闇夜の会合に襲いくる、その名は――
闇に沈んだ学院内の闘技場。
もちろん生徒含めて誰ひとりいるはずのない時間帯だ。
ずいぶん挑発的だな、と鷹の姿のアレクセイは上空を旋回する。眼下を鋭く見やれば、闘技場の中心に〝金〟の魔法少女とそのサポーターであろう銀の狼が佇んでいた。
じっとこちらを見ながらも接触をしてこない。
もっとも近寄ってくれば距離を取るつもりだった。こちらが魔法少女のサポーターだと認識しているかは定かではないものの、自ら明かすつもりはない。
ん? とゴールドの口元が動くのに気づく。
『こ・ち・き・て』
なるほど、近寄れば逃げられると考え、呼びつけているらしい。
となればこちらがサポーターだと確信しているのか。アレクセイはわずかに考えてのち、彼女たちの前に降り立った。
「私に何か?」
ゴールドはまじまじとアレクセイを見てのち、
「わっ、本当にサポーターだったわ。すごくリアルな鷹ね。こっちの狼もそうだけど、なんだか魔法少女のマスコットとは思えないわ」
「……」
「あ、ごめんなさい。気を悪くしないでね。姿自体はカッコいいと思うわ。ただわたしの趣味じゃないってだけ」
どうにもつかめない。コロコロと笑う様は見た目相応の少女に思える。
だが彼女の雰囲気は笑顔とは真逆の凄みにあふれているように感じたのだ。
「ただ私の姿への感想を述べるだけなら、失礼させてもらうよ」
「そんなに怒らないでよ。話は単純。ホワイトを先に始末しましょうって提案よ。そちらが断る理由はないわよね?」
断定口調なのは、パープルがホワイトを執拗に狙っていたのを銀狼に見られているから理解できる。だがそれ以上の確信がゴールドにあるように思えた。
「確認をいいかな?」
「どうぞ」
「どうしてホワイトを? 他の魔法少女でない理由を聞きたい」
「気に入らない、というのはあるのだけど、単純に貴方たちがホワイトを始末したがっていると感じたからよ。数を減らすなら相手の利に寄り添うのがいいかなって」
「それだけか?」
「他にもあるけど……、言えないわね。こちらの正体がバレてしまうもの」
自身の正体の核心に迫る理由。興味はあるが、追求しても出てこないだろうし、それでこの提案がなかったことにされるのはもったいない。
アレクセイは提案された時点で受け入れる気でいた。ただ二つ返事となれば足元を見られかねない。あくまで対等、あるいはこちらが上だと心理的優位に立ちたかった。
「ではこちらからひとつ、条件を――」
「必要ありません」
アレクセイの言葉は、そのパートナーによって遮られた。
〝紫〟の魔法少女――テレジア・モンペリエ学院長が彼のすぐそばに降り立つ。
「ずっと見ていたわよね。いつ矢の雨が降りそそぐかとひやひやしていたのよ?」
「警戒するのは当然でしょう。しかし私は貴女たちとも戦う意思がありません。本当にただ、巻きこまれただけですから……」
心底嫌そうな顔が仮面越しにも見て取れる。
「なのにどうしてホワイトを狙うの?」
「……個人的な遺恨です」
「てことは、ホワイトの正体にも気づいているのね」
「そう、ですね。しかしそれを教える気はありません。あくまで個人的な事情ですので」
「わかったわ。深入りはしない。それじゃあ共闘してくれるってことでいいのよね?」
「ええ、ホワイトを倒すまでの期限付きですが、同盟関係を結びましょう」
テレジアが手を差し出す。
ゴールドはそれを数瞬、見やってから。
「ごめんなさい。信用はしているけれど、今はやめておくわ」
どこか哀しそうに頭を下げた。
「いえ、気にしません。貴女にもなにか事情があるのでしょう。ではさっそくですが、まずはホワイトの潜伏先を調べる必要があります。私を警戒して、そうそう表には出てこないでしょうから」
「そうね。その辺りは他の陣営にも声をかけて、しらみつぶしに当たるしかないかも」
「他の陣営……〝青〟と〝ピンク〟ですか」
「ええ、もう話はついているわ。ただ具体的には貴女を引き入れてから――」
会話が唐突に破られる。
闇夜に高らかに、不敵な哄笑がこだました。
「ふははははっ! 何をこそこそ企んでいる?」
闘技場の観客席。中段の辺りにひとつの影。
「我こそは八番目の魔法少女、その名もレッド! 我が主に仇名すモノはことごとく、冥府の業火で焼き尽くしてくれよう!」
ライダースーツにパピヨンマスク。申し訳程度のミニスカート。
魔法『少女』と呼ぶにはいろいろ成長しまくりの誰かは、
「燃えろ!」
炎を引き連れ観客席から飛びこんできた――。




