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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第四章:王都、騒乱
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現在進行形の黒歴史


 大人しく授業を受けるのと、広い校内でひたすら人を探し回るのと。

 はたしてどちらが楽だろうか?

 

 一人でいられるだけマシだと自分に言い聞かせ、俺はあっちこっち飛び回り、ようやくそれっぽい人物に狙いを絞った。

 

 四年生の男子生徒。成績も家柄もそこそこのいい感じの、頬がこけたインテリ風の兄ちゃんだ。

 実はこいつ、シュナイダルの取り巻きの一人だった。シュナイダル誰? と俺も忘れかけていたのだが、入学式の日に俺とイリスに絡んできて、最終的には俺の逆鱗に触れて謎時空に放り出された人。

 

 怪しい臭いがぷんぷんするので、俺はこいつを張ることにした。同じ寮にいたしね。

 数日は動きがなかったものの、授業のない第六曜日になって初めて奴は学外に出た。


 陽が落ち、薄暗くなったころ。

 乗合馬車も使わず、人目を避けるように路地をあっちこっち移動して一時間ほど。

 

 古びた集合住宅が密集する地域にやってきた。

 人はまったくいない。のんだくれが道で寝っ転がってそうな雰囲気だが、猫の子一匹歩いていなかった。

 

 脇目も振らず集合住宅のひとつに入ると、いくつも張られた探知用結界の中、せっせと階段を上っていく。

 

 俺は奴の後ろをぴったりくっついて、結界の隙間を余裕で通過する。

 もちろん姿は消してあった。光学迷彩で気づかれてはいない。

 

 四階の扉の前で奴が立ち止まった。何やら呪文を口ずさみ、扉に指で文様をなぞると、かちゃりと開錠して扉が勝手に開く。

 立ち入ったあとから俺も楽々侵入する。

 

 中は意外にも広い。部屋がいくつもあった。

 奴は手前の部屋に入ると、無造作にいくつも置かれた木箱のひとつに手を伸ばした。『7』の文字が描かれている。

 

 木箱を開けると空瓶やらが入っていて、それを丁寧に取り出してから、箱の底をこつこつ叩く。ぱかっと底が開き、白い布っぽいものが畳まれていた。二重底か。

 

 白い布は衣装だった。

 ひらひらの貫頭衣をすっぽり被る。で、白い布でできた頭巾を装着する。頭はとんがっていて、目の部分だけくり抜かれていた。額部分には二匹の蛇が絡まった模様があり、中央に『7』と描かれている。

 

 着替えた部屋から廊下に出て、一番奥の部屋に突き進む。またも呪文やらで扉を開くと、そこには――。

 

「遅かったな、ナンバー(セブン)

 

 燭台の灯かりがほのかに揺らめく中、大きな円形のテーブルに、九人が座って待ち構えていた。みな同じような白い装束で顔を隠している。

 

「ナンバー(ナイン)とナンバー11(イレブン)は欠席だ。君で最後だよ、ナンバー7」


 額に『3』の人がそう言うと、別の数字がいろいろ言い始めた。


「新参のくせに我らより後に来るとはな」(『4』の人)

「大したご身分ね」(『12』の人)

「シュナイダルの太鼓持ちが今ではなあ」(『10』の人)

「〝ナンバーズ〟を軽く見ていないかい?」(『6』の人)


 ……うん。

 白い服を着始めた辺りで気づいてはいたけどね。

 状況や若そうな声から推察するに、こいつらはみな学院の生徒だろう。

 

 喜べ妹、お前の願いはようやく叶う。

 

 エリート校の、学生さんが、『ナンバーズ』とかいう秘密めいた組織の、秘密会合を! しかも覆面して番号で呼び合うとか気は確かか?

 

 ヤバいぞ。シャルが見つけたら絶対に食いついてくる。

 早々に彼らの現在進行形的黒歴史を世に知らしめ、組織を瓦解に追いこまなければ!

 

 だがしかし、時すでに遅し。

 

 俺が入ってくる前から、天井にぺったり貼りつく透明な板状物体。俺にしか見えてないが、アレは俺がシャルたちに渡している監視用結界だ。

 

 繋がりを辿っていくと、建物からちょっと離れた裏路地に赤髪のメイドがいた。『ふふふ、愚かな連中め』とか『見られているとも知らず』とか『まさに一網打尽の絶好機!』とか期待しまくりのご様子。

 

 そしてフレイは通信用結界も起動していて、そこでは『見つけました! 裏! 生徒会!』とか『わたくしなんだかワクワクしてきました』とか『あ、突入はダメですよ? 情報収集が目的ですので』などと興奮しまくりながらも冷静なご様子。

 

 俺も『7』の人にくっついてこずに、遠くから見てればよかったなあ。

 しかしどのルートでここに至ったのかね? シャルちゃんホント侮れない。

 

 とりあえず見なかったことにして、オモシログループに注目する。

 

「静粛に」


 低音のイケボが静かに一喝すると、ぴたりと喧騒がやんだ。『1』の人だ。

 

「我らの関係はこの場において対等であるべし、との理念を忘れたか? なぜ我らが覆面をして互いに数字で呼び合っているか、思い出してほしい」


「その理念をないがしろにしていたのは、他ならぬ前ナンバー7だろうに」と『4』。

「そもそも〝序列〟無視は〝貴族至上主義〟の我らと相容れないと思うけどねえ」と『6』。

「だいたい、今日の会合はナンバー7を糾弾するのが目的だろう?」は『10』かな?

