そういや君がいましたね
今度はこのお姉さんが遊んでくれるよ、とのいきなり現れた魔法少女ホワイトの口車に乗ってしまい、魔法少女ブラックことメルちゃんが魔法美女パープルに襲いかかった。
大鎌を振りかぶった瞬間、またもその姿を消す。
パープルは大きな弓を横に薙ぐ。
ガキィィーン! 耳をつんざく衝突音とほぼ同時にパープルが後方へ跳んだ。
着地するや謎の魔法少女ホワイトを一瞥するも、
「待ちなさい!」
「待てと言われて待つ愚か者はいませんよ。グリーンさん、ひとまずこの場を離脱します。ついて来てください」
「お、おう」
状況がよくわかっていなそうなグリーンともどもホワイトは空高く舞い上がり、中央広場から北へ向かって飛び去った。
くそ、グリーンを仕留め損なったか。仕方ない、作戦は変更だ。
『このままパープルをやっちまおうぜ』
聴衆に紛れてぬいぐるみの振りをしていた俺は、シャルやリザに声を聞かれてはならないのでイリスの脳内に語りかけた。
「ボクとしては〝黒〟を先に倒すべきだと思うのだけど」
『いや、そっちは正体が知れてるからな。メガネで対策もできてるし、後々どうにでもなる。それよりパープルだ。超長距離攻撃は厄介だしな』
たしかに、と納得してくれたイリスは、
『ピンク! パープルの動きを封じてくれ』
「はへ?」
唐突な要請にシャルちゃん困惑可愛い。
さすがに三対一は卑怯すぎると躊躇っているようだ。けれど顔をきりりとさせて、
「わかりました。戦いとは非情にして残酷なもの。魔法少女パープルさん、お覚悟!」
シャルは片手の人差し指でパープルを指す。もう一方を地面に向けようとした、まさにそのとき。
「脱落者を出すにはまだ早いわ。グリーンだったら見過ごしていたけれどね」
ピカーっと眩いばかりの金の光。
堪らず目を細めたシャルの目の前に、〝金〟の魔法少女が飛びこんできた。
「ユ……、いえ、魔法少女ゴールド、どうして……?」
「言葉のとおりよ。わたしは長く儀式を楽しんでいたいの。まだ特殊能力をお披露目していないパープルをここで退場させるなんて、もったいないと思わない?」
「なるほどたしかに」
さらっと説得されるシャルちゃん可愛い。言ってる場合ちゃうか。
『イリス、今のうちにお前でパープルの動きを止めちまえ』
シャルの活躍の場を奪うのは心苦しいが、ここは実を取ろう。
イリスの聖武具もどきはすでに『杭』をセット済み。
「せいっ!」
うなずきながら攻撃態勢に移行し、腕を振り抜いた。
『発射』
機械音とともに『杭』が射出される。
狙いは違わず、パープルへまっすぐに向かっていく。
パープルはシャルに注意の大半を向けていたからか、反応が遅れた。
この時点でイリスは特殊能力の効果範囲をメガネから聖武具もどきに切り替えた。メルちゃんの姿が見えなくなる。
直撃すれば決定打。『杭』の特殊効果がなくても、ルール上パープルはまったく動けなくなる。直撃を免れても『杭』がかするのは避けられない。そうなると今度は『杭』の特殊効果で動きが制限されるのだ。
いずれにせよ、その後はイリスがパープルのブレスレットにある宝石を壊して終わり。
パープルは『魔法少女戦争(仮)』の最初の脱落者になる。
「ぐっ……」
パープルは無理やり身体を捻って『杭』の直撃を免れた。
けれどやはり、露出したお腹あたりをかするのは避けられなかった。
「今だ!」
イリスが突進する。
パープルは緩慢な動きでどうにかイリスに正対するも、弓を構えようにも腕がのったりと上がりきらない。
よし、まずは一人。
――そうはさせないわよ?
上空で金色の光。
「さあ、『最っ高に楽しむぜぇ』」
ユリヤが高々と掲げた腕から――正確にはブレスレットの金色の宝石から光があふれた。
「なに!?」
「っ!」
「??」
イリスってばまたスカりやがった!
ていうか、なんでパープルさん動けるのよ? イリスがパープルのブレスレットをつかもうとしたら、ささっと避けて大きく後退。
何が起こったのかまったくわからない。わからないと言えばもうひとつ。
「あれ? タヌキ、なにかした?」
メルちゃんが美少女バージョンから美幼女バージョンに戻っていた。それが視認できるということは当然、姿も晒しているわけで。
あ、もしかして。
「ふぅん、特殊能力の強制解除、か。あ、『三分間の発動阻害』もあるみたい。なかなか面白い効果ね」
〝金〟の魔法少女ことユリヤがころころ笑う。
いやそれめちゃくちゃチートやん。
「ああ、これでみんなが不安になっちゃうと不本意だからネタバラシをしてしまうわね。わたしの特殊能力は『最っ高に楽しむぜぇ』よ。って、これだけだとよくわからないわよね」
てへぺろしたユリヤは笑みを崩さず続ける。
「その場、そのタイミングでもっともわたしが楽しいと感じる効果を発揮するの。要するにランダム効果ね。何が出るかはお楽しみ♪ ってわけ」
なにそのギャンブル要素オモロ。
てか何が出るかわからんってユリヤ自身はもちろん、俺たち周りにも大迷惑では?
それを楽しむって……実はこいつ、快楽主義者では? シャルちゃんの情操教育によろしくなくない? などと考えているうちに、パープルが大きく跳び上がった。
「助かりました。借りはいずれ返します。ただ今は優先するものがありますので、ここで失礼しますね」
ホワイトとグリーンが逃げた方向へ飛び去った。
「あら残念。それじゃあ仕切り直しましょうか。これで二対二に――って、あれ?」
ユリヤが顔を向けた先にシャルはいない。
俺が脳内で出した指示に従い、イリスがシャルを抱えて戦線を離脱していたのだ。
「あなたの仕業ね」
じろりと上からにらまれた。しゃーないやん! イリスわりと疲れてたんだから。
「ま、いいわ。それじゃあブラック、わたしと一緒に遊んでくれる?」
一転してにこやかにメルちゃんに語りかけるも、
「タヌキに帰れと言われた。ごめん……」
しゅんとうなだれる魔法幼女ブラック。
そうしてこうして、またも脱落者を出すことなく、この戦闘は終了したわけだが。
『悪いイリス、ちょっと先に行く。変身はしばらく解かないでおいてくれ』
イリスだけに聞こえるように脳内で伝える。
ちょいと気になったので、俺はとある魔法少女の後を追った――。




