望み通りの同盟関係?
昼下がり、俺はデフォルメクマさん形態で青い空を仰いでいた。
ピンクの魔弾が蒼穹で爆ぜる。
次から次へと生み出される弾丸は四方八方からイリスを襲うも、聖武具もどきでことごとくが叩き落されていた。
「さすがはイリスさん……いえ、魔法少女ブルーさんですね」
「そういうキミこそ、全力を出せないうえでこれほど激しいとは恐れ入るよ」
「ご、ごめんなさいです。わたくし、どうにも仲間相手には力を出し切れませんので……」
しゅんとするシャルちゃん可愛い。
「いったん休憩にしよう。この儀式でのキミの力はおおよそ測れた。あとはどう連携するかを詰めて、実際にいくつかパターンを試して――」
イリスは相変わらず真面目なこと言ってる。
さて、俺たちは今、王都から離れた秘密の荒野で秘密の会合を開いていた。
初戦で図らずも共闘したのを受け、『もういっそ同盟組んじゃわない?』との俺のわがままをごり押しし、とある条件付きでイリスを説き伏せることに成功したため、魔法少女ピンクことシャルちゃん陣営に同盟を打診したのだ。
シャルは諸手を挙げて喜んでくれたのだが、そのサポーターのリザがめちゃくちゃ難色を示した。最終的には魔法少女ブルーが自ら正体を明かしたことでシャルがリザを説得してくれたってわけ。
実のところリザはブルーの正体に気づいていたけど、シャルはまったく想像もしていなかったらしく大喜びだったというオチ。
でもって今にいたるわけだが……。
じーーーーっ。
視線を感じますねえ。
クマ形態の俺のすぐ横。ネコちゃんが一匹、こちらを見つめている。というか睨んでいる。
リアルなネコちゃんだ。
しなやかで上品な肢体。青っぽい体毛が艶やかで、長い尻尾を揺らめかせている。ロシアンブルーってのに似てるかな。ネコの種類はよー知らんけど、カッコよくて可愛い感じ。
「もう一度訊く。なぜ、サポーターの正体を明かせないの?」
冷気が吹き流れてくる。この質問は何度目だろうか。
俺は声でバレてしまうのを嫌い、黙ってふるふると首を横に振った。声色を変えても口調とかでバレそうなのでね。この子ってばホントに鋭いのよ。
そう、イリスが同盟締結に際して俺に提示した条件とは、『シャルにキミの正体を隠しておくこと』というものだったのだ。
なんで? 当然の疑問だ。
曰く、『シャルはよくも悪くもキミの影響を受けすぎる。ボクを信頼してくれているけど、自分ではなく他者の陣営にキミがいる、というのはどんな悪影響があるか計り知れない。自分というものをしっかりと持っているけどまだ幼い女の子なんだ。キミも兄ならそういったメンタルのケアに細心の注意を払って』うんぬんかんぬん、と長ったらしく説教されました。
こいつってば出会った当初からしばらくは『常識のなさ』で俺の上をいってたんだが、学院生活やアルバイト経験から急速に『人としての常識』を身に着けてやがるのだ。
まあ直接的に手を貸す状況より、陰ながら見守っているよ、という今までの方針を踏襲したやり方がいいとは俺も思いますです、はい。
そんなわけで俺の正体は隠しているわけだが。
じーーーーっ。
リザがめっちゃ警戒しているんっすわ。
職務に忠実でシャルちゃんガチ勢の反応としては百点満点なんだけどね、俺の胃がね。
「わたしはあなたを信用していない。イリスを騙して利用している可能性もある。むしろそうに違いない。シャルロッテ様を見るな。まぶたを下ろすのもダメ。指先ひとつ動かすな。息をするのにもわたしに許可を求めて」
ガチ勢怖っ!
いや俺も見ず知らずの輩がシャルに近づこうものなら同じ反応をするだろうが、客観的に見て理不尽すぎる。
俺は親からはぐれた哀れな子熊のようにぷるぷる震えるのみ。
さすがに見かねたのか、イリスが近寄って助け舟を寄越す。
「リザ、キミが警戒するのも無理はないけど、今はボクを信用してくれないか。この人はキミたちの敵じゃない。むしろハルトの命令でこうなっている、とキミには言っておくよ」
「……わたしはハルト様から直接聞いてない。だから警戒は解かない」
俺から視線を外さず、リザは怒気すら孕ませて応じたものの。
「でも、シャルロッテ様が決めた以上、同盟の意味が薄れるようなことはしたくない。すくなくともシャルロッテ様に心配はかけたくない。だからあなたは常にわたしの側にいて。わたしが問題ないと判断するまではすぐ近くで監視させてもらう」
嫌とは言えない雰囲気なので、こくこくとうなずく俺。
「動くなと言った」
びゅおーっと冷気が吹き荒び、カッチンコッチンに固まる俺。
まあ、仕方ないよね。でもイリス、苦笑いしてないでフォローしてくれよ。
ともあれ、ひとまず。
『さっさと〝緑〟の野郎を倒しに行こうぜ』
どうやらあいつ、いまだに正義の味方業をせっせとやっているみたいなので――。




