決着はやっぱり魔法少女と仲間の力とかそんなやつで
黒い巨人は封じた。
だがそれはあくまで、〝動き〟に対してのみ。
大地に伏して微動だにしない巨人から、瘴気のようなものが立ち昇る。瘴気はあちこちで寄り集まって塊と化した。ひとつひとつがこぶし大の弾となる。
「いけない、それに触れてはダメよ!」
ユリヤの絶叫を合図にしたかのように、黒い魔弾は一斉に撃ち放たれた。
シャルロッテだけではない。
ユリヤへ、イリスフィリアへ、マリアンヌへ、ライアスへ。
それぞれ防御魔法陣を展開して初弾を防いだものの、黒い魔弾は後から後から生み出されている。
彼女らにシャルロッテを護るだけの余力がなくなった。
『そこで私の登場だ。ぬおおおっ!』
赤い大狼が炎を吐き出し魔弾を砕く。
「フレイは下がって。貴女は的になる。シャルロッテ様はわたしが守る」
次に襲いくる魔弾は氷塊がぶち当たって軌道を変えた。
『ぬぅ、たしかに。では後方から援護するとしよう』
フレイは後方に飛び退いて炎を展開、炎弾で黒い魔弾の一部を相殺していく。
だがその効果は限定的だ。
個々への攻撃圧は弱まったものの、かすらせても終わりの状況では追い詰められる一方だった。
このままではジリ貧だ。
イリスフィリアは聖武具もどきで魔弾を弾き落としながら、上空の魔法少女たちに目をやった。
ともに真剣な顔つきで呪いの魔弾に対処している。
シャルロッテは黒い巨人の動きを完全に封じながら自身もそれに注力せざるを得ないため、防御はリザに任せていた。魔弾には目もくれず、巨人へ意識を集めている。リザに全幅の信頼を寄せているのがわかった。
ユリヤは冷静に、迫りくる魔弾ひとつに対して防御魔法陣をひとつだけ展開しては防いでいた。魔力をなるべく使わないように、との策だろうが、並の集中力で為せる業ではない。
舌を巻く一方、違和感が芽生えた。
ユリヤもまた、黒い魔弾ではなく巨人へ多くの意識を裂いているように思えたからだ。
(たしかに魔弾は巨人から湧き出る黒い霧から発生しているものだけど……)
どちらが主体かは一目瞭然。
そもそも黒い巨人もあの霧から生まれたのではないのか?
「おい! さすがにもたねえぞ!」
ライアスの弱音に意識を戻す。
苦悶の表情で守りに徹するマリアンヌ同様、それぞれ王紋の輝きによってどうにか保っているが、その光も徐々に失われていた。
時間がない。
断崖絶壁に押しやられているような、最悪な苦境を打破する策が見い出せない。
だというのに幼い少女二人だけは、ただ何かを信じて待っているような……。
――唐突に、道が拓けた。
それはどこからともなく聞こえた、馴染みあるが奇妙な声音だった。
『待たせたな、魔法少女の諸君。こちらの準備は整った。そちらも始めてくれて構わない』
イリスフィリアもマリアンヌもライアスも、言葉の意味はつかめても、その内容に思いが至らなかった。
「ようやくね。待ちくたびれたわよ」
「こちらも準備はオッケーです!」
しかし二人の魔法少女には伝わっているようだ。
ユリヤが動いた。魔弾の雨の中をするすると掻いくぐり、ピンクの魔法少女に寄り添う。
シャルロッテはユリヤと目が合うとうなずいて、
「何をするつもりだ! 巨人を解き放てば状況はいっそう悪くなるぞ!」
両手を自由にした。
特殊能力による拘束がなくなり、黒い巨人がゆっくりと起き上がる。
その間にも魔弾は容赦なく降りそそぐも、
(すべて二人に向かっている。何かを感じ取ったのか?)
自分にはいまだに状況が理解できない。
マリアンヌやライアス、フレイやリザまでもどこか困惑している様子だ。
わからない。
まったく何もわからない。
だからこそ――。
「残る魔力をすべて二人に預けるんだ!」
イリスフィリアは叫ぶと同時に残る魔力に火を灯した。一条の青い光が、いまだ上空に佇む魔法のステッキへと突き進む。
残る仲間たちも彼女に倣う。
いくつもの光の帯が、ステッキに注がれていった。
「ありがとうございます。みなさんの友情とか愛情とかその他もろもろ、たしかに受け取っています!」
「あれ? わたしにも流れてくるんだ。これ使っちゃっていいのかしら」
「構いません!」
きっぱりと言い放ったシャルロッテの手に、光り輝く魔法のステッキが吸い寄せられた。
二人、背中を合わせて半身の態勢になる。
「いきますよ」
シャルロッテが魔法のステッキを突き出す。
「いつでもどうぞ」
ユリヤは片手を突き出した。
背中合わせのまま、無言で同時に二人はうなずく。
二人が伸ばした腕の先に、巨大な魔法陣が現れた。魔法陣はさらにひとつ、ふたつと前方へ重なって描かれていく。
都合、十三枚。
これまでで最大規模の魔法陣が連なり終わるや、
「「ツイン・サテライト・バスター!!」」
掛け声も高らかに、ピンクと金の光が螺旋を成して巨人目がけて撃ち放たれた。
ピンクと金の光線はやがてひとつにまとまって、巨人の胸の中心にぶち当たる。
そうして眩いばかりの光が辺りを白に染め上げた――。




