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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第十章:バズっちゃいましたか

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クインテット!


 計画が甘かった。

 判断を誤った。

 決定が遅かった。


 そんな誹りを受ける未来が頭をよぎる。

 

 はたしてそうだろうか?

 

   ――頭が重い。


 自分たちは駆け出し以上、中堅にはまだ届かない程度ではある。ただしここ、トウキョウ=ダンジョンの第10層へ降りてきたのは初めてではない。すでに四度目だ。

 むろん今回はさらに先へと進む計画ではあったが、だからこそ準備はいつも以上に怠らなかった。


     ――体が軋む。


 さらに言うなら今現在、自分たちがいるのは前々回に訪れたことのある通過点でしかない。

 他の多くの〝探究者(エクスプローラー)〟が付近の探索をくまなく行い、どの魔物がどの程度の密度で現れるかも確定情報として出回っている。

 

       ――全身が、悲鳴を上げている。

 

 そうだ、だからこそ、おかしいのだ。


「く、そが……、なんだって、こんな……」


 精神(こころ)を蝕む不協和音が、肉体にいくつもの不調と傷を植えつけてくる。


 数メートル先、水没した観客席(・・・)に大型のカエルが五体、それぞれ違う楽器を奏でていた。


 とあるコンサートホールのステージ上。そこに探究者たち(かれら)はいた。

 脚の折れたグランドピアノ、落下した照明でくぼんだ床。

 演者と視聴者の位置は逆転し、それでもカエルたちは水面に小波を生み出している。


 ヴァイオリンにコントラバス、ホルンとオカリナ、そして腹にティンパニを抱えたひと際大きな個体がいた。蝶ネクタイと手袋だけのふざけた格好をした連中が、バカでかい口から長い舌をときどきべろりと出してくる。


 ひとつひとつは美しい調べであるはずなのに、五重奏クインテットはてんでバラバラ。テンポも強弱も音程ですら合わせる気がないのか、それぞれ勝手気ままに打ち鳴らしていた。


 ヴァイオリンの調べは平衡感覚を乱す。

 コントラバスの響きは身体を重くする。

 それぞれの楽器のが、違った効果でこの身を弱らせていく。さらに五つが重なると、皮膚が小さく裂け、肉がわずかに千切れ、神経に棘が刺さって骨が軋む。それが、延々と続いていく。


「なんで、五匹も、いやがるんだ、よ……。ここじゃあ、三匹まで、だろ、う、が……」


 絞り出した怨嗟が、大音量にかき消される。

 

 あと何分、持つだろうか?

 自分はまだ耐えられても、仲間は? とくに彼が抱く女性探究者は耐久値が比較的低めで、すでに呼吸が薄くなっている。


 ステージ上で演奏を聞きながら、ひび割れた床に伏す自分たち。手足が痺れ、意識が薄れゆくのを全身の痛みが許してくれない。


 時間が進むにつれて絶望が積み上がる。

 この絶体絶命の窮地において、さらなる絶望が襲ってきた。

 

 曲調が変わる。

 水面がいっそう激しく踊る。


 楽器を奏でる強さが、上がったのだ。

 

(クライマックス、か……)


 腕の中の彼女は、もはや数秒と持たない。これで確実に死ぬ。

 クライマックスが終わりを迎えるまでに、自分も息絶えるだろう。

 

 ならせめて、この苦痛を終わらせてくれ。

 声にはならず、ただ大粒の涙がボロボロとこぼれゆく中、にじんだ視界に、幻影(きぼう)を見た――。




 唐突に、人影が目の前に現れた。

 悪魔たちの演奏から守るように、間に割って入ってきたのだ。


 薄闇の中で翻る、純白のポニーテール。対照的な黒いパンツスーツ姿ながら、しなやかな体躯から女性とわかる。顔だけ後ろ(こちら)に向けると、赤い瞳に怯んだもののその美貌から戦乙女を連想した。


