饒舌に語るやつはたいてい詰んでる
黒い魔弾――かすっただけで体を蝕び腐敗させる呪いの弾丸は、シヴァとテレジアに容赦なく襲いかかっている。
展開された監視用結界には、彼らと同じく魔弾の脅威にさらされているシャルロッテたちの姿が映し出されていた。
「ははははっ! 見てください、無駄とも知らず防ごうと必死ではありませんか。あちらも魔弾の危険性には気づいているようですね。しかし防戦一方ではいつまでもつか」
楽しくて仕方ない風で、帝国皇帝の姿をしたヴィーイが高らかに嗤う。
「ふむ、あの中では地上にいる女……たしかこの国の王女でしたか、アレが最初に脱落しそうですね。魔力増幅術式を体に刻んでいるようですが、他に比べて一段劣ります」
もはやシヴァすら眼中にないとばかりに解説を続けた。
「奇妙な格好をした男がその次と見ました。ただ衣装そのものに強力な防御術式が仕込まれているようですから、呪いの効果は半減するでしょうか。まあ、苦しみが長く続くのですからむしろ不幸とも言えるでしょうがね」
またも高笑いをする彼に、
「もう勝った気でいるのですか?」
テレジアが鋭い視線と言葉を飛ばす。
「たとえ無尽蔵の魔力を得たとしても、貴方が瞬間的に扱える魔力がこちらを圧倒しているわけではありません」
テレジアの〝神〟としての特性は【暴走】だ。
理性は残しつつも短時間ながら魔法力を数倍に高める。その圧倒的な強さによってかつては多くの〝神々〟が彼女の手に落ちたのだ。
ヴィーイが険しい顔つきになる。が、それも一瞬ですぐに相好を崩した。
「自信があるなら語る前に、特性を使って不意討ちでもすればよかったのでは? お前がそれを使うのは必殺必倒の場面のみ。わざわざ成功確率を下げるのはどういう意図でしょうね」
ニヤニヤと笑う彼に、テレジアは凍るような声音で告げる。
「貴方への配慮ではありませんよ。不意を衝こうものなら逆に邪魔されると危惧したからにすぎません」
ヴィーイが眉をひそめた。
その瞬間を狙って一歩前に出ようとして、
「やはり、そうですか……。なぜ止めるのです? シヴァ」
男が片手でテレジアを阻んだ。
「……」
無言を貫く男に、テレジアは疑念が渦巻く。一方で不可解でもあった。
(彼が本当にハルト・ゼンフィスならば、シャルロッテさんを危険に晒すでしょうか?)
腑に落ちていないのはヴィーイも同じだ。
黒い魔弾の雨を完全に防いでおきながら、反撃ひとつ寄越さない。それどころか〝神殺し〟の決死の覚悟をも制止した。
何か仕掛けてくるのは間違いない。
勝利への絶対的な自信を抱きながらも、苛烈なる魔弾の攻撃は数をさらに増し、反撃の隙さえ与えないつもりだ。
ヴィーイに慢心はなく、油断も排除していた。
だから、
――理解できなかった。
体が、動かない。
理由は単純で、肉体と精神が分離したからだ。
しかも儀式中枢から流れこんでいた魔力も完全に遮断されている。
ふつうならこの時点で精神は霧散してしまうのに、どうして自分は思考できているのか?
「ちゃんと見えさえすれば、けっこう簡単なもんだな」
全身真っ黒な男――シヴァが口を開いた。いくつもの声音が重なったような不快な声だ。
「あれ? なんで攻撃が止まらないんだ?」
黒い魔弾はいまだにシヴァたちを襲っている。
「ああ、そういや自動運転みたいなもんだったか」
シヴァが展開した半透明ウィンドウには、シャルロッテたちもいまだ黒い魔弾の脅威にさらされていた。
「ま、あの程度ならシャルたちでも大丈夫か。そんじゃ――」
どこか不真面目な物言いはここまで。続けて引き締まった声を上げた。
「待たせたな、魔法少女の諸君。こちらの準備は整った。そちらも始めてくれて構わない」
彼の言葉が届いたのか、シャルロッテとユリヤの目の色が変わった。
やがて仲間の力を受け取った二人の魔法少女は、とてつもない威力の魔砲弾を撃ち放った。
白に染まった世界がやがてすこしずつ色を取り戻すのに合わせて、黒い巨人はしゅわしゅわと霞に消えるのだった――。




