スクランブルっ!
よくわからん〝孔〟を吸いこもうとしたら逆に吸いこまれました。
うん、本当にわからんが、こうなっては仕方がない。運を天に任せつつ、俺は俺にできることをやるのみだ。
みんながバラバラにならないよう球状結界を作ってみんなをその中に集めた。
念のため諸々機能を追加して安全を最優先。
ついでに『糸』を通しておく。
黒い〝孔〟に吸いこまれたにしては、真っ白な世界だった。
俺が作った転移用の魔法具『どこまでもドア』なら移動中は一瞬で景色とかはまったく認識できないのだが、さすがに『異なる世界へ移動する』となれば瞬きの刹那というわけにはいかないらしい。
が、それでも数秒。
急速に視界が開けた。
〝孔〟を通る間も感じていた浮遊感はそのままだ。
なにせ俺たちは今、空中にいる。
近場のビルの高さを考えて、ざっと三百メートル上空だろうか。
眼下には人がひしめき合っている。
いや、肩が触れ合う距離で大勢が密集しているのに、理路整然と行き来していた。
見たことがある。
それどころか、引きこもりの俺が訪れたことさえある場所だった。
「ほわああっ! ここ! アニメで見たことあります!」
シャルが大興奮で叫んだ。
――渋谷のスクランブル交差点ですね!
なんともはや、とんでもないところに転移してしまったものだ。
ひとまず落下を食い止めるべく、足元に透明な結界で床を作る。
シャルとユリヤが下の景色を眺めながらはしゃぐ姿にほっこりしつつ、視線をぐるりと回した。
転移した直後には視界の端にたしかにあった、黒い〝孔〟が見当たらない。
「ハルト君、これはいったい……」
不安そうなマリアンヌお姉ちゃんに、俺は静かに告げた。
「どうやら俺たちがいた世界とは異なる世界――異世界に転移したらしいですね」
「異世界……だって?」とイリス。驚愕に目を見開いている。
事の原因となったフレイはしゅんとしていた。自覚はあるらしい。
リザは理解不能な魔法や現象が苦手なので落ち着かないみたいだし、ウラニスはなぜか目を閉じ黙していた。
「ハルト、キミやシャルロッテ、それにユリヤはこの場所を知っている風だけど……その、アニメという例のあれで?」
「まあ、そうだな。あれは別の世界の映像配信サービスを引っ張ってきたものだ。この国を舞台にしたアニメもたくさんある。というか、シャルがよく見ていたアニメはこの国で作られたものだよ」
「よ、よくわからないけど、案内はキミたちに任せていいのかな?」
さて、どうだろうな。
イリスへ説明したものの、俺は違和感を抱いていた。
俺が転生する前の渋谷とさほど変わらない。時間経過による変化はあるだろうから、多少のズレはあっていい。
でも、なんていうか、なにかが違うような?
かすかに肌をひりつかせるこの感覚は、むしろ今の俺の日常に近くて……。
ま、この辺りは考えても仕方がないか。
「ひとまず調査に乗り出すか。目的は元の世界に帰ること。でも例の〝孔〟は見当たらない。消滅した、というより『どこかに瞬間移動した』ような気がするんだよな」
と言いつつ、俺は確信していた。
〝孔〟は別の場所に移動しただけで、この世界のどこかに必ず存在している、と。
場所はたどっていく必要があるけど、急いだところでつまらない。
せっかくだから観光するのもいいだろう。
そんな風に、ウキウキのお子様たちを見て思うのだった――。
当面の資金が必要だ。
幸い俺の謎時空収納はここでも使えたので、中から金目のものを引っ張り出す。
へそくりの金貨をひとまず一枚。換金所へレッツゴー。
結論から言うと、かなりの額になった。帯にギリ届かないくらい。
うそ、純金ってそんなに高いの? ただ身分証を提示しろとか未成年には売れないとかいろいろ大変だったが、そこはちょっと言えない方法で乗り切った。
制服とメイド服では目立ちすぎるので、服はそこらを歩いている人のコーディネイトを適当に見繕って作ってみた。
ちゃんとしたものは観光がてらショッピングを楽しむ一環で買えばいいかな。
続いては言語の問題。
俺やシャル、ついでにユリヤ(とたぶんウラニス)も日本語は堪能である。
翻訳用結界というものを、俺は初めて作った。
なにせアニメ視聴組は言語学習能力がめちゃくちゃ高かったのでね。
無色透明ながら耳にはめればあら不思議。日本語はもちろん英語やなんかも翻訳してくれる優れものだ。この状態で話しかけると相手には日本語で聞こえるって寸法よ。
うん、マジでどういう仕組み?
ともあれ。
これで準備は整いました、っと。
いざ、東京(っぽいところの)観光を楽しむとするか――。




