もう一度! お願いします!
奴は魔法少女になれるモノを奪い、儀式に復活したと推測した俺。
どんな方法を使ったかは知らない。実際のところ、そこを知らなくても問題はない。
「あいつが【強奪】したのは〝聖なる器〟そのものだ。なんらかの手段で『儀式に勝利した』とシステムの根幹に誤認させたのだろう。つまり奴は勝者として願いを叶えた。その結果があの姿なのだよ」
実のところ本人がそれっぽいこと暴露してたんだよね。
「いくらなんでも突飛すぎではないですか?」
まあね。そもそも『勝者と誤認させてから魔法少女になる』のは事実関係が前後してるし。
けど今回はなにせ『概念バトル』だ。屁理屈をこねくり回してなんぼだからな。ヴィーイはその辺りをうまいことやったんだろうさ。
「さて、この情報で対策は打てるかな?」
唖然としていた学院長は美貌を引き締めた。
「十分です。方法は単純にして明快。奪われた〝聖なる器〟をヴィーイから奪い返す。厳密には〝器〟の中身を、ですね。そうすれば彼は儀式から切り離されるでしょう」
話しているうちにそうじゃないかと思ったけど、やっぱそうなるよな。
となればさっそく……って待てよ?
『その〝聖なる器〟の中身ってどこにあるのさ?』
先んじてアドバイザーが疑問を投げてきた。
優勝トロフィー的な現物は俺の手元にある。だがそれは中身が空っぽだ。
概念的な〝聖なる器〟の本体は……修正版『〝聖なる器〟レーダー』によればあの黒くてドロドロした巨人の身体の中ですね。
『体内に入るには魔法少女の力で突破しないとだけど?』
ここでまたも『俺が魔法少女にならねば問題』が発生した。
繰り返すが、べつに魔法少女にならんでも謎時空をフル活用すれば巨人の奥深くにある〝聖なる器〟はゲットできるはず。
でもそれって儀式を楽しんでるお子さまたちに水を差しやしませんかね?
『要はシャル君たちへの言い訳が必要なんでしょ? だったら――』
続く解説に膝を打つ。
さすがはアドバイザー。それならピンクちゃんも納得してくれるだろう。ゴールドが納得するかは知らんしどうでもいい。
俺は上空で苦戦している少女たちに声を張り上げた。
「魔法少女ピンク、そしてゴールドよ! しばらくの間でいい、この巨人を足止めしてくれないか」
ピンクちゃんは汗をにじませて両手を突き出している。
ゴールドも魔法陣を最大展開して攻撃し続けていた。
「これ以上働けってことね。いいわ、なんだか楽しそうだし」
「合点承知です!」
俺は二人に大きくうなずき、地上の二人にも声をかける。
「ピンクとゴールドの援護を頼む」
「わかりました。ですがシヴァ、貴方は何をするつもりなのですか?」
「キミの攻撃はボクたち同様、通じないはずだ」
それでもなんとかするのが正義の執行者なのだが、今回はまあ、適材適所でやりますよ。
上空の魔法少女二人もこちらに耳を傾けている。
俺は静かに応じた。
「一時的ではあるが、魔法少女を一人復活させる」
あくまでイレギュラーへの対処のみってことで、俺は高らかに告げる。
「頼んだぞ、テレジア・モンペリエ学院長!」
「ええ、やはりこの場は貴方しか――は? 私が? 貴方ではなく?」
「ああ、奪われたモノを取り戻す。そら、貴女の特殊能力にぴったりじゃないか」
言って、俺は片手を高々と挙げた。
「ちょ、待ってくださ――はぅわあっ!?」
残念ながら聞く耳は持ち合わせておりません。
ぺかーっと光りが辺りを包む。その隙に例のブレスレットを創り、俺を止めようと前に出された腕に装着する。嵌めこまれた宝石は暫定復帰なので無色透明だ。
続けざま学院長の身体が光に覆われた。ぱっと光が弾けると、サンバ衣装風の魔法美女さんに姿を変える。
こめかみをぴくぴくさせながらジト目で見下ろす学院長。あれ? なんか背が高くなってないですか?
「なるほど、貴方がイリスさんのサポーターだったのですね。てっきり彼だと……いえ、そうですか、つまりはそういうことなのですね」
違うな、俺が縮んだんだ。
視線を下ろして自らの身体を見やる。うん、またもクマさんになっちゃいましたね。いや流れ的に俺も学院長のサポーターになるだろうなとは思ってたよ。
けどまたクマになるとはなあ。鷹になるもんだとばかり……まあいっか。
「では学院長、さっそくあの口に飛びこむとしよう」
「は?」
お前なに言ってんの? みたいな顔をしているところ悪いけど、時は一刻を争うのだ。
俺はサンバ風痴女もとい魔法美女の手を引いて、
「シヴァ! 帝国の皇帝さんをお願いします!」
ピンクちゃんの声援を背に受け巨人の大口目がけて飛びかかった――。




