〝探究者〟、俺たちやれます!
「トウキョウ=ダンジョン……とはなんでしょうか?」
小首をかしげる可愛いシャルに、俺はスマホで調べつつ話す。
三年前、東京タワーのすぐそばに突如として巨大な〝穴〟が現れたそうな。
緩やかな下り坂がどこまでも続いていき、まるで地獄へとつながっているかのような深い深い穴だった。
「で、穴の中は何層にも連なった巨大な地下迷宮になっている、と」
巨大な地下迷宮という言葉にシャルが瞳を輝かせる。可愛いね。
「オリンピウス遺跡のようなものですか!?」
「イメージとしてはそれっぽいな」
とはいえ規模は段違いみたいだな。
第一層からして超有名リゾートパーク全域くらいあり、下に行くほど広くなる。現在到達可能な最深は第二十二層で、そこは千代田区の半分くらいの広さらしい。
うん、ごめん、規模感はよーわからんなコレ。
ユリヤが会話に入ってくる。
「オリンピウス遺跡ってことは、魔物も出るの?」
「そうみたいだな。魔物って呼ばれてるのがいるっぽい」
どうやら生き物ではなく、倒せば跡形もなく消えるし、たまにアイテムをドロップするそうな。
まるでゲーム世界の敵キャラのように。
「へえ、楽しそうね♪」
連中は多種多様な種類がいて、強さもまちまち。それぞれ活動域が決まっているらしく、そこからはもちろん、穴の外へ出てくることもない。
一方で侵入者には容赦なく、誰であろうと問答無用(そもそも言葉を話さないが)で襲ってくるのだ。
静かに聞いていたマリアンヌお姉ちゃんがほっと胸を撫でおろす。
「外に出てこないなら街の人々には直接的な被害はないのですね」
「それにしては仰々しいほど堅牢に囲んでいるね」とイリス。
たしかにダンジョンへの入り口はぶ厚い鉄筋コンクリートで厳重に覆われている。
モンスターが外に出ないのが信用ならんから、という理由もあるのだろうが、けっきょくのところ。
「資格のない奴らが勝手に中に入ろうとするのを防ぐのが一番の目的らしい」
〝穴〟は政府の管理下にある。
ドロップアイテムもそうだが、ダンジョンの中に貴重な品々が転がっているらしく、それらを入手すれば高値で取引される。
だから中を探索するには国家資格が必要で、
「その資格を保持する人たちを『〝探索者〟』と呼ぶのですね!」
羨望の眼差しを俺に向けられても照れるのだが、この流れってもしかしなくてもそうだよなあ。
「わたくしも〝探索者〟になってみたいです!」
「わたしも!」
シャルとユリヤがずびしっと手を挙げる。ですよねー。
と、背後から声がした。
「王国へ戻るには例の〝孔〟に到達しなければならない。そして〝孔〟はそこのダンジョンの奥深くに移動したらしい。となれば、やることはひとつだ」
振り向くと、どこぞへ姿をくらませていたユリヤの片割れ――ウラニスがいた。
「ん? お前、その手に持ってるのって……」
スマートフォンだ。でも俺はこの世界でまだひとつしかスマホを入手していない。当然、こいつにも渡していなかった。
「ああ、これか。好戦的な連中に金を出せと要求されたので交渉して譲り受けた」
ふむ、カツアゲされたのを返り討ちにしてスマホを取り上げたのか。
「どうせここには長く滞在すると思ってな。情報を得るにはこの装置が最適だと判断した」
たぶんだけど、わざとガラの悪い連中に近づいたな、こいつ。
ウラニスが話を戻す。
「さて、なにより本人たちがやりたがっているのだから、乗らない手はないと思うが?」
「でもなあ、〝探索者〟とやらの資格を取得するにはいろいろ条件があってだな――」
まず明らかな身分。これはまあ、スマホを入手したときの方法でなんとかなる。
だが年齢でそもそも引っかかる。未成年(18歳未満)はダメなのだ。もっともスマホを入手した方法でこっちもなんとかなるな。
とはいえ明らかな外国籍もまた……うん、日本人ってことにすればいいのか。
あれ? ハードルなくない?
「いや、最後にひとつ、厄介そうな条件があるぞ?」
安心しきった俺に、ウラニスが淡々と告げる。
「実のところ厄介かどうか、オレにはよくわからない。その辺りはハルト、どう判断する?」
俺はもう一度、資格取得の条件を読み返した。
ん? たしかにひとつ、変なのがあるな。
「個人では申請できない……のか?」
政府が認めたいくつかの団体――『探究者事務所』と呼ばれるものが存在し、そのいずれかに在籍しなくてはならないらしい。
その事務所内で『資格取得に値する実力がある』と認められて初めて、資格に挑戦できるということだ。
元は外国勢力の排除が主目的だったみたいだが、今は資格取得者の安全を配慮しての意味合いが強い仕組みらしいな。
一番大きな事務所は政府直轄のもので、他の事務所は政府によって厳しい審査を通過したところしか認められていなかった。
「団体を作るとなると時間がかかりそうだよなあ」
そもそも審査基準がよくわからん。
だから現実的な案ではないだろう。
「となれば――だ」
俺は手にしたスマホをタタタッと操作する。
「お、あった。ここなんかいいんじゃないか?」
政府公認の探究者事務所の一覧を眺め、そのうちのひとつの詳細情報を表示する。
ユリヤが覗きこんできた。
「? ずいぶんと小さなところね。規模は最小クラスだし、取り柄といえば設立が最初期ってことくらいじゃない?」
ほう、目の付け所がいいじゃないか。
「ああ、最初期ってのは今に比べて審査は緩かったと思うんだよな。なのに規模が小さいってことは、要するにダメダメな事務所ってやつに違いない」
「そんなところに所属してどうするのよ?」
怪訝そうな表情はユリヤだけじゃなく、この場の誰もが同じだった。
けど――。
「そういうとこのほうが、乗っ取りやすいと思わないか?」
俺は小声で言った。
そもそも俺たち以外の連中は邪魔でしかないからな。
合法的に、そしてなによりシャルに感づかれずにやる方法がきっとあるある。
というわけで俺たちは、候補をいくつか絞り、その門を叩くのだった――。




