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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第三章:ひきこもりは絶対やめない入学編
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もしものときの対処法(決闘を申し込まれたら?)


 決闘なんて時代錯誤。そう思うのは俺にまだ現代日本人感覚が残っているからだろうか?

 

 入学式当日にコピーから緊急事態エマージェンシーが伝えられて寮の部屋に駆けつけてみれば、憔悴しきったコピー(おれ)がいた。

 

 美少女フィギュアに戻すついでに記憶をまさぐれば、なるほどちびっ子メガネの勧誘兼自慢話を延々と三時間も聞かされたのか。

 本当にお疲れ様。お前はよくやってくれたよ。今はゆっくり休んでくれ。

 

 ついでに上級生とのトラブルを確認した直後、俺を訪ねてきた女がいると聞き、寮の正面玄関に赴いた。

 

「――以上の理由により、シュナイダル・ハーフェン様はハルト・ゼンフィスに対して決闘を申し込まれます。二日後の夕刻、学院内闘技場に足を運ばれたし。返答をお聞きしたい」


 そばかすで愛嬌ある女上級生が緊張した面持ちで告げた。コピーが出くわした貴公子の取り巻きの一人だ。

 

「嫌です」


「ッ!? 貴族の儀礼に則った正式な決闘の申し込みを、拒否すると言うの?」


「その辺はよくわかりませんけど、『尻尾を巻いて逃げた』と吹聴して回ってもいいです」


 俺の評判が落ちれば退学も早まるに違いない。むしろそうして欲しかった。


「貴方ね、正式な決闘の申し込みを正当な理由なく拒否すれば、貴方個人の問題では済まされないのよ? 父君のゼンフィス卿に汚名を着せても構わないというの?」


 え、そういうシステムなの?

 それは困るな。

 俺がどう言われようと構わないが、父さんに迷惑はかけたくなかった。


「俺、生まれつき体が弱くて、魔法戦闘には耐えられないんです」


「なら今すぐ退学なさい。そんな脆弱な体で五年耐えられるわけないでしょう?」


「俺もそうしたいんですけどね」


「はあ?」


「ええっと……祖母の遺言で、決闘は受けるなと固く言われ――てはいませんでした」


 ぎろりと睨まれたので途中で方針転換。

 

「いい加減、ふざけるのはやめなさい」


「んじゃ、いちおう受けますけどね。死なない程度に手加減してくださいよ」


「……まさかとは思うけど、わざと負けるつもりではないわよね? そんなことをしてみなさい、決闘を拒否した以上の汚名がゼンフィス家に塗りたくられるわ」


 マジかよ……。

 

「ともかく、受けるのなら全力を尽くしなさい。シュナイダル様もそれを望まれているわ」


 置き土産にそんな言葉を残し、上級生は踵を返して去っていった。

 

 さて、面倒なことになった。

 コピーを責めるつもりは毛頭ない。状況からして悪いのはシュナイダルとかいう貴公子であり、俺以上に空気の読めない白髪ポニーテールの女なのだ。

 

 で、そのポニー女はと言えば。

 

 ちらりと横に目を向けると、植木にこそこそ隠れているその女が顔を半分覗かせていた。

 

 向こうが声をかけてこないなら無視していいな。 

 俺は気づかないふりをして自室へと戻った――。

 

 

 

 さて、決闘。決闘ね。

 受けてしまったからには、たとえ口約束でもやるしかない。でもどう対応するか悩ましいところだ。

 

 まず勝てるかどうかわからない。

 なにせ相手はエリート様だ。しかも副会長を務めるのだから実力は相当なものだろう。

 ただ、貴公子さんが殺すつもりで放った魔法が、コピーにはまったくダメージを与えられなかった。俺の攻撃に耐えられるくらいの防御結界を施してはいたけど、貴公子さんは攻撃特化でなく、防御偏重タイプなのかも。

 

 こっちもあっちも攻撃が通らないとなれば、泥仕合は必至だな。

 

 そもそも俺、勝ってはならない事情がある。

 まかり間違って衆人環視の中でエリート様に勝利しようものなら、落ちこぼれ認定からの退学コースが遠のいてしまうからだ。

 

 俺はケガしない程度に、落ちこぼれらしく無様に敗北しなくてはならない。大変だよ。

 

 とりま情報収集だな。

 シュナイダル何某なにがしの魔法レベルや属性を知り、対策を練るべきだろう。

 

 むろん俺に抜かりはない。

 先ほどお使い女には追跡用結界を張りつけておいた。

 

 俺は監視用結界を作り、追跡用結界と結んだ。壁を通り抜けて監視用結界が飛んでいく。

 

 モニターに表示させると、いたいた、お使い女の後ろ姿が映った。でも、おや? もう一人、彼女と何やら話している人物がいる。

 

 白いポニーテールの男装美少女。あの空気の読めない女だった。何してんの?

