今は敵同士であっても
シャルロッテが雪だるまと世間話(?)をしていたら、どこからともなく魔法少女が一人、脱落したとのアナウンスが響いた。
「なんとぉ!? グリーンさんが脱落してしまいました!」
驚くと同時に、ハタと気づく。
「クマさんを追わないとです!」
もとより目的は、ブルーのクマ型サポーターが単独行動で姿を消したのが気になって、それを追いかけてきたのだった。
別れのあいさつを言う前に、雪だるまに遮られる。
「まあ待て。我が相方が誰かと話しておる。おそらくそのクマだろう。今、貴公が割りこめば面倒な戦いが始まるやもしれぬ。アレは貴公を騙して不意討ちする気であろうからな」
味方のやり方をここで暴露してよいのだろうか、と逆に心配になる。
「というわけで、今しばらく付き合ってもらうぞ」
雪だるまは飄々とした態度から一転、突き刺さるように問う。
「貴公が注視するは何色か?」
「すべて、ではありますけど、やはりもっとも危険と考えますのは魔神さんですね」
「……ほう、興味深いな。古の魔の神がこの儀式に参加している、と?」
「神代に頓挫したこの儀式が現代に再開したのには意味があります。魔神ルシファイラさんは封印されましたけど、その想いをつなぐ新たなる魔神さんが復活したのは流れ的にあり得るのでは?」
「なるほど。して、魔神ルシファイラとは? 聞き覚えはあるが詳細を知らぬのでな。どのような経緯で今世に現れ、如何にして封じられたのだ?」
「はい、実は――」
シャルロッテは当初の目的を忘れて饒舌に語る。とくにシヴァの活躍はねっとりたっぷりお届けした。
雪だるまは静かに聞き入っていた。しかし表情は変わらずとも雰囲気は一変した。
「古き〝神〟を名乗る傲慢なる連中が、いまさら人の世をかき乱すとはな」
なんだか怒ってる? シャルロッテはちょっとドキドキするも、雪だるまは先ほどよりも柔らかな声で告げる。
「魔神の脅威に臆せず挑むその胆力、改めて貴公には驚かされる。して、どの色が魔神かはつかんでおるのか?」
「残念ながら……。でもわたくし、わかっちゃったかもしれません」
シャルロッテはこほんと間を取って告げる。
「魔法少女パープルさんが怪しいと思うのです」
でもでも、と両手をバタバタさせて続けた。
「あの方からは邪念のような負のオーラが感じられません。きっと悪い魔神さんではないと思います。話せばわかるタイプ、と言いますか」
「ワシの相方には問答無用で襲いかかってきたがな」
ぎゃふん、と言葉に詰まるシャルロッテ。
「そも儀式に参加している以上、なにかしらの願望があろうよ。其方はどう考える?」
「わかりません」
キッパリ答えたシャルロッテはしかし、
「ですけど、きっと『大切なもの』のためだと思うのです」
なんとなくなのだが、どこか確信を持って言った。
「貴公の言の葉には不思議な説得力があるものだな」
どこか寂しそうな声音に、何を言おうか迷っていると。
はっはっは、と雪だるまは快活に笑う。
「いや、すまぬ。長々と引き留めてしまったな。貴公はまだ幼いが才にあふれておる。これでも人を見る目はあると自負していてな。今がどのような身分かはさておき、貴公は人の上に立ち導く者となろう。そのとき再会したのなら一献酌み交わしたいものよ」
「よくわかりませんけど、わたくしもなんだか父上さまとお話ししているみたいで楽しかったです」
「うむ、貴公の父君とはよい酒が呑めそうだな」
雪だるまはぴょんと跳んで半回転。その背で最後に問う。
「貴公は究極の願望機に何を願う?」
「世界平和です!」
「大きく出たな。しかし奇跡に任せた泰平にいかほどの価値があろうか」
「もちろん、そんなものに価値はありません」
意外な答えに思わずといった風に雪だるまは振り向いた。
「ではなにゆえ願う?」
「願いは口にしてこそ叶うもの。わたくしたちはみなの想いを実現すべく、ただ邁進するのみです」
「くはははっ! なるほど、貴公もアレと同様、ただ儀式を楽しむつもりか」
アレが誰を指すのかわからないけど横に置き。
シャルロッテは雪だるまに首を横に振る。
「いいえ、それだけではないです。この儀式は安全面で絶大なる配慮がなされていますけど、魔神さんを含めて不確定要素がたくさんあります。なにせ誰も完遂に至らなかった大魔法儀式ですから」
続く言葉を待つ雪だるまに、おめめをかっぴらいて告げる。
「いつ〝聖なる器〟が邪悪なる気に汚染され、世界の危機に陥るかわかりません。いえ、すでにこの儀式を脅かす不穏な勢力がいるような気がします。わたくしたちは監督役のシヴァとともに、彼らから儀式を守るのも役目なのです!」
「……」
雪だるまは無言を貫く。
気にはなるがシャルロッテは話を進めるべく謎時空に手を伸ばした。
「あなたにはこちらを」
雪だるまの前に回りこみ、取り出したモノを差し出した。
「……これは?」
「手のひらサイズの魔法のステッキです。最近、魔法少女とその活躍が広く知られるようになりましたので、この機にさらなる啓蒙をすべく、とある方に作っていただきました。大きさも機能も縮小されてますけど、きっとあなたの役に立つはずですよ」
控えめな胸を逸らして得意顔のシャルロッテに、片枝を伸ばす。枝の先端にぴたりと吸着させ、雪だるまは大きくひとつ、跳び上がった。少女に背を向け、ぴょんぴょん跳ねて林の奥へと消えていく。
シャルロッテは満足顔で見送ってから、当初の目的であるクマを追うのだった――。




