大丈夫です、あなたは目的の作品の続きをご覧になっています
十章スタートです~
〝初見っす。ダンジョン生配信ってマ?1層でも電波届かないんじゃ?〟
〝謎の超技術らしい〟
〝『魔法』って言ってたよ〟
〝ん? 固有スキルが『魔法』なんか?〟
〝わからん。俺たちは雰囲気でこの配信を見ている〟
〝いいんだよ可愛けりゃ〟
〝$100.00 Charl-TAN…Yuliya-TAN…huff…huff…〟
〝赤スパの変態がおるw〟
〝ポリスメンあいつです〟
〝海外ニキくそワロ。てか日本語チャンネルなのに海外ニキネキ多いな〟
〝We’re just watching this stream for the vibes.〟
コメント欄が追いきれないほど流れていく。
今もっともホットな動画配信チャンネル。
日本時間で平日の夕方、アメリカやヨーロッパでは深夜あるいは早朝であるにも関わらず、今日も視聴者の同時接続数は開始数分で100万に迫っていた。
チャンネル名:侵界実況†禁呪の魔法探索少女†チャンネル
痛々しいチャンネル名はさておき、初配信から一週間で登録者数は1000万人を超え、世界中から注目を集めている。
映し出されているのは遥かなる平原。
雲ひとつない青空の下、緑の波が流れている。
信じられないことに、そこは地下深くにあった。
頭上を覆うはずの岩盤はどこにも見えない。太陽のように輝く光源は斜め上の一点に固定され、風は時おり向きを変えながら不規則に吹いてくる。
明らかに不自然な情景であるのに、自然そのものを体現している違和感に息苦しささえ感じられた。
あり得ない景色に、あり得ないはずの出で立ちの美少女が二人。
一人はピンクを基調とした愛らしい衣装を幼い肢体にぴっちり貼りつけ、ステッキを手に宙に浮く。金色にきらめく髪を風になびかせ、つぶらな瞳をキラキラと輝かせていた。
もう一方は対照的な銀の髪。幼い容姿に反してふくよかな胸元が金色の衣装を盛り上げる。同じく宙に佇む彼女は金の瞳が妖しく揺れ、見た目の年齢に反して艶を醸していた。
そう、それはまるで『魔法少女』のような出で立ちだ。
幻想的にすら映る彼女たちに熱狂していた視聴者たちが、次の瞬間、息を呑んだ。
カメラが少女たちの視線の先へと移る。
麗らかな景色にはまるで似つかわしくないモノが、画面中央に鎮座していた。
『urrrrrr……』
腹の底に響くような唸り声に、コメント欄が数瞬、停止した。
あるいは禍々しい漆黒の〝靄〟が、そうさせたのかもしれない。かろうじて四足歩行だと見て取れるが、それ以外の情報は大きさのみ――体高二十メートルを超える巨躯だった。
我に返った彼らが一様に、その名を書きこんだ。
〝夜嵐狼王やんけ!!〟
その名に反して黒い靄は穏やかだ。草原にそよぐ風のよう。
しかして虚ろで禍々しい巨躯からは、周囲を圧殺するような〝気〟が放たれていた。
〝いきなりフロアボス級は草〟
〝前にどこぞの騎士団を半壊させてなかった?〟
〝半壊(再起不能)〟
不穏な言葉が書き込まれると、今度は一斉に『これは勝てん』『二人じゃ無理ゲー』『はよ逃げろ』『マジこれヤバえぞ』などなど、緊迫した様が伝播して退くよう訴えかける。
だが、当の少女たちはと言えば――
「さっそくそれっぽいのに出会ったわね」
「レアなアイテムは落とすでしょうか!」
銀髪の少女はニコニコと、金髪の少女はワクワクしている様子。
反してコメント欄は『逃げろ』が滝のごとく流れていく。
銀髪の少女がちらりと横を見た。
いつの間にか虚空に半透明のウィンドウが表示されている。
「逃げないわよ? そうじゃなくて、アレが何で、レアアイテムをドロップするのか教えてもらえるかしら」
コメントを拾ってのセリフだろう、金髪の少女もウィンドウを覗きこんだ。