「そうね。二度も仕損じてよくも遅れて現れたものだわ」とは『12』、か。

「厚顔極まりないですね」ってのは……初出の『2』。


 ってめんどくせえ!

 わいわいしゃべったら誰が誰だかわからなくなる。体格や声の違いはあるのだが、額の数字をいちいち確認するのはとても辛い。のでもうやめる。

 

 ただし一番偉そうで威厳のあるイケボの『1』は声だけでわかりやすかった。


「誤解しているようだが、この会合はナンバー7を糾弾する場ではない。失敗の原因を明らかにし、大目標達成に向けて次なる手を考えるのが目的だ」


 ぐるりとみなを見回す。

 示し合わせたように複数の声が続いた。

 

「腐った王政の打破」

「貴族至上主義の復権」

「我ら〝選ばれし者〟の手によって」


 へえ、そう。うん、がんばってね。

 どこからか小躍りしてそうな楽しげな声が聞こえてきたが俺はスルーする。


「報告は聞いているが、君の口から仔細を話してほしい。ナンバー7」

 

「最初は、僕の攻撃が何かに弾かれた……と思う。二度目はライアス王子が組み伏せられたタイミングと重なって外れた」


「既存報告と同じじゃないの。貴方ね、あれから何日経ったと思っているの? 初回が『何に』弾かれて、二回目に外れた〝針〟は回収できたのか。それらの調査はどうなったのよ?」


「……わからない。針も見つからない」


 失笑が漏れる。

 

「二度目は不運であったとしても、初回の失敗はどうにも腑に落ちないね。ナンバー7、君は狙いを外したのを『防がれた』と偽っているのではないのかな?」


「違う!」


「まさか直前になって臆したのではないだろうね? アレは『殺傷能力は皆無だ』と〝協力者〟は言っていたのに」


 くすくすと嘲笑が生まれた。

 

「だから違う! 何か透明の壁のようなものに当たった……ような気がする」


「それで消失した、と? あの針には高位の魔法防御も貫く効果が施されていたはずだ。ライアス王子レベルの自己強化でも防げない、とね」


「僕は事実を言っている。だから二度目は慎重に慎重を期したのに……あの男に邪魔されたんだ」


 一同が押し黙る。

 あの男って誰だ?

 

「ハルト・ゼンフィスか」


 俺かよ。

 

「ゼンフィス辺境伯の息子だったわよね?」

「だが平民の孤児を引き取ったらしいぞ」

「魔法レベルも2で、とても最上級の実技授業に耐えられるとは思えないが」


「私はどちらもその場にいた」


 ほう、『1』の人は同じ授業を受けていたのか。

 

「彼の実力は本物だ。特に体術に関してはこの場の誰よりも上だろう」


「貴方よりも? ナンバー1」


 こくりとうなずく『1』の人。その前に『当然ですね!』とドヤリ声も俺にだけ聞こえたが、ともかく周囲の緊張が一気に高まった。

 

「かなりの逸材だ。欠員が出たならすぐにでもナンバーズに迎えたいところだな」


「待て、ナンバー1。ゼンフィス辺境伯は国王派の筆頭だぞ? しかもハルト・ゼンフィスの出自は平民なんだろ?」


「我ら〝選ばれし者〟に俗物を入れるわけにはいかないね」


「戦力として利用するにはよいのではなくて?」


「ゼンフィス卿も国王派ではあるが、王妃派と敵対しているという意味ではこちらに近い」


「どうかな? 『地鳴りの戦鎚』は実力さえあれば平民も重用する男だ。〝貴族至上主義〟の我らとは相容れないのでは?」


「ゼンフィス卿も『使えるモノは使う主義』であるとは考えられないかしら? 貴方もその意味で言ったのでしょう? ナンバー1」


 自分勝手な議論は盛り上がっていく。

 俺は壁際に腰を落として最後まで聞いていた。

 

 連中がライアスを狙ったのは間違いない。実行犯は『7』の人だ。

 でも〝針〟に施された魔法を正確には知らされていなかったらしい。特に『相手を苦しめて殺す』効果はまったく考えてもいなかった。

 

 目的も知れた。

 

 このナンバーズとやらは、国王派と王妃派の対立を煽るつもりだったようだ。

 まずはライアスを襲って国王派に疑いをかける。

 次にマリアンヌ王女を狙い、王妃派の報復と思わせる。

 そうして彼ら貴族派(?)が漁夫の利を得よう、とかそんな感じ。

 

 ざっくりまとめるとガバガバに見えるが、詳細を聞いてもやっぱりガバガバでお粗末な計画だった。

 

 もしライアス襲撃が成功していて、あいつが死んでたらどうしたんだろうな。『コンナハズジャナカッタ』とか泣いちゃいそう。

 

 けっきょくのところこいつらは、放っておいても自壊する程度の連中に感じる。

 子どもの遊びの域を出てないんだよなあ。

 

 だからいいや。こいつらは放置。

 顔は隠してるけど全員の素性は簡単に割れるしね。シャルたちの遊びに付き合ってもらおう。そうしよう。

 

 問題は、だ。

 

 こいつらを裏で操っている〝協力者〟とやら。

 学生を騙し、ライアスの暗殺を目論んだ連中だ。

 

 メインは『貴族派』って勢力だろう。あとは会話の端々に出てきた、『ルシファイラ教団』とかいう宗教組織。

 

 大元っぽいそいつらをどうにかすれば、この騒動も収まるはず。

 

 悪い大人はやっつける。正義の執行者シヴァの出番である。めんどくさいね。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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