 

 監視用結界が声を拾う前に、二人は連れ立って歩いていく。もしかして、お仲間になったのか? 俺の疑念は解消されないまま、二人は学院の正門で馬車に乗り、中でも終始無言でありました――。

 

 

 

 どうやら貴公子さんは王都の中央にある侯爵家の館にお住まいらしい。父さんの別宅も近くにあるが、俺はすぐ退学する予定なのでそちらではなく、寮に居を構えている。

 

 さておき、ポニー女はお使い女ともども中に入り、広い部屋に通された。

 

 シュナイダルが豪奢な椅子に腰かけている。周りには夜遅くなのに取り巻きどもを従えていた。側に傅く女性が彼の右肩に手を添え、何やら集中している。何やってんだろ?

 

 お使い女がシュナイダルに耳打ちした。

 彼はぎろりとポニー女を睨んだ。

 

「決闘をやめてくれ、だと?」


「そうだ。事の原因はすべてボクにある。彼をこれ以上巻きこむのは適切でないと判断した。それに、見たところキミは相当な深手を負ったようだ。二日後に回復はするにしても、彼との実力差は明らかで――」


「黙れ! お前、あの場にいて気づかなかったのか?」


「? 気づかない、とは?」


「あの場には奴とお前以外にもう一人、奴に加担する第三者がいたんだよ」


 へえ、そうだったんだ。殊勝な人もいたもんだ。でも正体不明は気持ち悪いな。今度からコピーに探知用結界を渡しておこう。

 にしても貴公子さん、ケガをしてるのか。傅く女は治療している、と。なるほどなるほど。手負いか、ふふふ。


「ボクは第三者の介入があったとは思えない。キミが負傷したのは彼が手にした不思議な武器からの攻撃だったと思う。一瞬のことで、確証とまでは言えないのだけど」

 

 ん? コピーの攻撃って当たったの? その辺はっきりさせてよ。

 ポニー女は困った顔をしたものの、すぐさまシュナイダルに目を向けて。

 

「いずれにせよ、彼と決闘するのは筋違いだ。取り下げてもらえないだろうか?」


「くどいな。もしかしてお前、奴に頼まれて命乞いをしに来たのか?」


「いや、ボクは避けられているようで、あれから話す機会がないんだ」


「ふん、どうだかな。そもそもお前は貴族への頼み方を知らないようだ。土下座のひとつもしないとはな」


 歪な笑みを浮かべると、取り巻きどもがくすくすと笑った。ところが、である。

 

「そうか。世間知らずで失礼をした」


 ポニー女はなんの躊躇いもなく膝をつき、額を床に擦りつけた。

 

「この通りだ。決闘の申し込みを取り下げてほしい」

 

「……つまらんな。一片の恥辱も感じないのなら、土下座に意味などない。その程度で私の気が晴れると思ったか、愚か者め! ぐぅ……」


 叫んだ拍子に傷が痛んだのか、シュナイダルは顔を歪めて治療女を叱責した。

 

「もっと集中しろ、愚図め」


「も、申し訳ございません」


 絵に描いたようなクズだな、こいつ。

 その間にポニー女は立ち上がる。やっぱり困り顔だ。

 

「ボクに不作法があったのは謝ろう。では、どうすればキミの怒りは治まるのだろうか?」


「そうだな……。ああ、裸踊りでもしてみせろ」


 思いつきを適当に言った感じだが、取り巻きの男連中が色めき立つ。

 

「それは……さすがに抵抗がある」


 恥じらいというものがあるらしい。なんか淡々とした女だからちょっと意外だ。

 シュナイダルがにぃっと笑った。


「出来がよければ考えてやってもいいぞ?」

 

 もうね、明らかに裸踊りを堪能したあと『考えたけどやっぱりヤダ!』とかドヤる気満々でしょ。

 

 ま、ポニー女が恥をかこうが俺にはどうでもいい。

 それより俺、いいこと思いついちゃった。

 

「……わかった。それでキミの怒りが治まるなら」


 ポニー女が上着のボタンに手をかけた。やはり躊躇いはあるらしく、このときばかりは手が震えている。

 俺はモニターを消し、立ち上がると。

 

 黒い衣装に身を包む。

 陰のヒーローにして闇の正義執行人『シュヴァルツァ・クリーガー』またの名を『シヴァ』に変身した。長いなこれ。

 

 まあ要するに、アレだ。

 決闘を受けてしまった以上、俺はやらざるを得ない。

 

 でも、相手が決闘できない状況(・・・・・・・・)になれば。

 

 決闘そのものが、なくなるよね――。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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