ちょうどそのとき、コメント欄にチャンネル管理者からのコメントが届いた。
「夜嵐狼王、ですか。脅威ランクはA⁻……って、どのくらいの強さです?」
「さあ? でもそんなに強そうには見えないわね。ルシファイラの合成獣の方がマシかな」
銀髪の少女は微笑みをたたえて歌うように告げると、片手をゆっくりと空へ向けた。
〝いや無理だって!〟
〝マジ逃げてくれ〟
〝死なないで!〟
悲鳴にも似たコメントが爆速で埋め尽くされる。
それを笑い飛ばすかのように、銀髪の少女が突き上げた腕を思いきり振り下ろした。
とくに何も起きなかった。
たしかに、か細い腕を振り下ろした瞬間は、何も起きていなかったのだ。
けれどひと呼吸の間を置いて、
『urrr!?』
唐突に、黒い巨獣がその全貌を現した。
正確には、黒い靄をその場に残し、中にいた本体が50メートルの距離を一気に詰めてきたのだ。
まるで黒い炎のように蠢く体毛。赤色の瞳は禍々しく、それでいて驚きに見開いていた。
そう、驚いていた。
巨獣は魔法少女たちに襲いかかったのではなく、銀髪の少女の一振りで彼女に引き寄せられていたのだ。
「シャル、お願い!」
軽やかに弾ける声音に、金髪の少女が応じる。
「行きますよー、『夜闇殲砕』!」
手にした魔法のステッキを構えると、迫りくる巨獣を目がけて、
――バチコーンッ!!
〝?!?!!!??????〟
〝え、殴ったの? 魔法とやらは?〟
〝そもそもなにが起こった!?〟
力の限り振り回したステッキは巨獣の顔面にヒット。
突進する勢いは完全に殺され、その衝撃はすべて巨獣の頭部に集中した。
必然。
ぱあっ、と。
ナイトテンペストロードの巨躯が淡い光に包まれる。やがて粒子と化した光とともに、その巨体もしゅわしゅわと泡となって消えていく。
〝一撃、だと……?〟
〝脅威度A⁻やぞ〟
〝ところでナイトメアなんちゃらって?〟
〝ツッコミが追いつかん〟
半ば放心状態のコメント欄を横目に、魔法少女の二人はハイタッチ。
と、消えゆく魔獣から虹色の光が弾けた。
そして一冊の書物風の何かが、虚空に現れる。
「アイテムがドロップです!」
「これってレアなのかしら?」
二人、飛んで書物風アイテムをキャッチ。
だが近くで見ると薄汚れ、黒く妖しい瘴気のようなものがにじみ出ていた。
見た目明らかに『当たり』ではなさそうな雰囲気にがっかりする二人。
しかしコメント欄では、
〝ここまでのあらすじ:初手フロアボス級に遭遇→一撃必殺→虹色ドロップ〟
〝え、怖……〟
〝脅威度上がると虹って出やすくなんの?〟
〝そこまで検証されてなくね?〟
〝スキル本か? このタイプは初めて見たわ〟
〝レアどころかURなんじゃ?〟
〝開始十分で終わったんだが〟
〝この子らマジなんなん?〟
その後、思い出したように赤やら黄やらいろんな色のスーパーチップ(いわゆる投げ銭)が怒涛の勢いで投下されまくった。
今日の配信タイトル:
【トウキョウ=ダンジョン】初めての30層! レアアイテムが出るまで帰れないですぅ><【攻略Part7】
長丁場になるとの予想は、いい意味で裏切られた。まさか初っ端の魔獣狩りで終わってしまうとは。
仕方がない、と俺はこそっと二人に指示を出す。
「応援ありがとうー♪ でもこれで終わるのはなんだかつまらないわよね?」
「いったんこの枠は閉じまして、あらためて30層を探索しましょう!」
さらに沸き立つコメント欄。同時接続数は300万を超えていた。
そうして画面の中の魔法少女二人は、締めのあいさつのあと、定型文を最高の笑顔で告げるのだ。
「「チャンネル登録、高評価をお願いしまーす♪」」
というか、どうしてこうなった?
俺はほわほわほわわ~ん、とあの日を思い返すのだった――。
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