「マリアンヌ! 彼らの治療を最優先だ!」


 言うや、男装の美少女は右腕を高々と掲げた。

 雷鳴にも似た音と光が弾ける。

 瞬きする間に彼女の腕と背に、奇妙な武具らしきものが装着されていた。


 ぼぉっ、と。

 自分たちの周りが穏やかな光に包まれた。痛みが、軋みが、目まいが、薄れていく。


「ごめんなさい、私のスキルはその特性上、一気に回復はできないんです。ただ状態異常は消えたはずですし、継続ダメージは止まったと思います。個別の治療は、そちらの女性に集中しますね」


 こちらもまた、モデルやアイドルも顔負けの美少女だ。

 金髪碧眼で優しい笑みをたたえる彼女。

 白髪ポニーが戦乙女なら、こちらは慈愛に満ちた聖職者か。実際、白を基調としたロングローブは聖職者という表現にぴったりだ。ただかもす気品から、どこかのお姫様のようにも思える。


 痛みがさらに薄れていく、破れた皮膚が元に戻っているのが見て取れた。

 安堵とともに、疑問符が浮かぶ。


 自分は、知らない。

 腕に装着した奇妙な『杭』のような武器で、カエル型の魔物を一撃で粉砕する探究者を。

 ランクA⁺のスキルを展開させながら、ランクA相当の治療系スキルを併用する何者かを。


(いや待て、本気で待て。治療特化のスキルでもこのスピードで回復するなんて無理があるだろ!?)


 腕に抱く女性探究者は先ほどまで死にかけていたのに、今はきれいな顔で穏やかな寝息を立てている。

 さらに安堵が広がるものの、またもや異常な状況に疑問が湧き上がる。


「ヴァイオリンは厄介だから先につぶしたけど、キミのスキルの範囲内なら問題なかったね」


「維持できる時間はまだたっぷりありますから、イリスさんもすこし休んでいてください」


「ありがとう。でもさほど疲れていないよ。魔力もほとんど消費していないしね。ま、これから魔法は使いまくらなくちゃいけないだろうけどね」


 なぜ、のほほんと会話しているのか。というか、今なにか妙な言葉を口にしていなかったか?


「とはいえ、リザが来るまでは手持無沙――っ!?」


 突然、白髪ポニーの美貌が引きつった。

 遠く、女の高笑いが聞こえたかと思うと、

 

 どーーんっ!

 天井が抜け落ちてきた。瓦礫よりも早く、ざっぱーんと水没した観客席に何かが水柱を立ち昇らせる。


「うわははははっ! 次の獲物はこいつらか!」


 威勢よく水柱から飛び出したのは、女剣闘士風の姿をした――(ケモミミにもふもふ尻尾、だと……?)


 燃えるような赤い髪は水浸しで、本来はひらひらした布の衣装もぴっちり豊満な肢体に貼りついている。片方だけの肩当てと両のすね当て、編み上げのサンダルブーツといったシンプルな衣装ながら、獣の耳やら尻尾やらで賑やかだ。


 だがギラついた双眸は肉食獣のそれ。広げた両の手のひらには、それぞれ火球がどんどん大きくなっていき……。


「待てフレイ! 全滅させるつもりか!」


 いや、全滅させるべきでは? と探究者の男は思うも、どうやら別の理由があるらしい。

 

「それは、わたしの獲物」


 別の誰かが降ってきた。今度は小さい。

 小躯全体を濃紺を基調としたローブで包んでいる。襟を立ててあごまで隠し、目深に被ったフードからはわずかに薄い青の髪が覗いていた。


 水面に触れる寸前に止まると、同心円に小波が走る。

 瞬間、風が舞った。

 凍てつくほどの風が頬を引っ掻く。

 

 あり得なかった。

 冷気に一瞬気を取られた隙に、少女の二倍はあろうかという巨大な槍を彼女は握っていたのだ。

 瞬時に現れた巨槍もあり得ないが、幼げな少女が軽々持つさまもあり得ない。


 さらにあり得ないのが、


「ふっ――」


 一瞬だった。

 水面に触れぬまままっすぐに飛び出すと、ローブの少女は横にひと薙ぎ。たったそれだけで、残る四体の魔物をまさしく『一掃』してしまったのだ――。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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