見た目に反してしたたかですね
俺が到着したときには、すでに事は終わっていた。
地面から上半身だけ出したグリーンが、ブレスレットを失ってマッチョな男子生徒に戻っていく。それがライアスだという事実に驚いた。
正体がわかった今はなるほどそうだとしか思えないのがまた不思議だ。
この儀式の『魔法少女の正体を隠す』機能はすさまじいな。
いや作ったのは俺なんだけどね。でも『こういう機能がつけばいいなー』くらいの気持ちでいたら勝手に実装されるという、これまでの不思議結界ムーブなので、俺自身どういう術式とかで成り立っているかは知らん。
さて。
ライアスが最初の脱落者になったわけだが、さっき同盟を組んだばかりのホワイトがやらかしたことに不審が芽生える。
『〝緑〟の宝石が破壊されました。〝緑〟の魔法少女とそのパートナーは本儀式から脱落したと認定します』
脳内に機械的なアナウンスが流れる。
俺的には見たまんまなんだけど、それはさておき。
看過できない事態を目の当たりにしたので、俺はクマ形態の上からシヴァの姿を作り上げて警告する。
「そこまでだ。儀式から脱落した者への追撃は許可しない」
ホワイトがいくつもの魔法陣を展開して狙いをライアスに定めていたのだ。
「……自分としては彼の反撃を警戒しての防衛策のつもりです。魔法少女でなくなればそのルールに縛られなくなる。倒された恨みから一方的に攻撃される可能性がありますから」
「安心しろ。相手が儀式に参加しているかどうかに関係なく、魔法少女はその衣装によって守られている」
「なるほど。では逆に、魔法少女でなくなった者はその加護もまた消失し、魔法少女の追撃で一方的に命の危険がある、ということですね」
うん、たしかに。でもそんな蛮族ムーブをやらかす奴が参加してるなんて想定してなかったからなあ。
「ふっ、それもまた安心しろ。儀式に参加していた者はたとえ脱落しようと儀式が続いている限り、その身の安全は監督者たる私が保証しよう」
言い負かされるのが嫌なので、今しがた思いついたルールを追加する俺。カッコ悪くない! みんなの安全のためなんだし。
でもこれでまた俺の仕事が増えました。
「監督者……? なるほど、貴方がそうでしたか」
俺が監督者だと知らないってことは、すくなくとも俺の知り合いじゃないっぽいな。
てか、なんで笑ってんだ?
「では監督者さんにお願いがあります」
「なにかな?」
「今おっしゃったルール――『魔法少女は脱落しても儀式が続く限り身の安全が保障される』との内容を、最初に自分たちに提示されたルールの一覧に追加していただきたい。加えてその旨を全魔法少女に周知してください」
ん? まあ、流れとしてはそうだよな。
でもティア教授あたりから『また行き当たりばったりでルール追加したんだね』とかいじられないかな? いじられるだろうな。くすん……。
「いいだろう。そんなわけで君も存分に――」
「ふざけてんじゃねえぞ」
これまで黙っていたライアスが割って入った。なんだよ? お前のためのルールでもあるんだぞ?
「卑怯な手を使いやがって。僕はお前を許してなんていないからな、ホワイト!」
「許してほしいとは思っていませんよ。たしかに卑怯な手を使いましたが、儀式のルールには抵触していません。自分は自分の弱さを自覚しています。そして貴方は自分よりも強かった。だからこそ、たとえ卑怯と謗られようと勝ち残るための策を取ったのです」
「ぐ……」
ライアスのやつ、正論パンチで黙らされたけど、違うよ? それ正論じゃないからね? 卑怯者の自己弁護だから。俺もよくやる。
「貴方が『ホワイトに裏切られた』と吹聴するのは自由です。自分も覚悟があって貴方を退場させました。これからは単独で他の魔法少女たちに戦いを挑みます」
「はっ! 僕はもう儀式から退場した身だ。恨みがあるからってお前だけ不利になるようなことを言いふらしたりするもんか。僕は、正義の味方なんだから……」
誘導、されたんだろうなあ、これ。
ホワイトは無表情を貫いてるけど、内心は高笑いしてるぞ、きっと。俺もよくやる。
「自分が言うのもおこがましいですが、感謝します、とは伝えておきます。それと――」
ホワイトは伏目がちに、どこか照れたように、
「貴方の正義に憧れたのは、嘘ではありません。信じては、もらえないでしょうけれど」
そう告げて振り返り、空高く飛び立って行った。
「へ、へへ……」
ライアスはまんざらでもない様子なんだが、半分土に埋まった状態で何やってんだ?
最後までこいつチョロかったな。




