季節外れな何かに気を取られ
俺は今、クマのぬいぐるみになっている。
正確には魔法少女のサポーターになったがゆえに姿を強制的に変えられた状態だ。これ、いまだに納得いかんのだが?
さておき。
俺はクマ状態を見られるのが恥ずかしいので光学迷彩結界を使って姿を消している。
相方である魔法少女ブルーことイリスが今、切り札とも言うべき聖武具もどきを現して必勝態勢に入った。
対するは〝緑〟の魔法少女、なのか……? 明らかに男でしかもマッチョだから『少女』を名乗ってほしくない気でいっぱいだ。
でもって二人の会話を聞く限り、このグリーンはブルーの正体に気づいたっぽい。
なのでまあ、イリス的にはここでグリーンを退場させようって腹積もりなのだろう。
口封じってやつよ。
グリーンはわりといい動きをしていたし、なんでか知らんが元王妃にしてかつて魔王を倒した閃光姫ギーゼロッテが使っていた聖剣を持っているし(いやマジなんで?)、わりかし強いみたいなんだけど、イリスが本気モードになったならこちらの勝利は揺るがない。
けどなあ、イリスの正体はこれでいろいろバレそうなのよね。
俺は勝利を確信しつつ、イリスたちの戦いを横目に裏路地から浮き上がり、近場では一番高い建物の屋根に腰かけて周囲を観察した。
『リザ、ダメですか? わたくしもブルーさんとグリーンさんとの三つ巴の戦いがしてみたいです!』
『ダメ。今はまだ様子見。できれば相手の正体をつかみたいし、どちらかの特殊能力が見られるかもしれないし、そうじゃなくてもある程度の実力は確認しておきたい。まあブルーの正体は絞られたけど』
『うぅ……、なんだか! とてもうずうずします!』
愛らしい会話が虚空から聞こえる。
半透明の板状結界――監視用結界から漏れていた。
シャルちゃん大興奮だね可愛いね。でも他の人に聞かれるかもだから音声はミュートにしたほうがいいと思うよ?
ま、お兄ちゃん以外には聞こえないようにはこっちでしてるんだけどね。
さて、監視用結界はこのひとつだけではなかった。
ふたつ……三つ、か。俺が作ったタイプだから見間違いはしない。
でもって俺が貸与した相手は限られている。
シャルとティア教授陣営は当然として、残るひとつはユリヤかな。前に俺が扱う不思議結界たちを試したいとせがまれて仕方なく見せびらかせたら、そのうちの何個かをおねだりされるまま貸し与えた経緯がある。
シャルの前では気前の良い兄でいたいじゃない?
俺たち以外に三陣営が魔法少女ブルーとグリーンの戦いを見守っているようだ。
他にいないかな? と周囲を探る。
裏路地の隅っこ、建物の陰から覗き見るウサギさんはさっき見つけた。膝丈ほどで二足歩行のちょっぴりデフォルメされた、声質から判断するに『彼女』はときおり何か語りかけているようで、その都度グリーンが声で応じているので明らかに奴のサポーターだろう。
あとは……上空を鷹だかトンビだかが一羽だけ、ぐーるぐると旋回しているくらいか。
いや――。
あまりに不自然なものが、当たり前のように自然に置かれていると、さほど不自然に感じない不思議。
しかし秋に入ったくらいのこの季節、しかも四階建ての建物の上に置かれるには不自然極まりない物体を俺は見つけてしまった。
『リザ、見てください! あんなところに雪だるまが!』
またもシャルちゃん大興奮。そうだよね、王都じゃ珍しいよね。
雪だるまは腰丈サイズで一般的な姿をしていた。
まんまるな体にまんまるな頭が乗っかり、枯れ枝が二本、体の左右に刺さっている。顔には黒っぽい丸石がふたつと、縦長な石は鼻だろうか。
『なんであんなところに――って、あれ? シャルロッテ様、ミュートになってないよこれ』
『はぅわ!? いいいいけません、わたくしとしたことが――』
以降の音声は途絶えた。グッジョブ、リザ。と思うも、一抹の寂しさを覚える俺。
ともあれ、あんな珍妙な物体を放置してよいものかとの危機感と、ちょっと面白そうとの好奇心から、俺は雪だるまに接触を試みようと――。
「『俺様が主人公だぜぇ』!」
変な声が聞こえたかと思ったら、
「くっ!? 速い!」
続けてのイリスの声に下を見れば、グリーンが彼女に高速で肉薄しているところだった。
いや、これはもう〝超〟高速と言えるほどの迅さだ。
イリスが後方に飛び退いたのも構わず追いかけてきて、白刃の剣を振り抜く。
ギィィィンッ!
イリスはどうにかこうにか、聖武具もどき『破滅に誘う破城杭』の台座部分で受け止めた。
アレって盾にもなるのね。まあよっぽどのことがない限り壊れないよう、強度は高めておいたからな。しかも程よくブレスレットを隠しているので宝石を守ってもくれるのさ。
しかしこれ、どう立ち回ろうかね? 俺は思考をぶん回した――。




