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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第九章:魔法少女戦争(仮)が始まったよ
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共闘、乱戦


 ヴィーイには、隙を見せれば矢が襲ってくるのはわかっていた。

 しかし躱せない。避けきれない。

 どれだけ速く動いても、数本の矢がこの身を貫くのは確実だった。


 ――先日までの、自分だったなら。


 本来の自身ではあり得ない速度で回避する。矢は轟音とともに爆散したものの、その一本たりともヴィーイには届いていなかった。


「残念でしたね。来るのがわかっていれば、今の自分なら(・・・・・・)十分に対応できます」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべるヴィーイに、


「そうですか。では――」


 静かな、それでいて空気を震わせるほどの気迫を纏って〝紫〟の魔法少女が姿を現した。中央広場に降り立つや、自身が放った矢よりも速くヴィーイに肉薄する。


 後退を試みるも、持ち手の上半分が刃である大弓が、頭蓋を割らんと振り下ろされた。

 ギィィィインッ!

 空気を軋ませる音が脳を刺す。


 だが防いだ。

 もっとも自分が、ではない。

 ヴィーイを救ったのは姿を露わにした〝黒〟の魔法少女、漆黒の大鎌だった。


「ブラックさん、貴女は我らと同盟を――ッ!?」


 強烈な力で弾き飛ぶ。


「なぜ……」


 独り言の問いに答えたのはヴィーイだった。


「最初に刷りこんでおいたのですよ、『〝紫〟の魔法少女と遊びなさい』とね。もっとも、お前が現れるまで自分が相手をする羽目になりましたが」


「刷りこみ? 貴方にそんな特性は――ッ!」


 大鎌の切っ先が迫っていたのを間一髪で避ける。

 次の瞬間にはブラックの姿が消えていた。


「遊ぼ、いっぱい、遊ぼうよ」


 声は聞こえたもののそれ以降は吐息すら感知できない。まずは距離を取らなければ。


「させると思いますか?」


 白い魔弾が降りそそぐ。ひとつひとつが重い。以前に見た、いや、先ほどブラックに浴びせていた魔弾よりも威力が数段増している。


「この力……まさか、奪った(・・・)のですか。儀式に特化した魔法少女の能力を!」


 ヴィーイの〝神〟としての特性は【強奪】だ。

 本来は倒した相手の特性を自身に取りこむ、極めて醜悪で反則級な能力がまさか、今回の儀式では『退場させた』ことで『儀式で付与された特殊能力』を奪い取ることになろうとは。


 今のところ儀式から退場したのはグリーンのみ。彼の特殊能力『俺が主人公だぜぇ』を我がものとして使用した、そうテレジアは確信した。


「へえ……、さすがですね。この身の特性を知っているとはいえ、ひと目で看破するとは驚きです。けれど理解したところでお前にはどうしようもありませんがね」


 防御魔法陣で上や横、背後からの攻撃を防ぐも、これでは移動がままならない。

 だがそれよりも――。


「これではブラックさんも……」


 事実、魔弾の一部は虚空で弾けている。そこにブラックがいると知れても、テレジアは攻撃に躊躇いを覚えた。


(なんて卑劣な……)


 ブラックとテレジアに同じく圧をかけ、いずれ体力が落ちて動けなくなるのを待つ策か。

 ヴィーイにしてみればブラックが退場しようが関係ない。使える駒は消費するのが役割だとでも言わんばかりだ。このままブラックともども退場させる、との傲慢が透けて見えた。


「舐められたものですね。ヴィーイ、すこしばかり力が増したからといって、私に勝てると本気で思っているのですか?」


「なに!?」


 テレジアの赤い瞳が輝きを増す。身体からも紫の魔力が爆ぜた。

 大弓を体ごと大きくひと回し。

 激しい衝突音の直後、このタイミングだ、とテレジアは地面を蹴った。ひび割れるほどの力で跳ぶ。瞬きする間にヴィーイに接近し、手を伸ばした。



「グリーンさんから奪ったその能力(ちから)返してもらいます(・・・・・・・・)



 つかまれる、とヴィーイは奥歯を噛む。

 その言葉の意味は横に置き、捕まえられればさすがに地力で劣る自分に勝機はない。


 グリーンから奪った特殊能力で大幅にステータスが上昇しているものの、〝神殺し〟の特性である【暴走】は、彼女の基本ステータスの高さも相まってヴィーイの上に達していた。

 だが――。


「残念でしたね。今の自分は、主人公なのですよ」


 髪の毛が一本、虚空に漂う。

 彼女のものかこちらのものか、いずれにせよそれはパープルの鼻先をくすぐって。


「くしゅんっ!」


「はははははっ! これですよ、この特殊能力の真骨頂は!」


 取るに足らないような小さな幸運はしかし、これ以上ないタイミングで発動すれば窮地をも救うのだ。

 動きが鈍った隙に、ヴィーイはするりとパープルの腕をすり抜ける。いったん離れて態勢を整え、弱ったパープルの相手はブラックにさせればいい。

 そんな風に計算した、直後。


「いいえ、貴方の負けです、ヴィーイ」


 たしかに避けた。

 捕まえられれば実力差から圧倒的に不利な状況に陥るのを、すんでのところで脱したのだ。

 しかしその肌に、ほんのわずかだけパープルの指がかすめていた。


 ドクン。心臓が跳ねる。


「バカな……、まだ残り時間はあったはず、なのに……」


 力が急激に弱まったと感じる。明らかにグリーンの特殊能力が解除されていた。


(まさか〝神殺し(こいつ)〟の特殊能力も他の特殊能力を無効化するものなのですか?)


 疑問の回答は、当の本人からもたらされた。


「言ったでしょう? 『返してもらいます』と。これが私の特殊能力ですよ、魔法少女としてのね」


「返してもらう、だと?」


「ええ、貴方が使っていたグリーンさんの特殊能力は、今は私が使っているのですよ」


 魔法少女パープルの特殊能力は『なんでも取り返すぜぇ』だ。

 使用者が『取られた』と認識したものを一時的に取り返す。この大魔法儀式がテレジアの権能を封じた超々高密度魔力体を利用し、彼女自身がそれを取り戻すために動いているため、儀式特有の能力をも一時的に『取り返す』ことができる。

 ただし一度は相手の特殊能力を見ておかなくてはならず、『取り返す』には相手に触れる必要があった。


「貴方の〝神〟としての特性に似ていますが、制限が緩い分、一時的ではありますけれどね」


 それでも【暴走】を使わずに各ステータスを上昇させられるのは助かる。すくなくともこの場でヴィーイを退場させるには十分だ。


「おのれっ、そんな能力を今まで隠していたとは……」


「あら、口調が本来の貴方のものに戻っていますよ? 追い詰められると『素』が覗くのは相変わらずですね」


「ぐ、きっさまぁ!」


 挑発に冷静さを失いかける。だが能力を失っても勝機は失くなっていない。


「ブラック! ここからが本当に楽しくなるところだぞ。さあ、姿を晒して一緒に戦おう!」


 空中へ逃れながら叫ぶ。

 ブラックが姿を現した。大鎌を掲げて「おー」と応じる。


 ヴィーイはその背後に回るや、


「ッ!? まさか、待ちなさい!」


 パープルの叫びを心地よく聞きながら、白い魔弾をブラックの腕に――そこに嵌められたブレスレットの黒い宝石に向けて撃ち放った――。



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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

― 新着の感想 ―
エキサイティングな展開になってきた〜
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