく殺伐とした雰囲気があったのですが……?」


 マリアンヌの疑念に「気のせいです」としれっと返したシャルロッテ。

 

「みなさんにはこれを」


 腕時計型の通信魔法具をイリスフィリアに渡し、ライアスとマリアンヌには嵌めて回った。

 リザともどもふわりと身を浮かせると、


「では、わたくしたちは他の魔法術式の破壊へ向かいます。がんばってください!」


 ぴゅーんと林を越えて飛び去った。

 

「使い方の説明くらいしていけよ……」


 零した彼の腕がぴこんと光り、

 

『今から説明します』


「どわっ!?」


 眼前にシャルロッテの顔が表示されて心底驚く。

 

「もうどうにでもしてくれ……」


 もろもろの疑問を解消するのは後回し。今は状況を受け入れるしかないと諦めるライアスたちだった――。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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