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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第九章:魔法少女戦争(仮)が始まったよ
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聖武具vs聖武具もどき


 イリスフィリアはグリーンと名乗った魔法少女の背後に回り、こぶしを引き絞った。

 ハルトの魔法によって姿を隠し、近くで変身したことで相手サポーターの検知を遅らせ、完全なる奇襲に成功したのだ。


 卑怯だとの自覚はある。

 誰かを傷つけてまで願いを叶えようなんて浅ましいとも思う。

 それでも――。


(やると決めた。ならば全力を尽くすのみ!)


 ずっと夢見ていた『人魔が仲良く暮らせる世界』を、ハルトも願っていると知った。たとえ過程が違ったとしても、たどり着く先が同じなら、己が感情は呑みこんで、この身は彼の道具として捧げよう。


 ハルトに『いい子を表に出すな』と言われたのもある。

 ただそれ以上に、自身の役割をまっとうしたかった。


 イリスフィリアは裂帛の気合とともに拳を撃ちこむ。


 ガッキィィン!!

「なっ!?」


 しかし防がれた。

 グリーンは聖剣を背負うようにしてその腹で受け止めたのだ。


「あっぶねえ……。間一髪だったな。マジ感謝だぜ、あね……じゃなかった、ええっと、ウサちゃんよおっ!」


 グリーンはくるりと振り向きざまに聖剣を振るう。

 押し出されたイリスフィリアはあえて後方に飛び退くことで剣を避けて態勢を整えた。


(完全に死角に回りこんだと思ったのだけど……)


 直前におそらくグリーンのサポーターが声をかけていたが、具体的な指示は出ていなかったはずだ。

 空中で構えつつ、相手の出方を窺うイリスの耳に、


『もしもーし、イリス聞こえてるか? どうやら魔法少女とサポーターは念話で秘密のお話ができるらしいぞ』


「なんで今まで知らなかったのさ! キミが!」


 儀式のシステムに介入しているクセに粗が多い。

 だが状況は理解できた。直前はあえて声を聞かせるようにして具体的な指示が出ていないとこちらの油断を誘う。そのうえで念話によりこちらの出現場所と狙いを的確にグリーンに伝えて事なきを得た。なかなか頭の切れる相手のようだ。


 視界の端に、小柄な二足歩行のウサギが建物の陰から覗き見ているのを捉えた。さっきの声はあのウサギ――グリーンのサポーターで間違いない。


「なにくっちゃべってんだよ。どうやら殴り合うのがお好みらしいな。いいぜ、乗ってやる」


 グリーンは不敵な笑みを浮かべるや、聖剣を虚空に消し去った。


「ずいぶんと潔いね。相手の得意な状況で戦おうだなんて、キミはこの儀式に勝ち残る気があるのか?」


「僕は魔法少女である前に正義の味方だからな。正義ってのはな、敵を心の底からねじ伏せなきゃ意味ねえんだよ!」


 なかなか乱暴な理屈だが、その瞳は真っ直ぐだ。

 そして言うだけのことはあった。


 左右の連打。

 隙をついて反撃に出たら器用に体を捻って避け、そのまま後ろ回し蹴りを食らわせにくる。

 ギリギリ躱してカウンターを狙うも、グリーンはすぐに態勢を整えてパンチを撃ち放った。


(空中での戦いに慣れている……いや、それを想定してかなり訓練を積んでいたのか)


 イリスフィリアは冷静に捌きながら観察する。

 変身によって魔法レベルや運動能力が向上したのを考慮しても、かなりの手練だ。けれど、


「しょせんは学生レベルでのトップクラス、といったところかな」


「ぬおっ!?」


 連撃を片手で弾く。よろめいたのを見逃さず、身を沈めると同時に側面へ回った。空中での格闘戦はこちらも時間の許す限り訓練を積んできたのだ。

 視線だけ追いかけてくるのを見とめ、死角から強烈な蹴りを振り上げる。


「ぐはぁっ!」


 なんとか出してきた腕ごと吹っ飛ばす。

 だがこれに留まらず、イリスフィリアは落下していくグリーンを最高速で追いかけた。

 追い抜きざま体を縦回転させ強烈なかかと落としをお見舞い――


「くっ……そぉ!」

「――ッ!?」


 ぶおん、と。

 イリスフィリアの攻撃――ではなく、グリーンの反撃(・・・・・・・)が空を斬った。


(危なかった……。攻撃を止めていなければ片足をもっていかれていたか)


 いったん距離を取って裏路地に降り立つ。

 見上げると、グリーンが苦々しい表情で睨んできた。その手には、煌めく白刃の剣が握られている。


「ざまあねえぜ。啖呵切っておいてけっきょく聖剣頼り(コレ)かよ」


「嘆くことはないさ。聖剣(それ)を使っていたところで実力差は変わらないからね」


 ぴくりと、グリーンの片眉が跳ねた。


「言うじゃねえか。テメエは煽ったりしないタイプかと思ってたぜ」


 イリスフィリアの表情が険しくなる。

 ハッタリでなければ今の言葉は、こちらの正体に感づいたとの意に取れたからだ。なるべくいつもとは違う言葉や態度で正体を暴かれないよう注意していたのに。


「そう驚くなよ。いやまあ、僕も確信ってレベルじゃなくて、あやふやなとこはあるんだが、お前とはさんざん体術戦闘してきたんだ。こぶしを交わしてりゃピンとくるさ。てか『学生レベル』って物言いからして、お前も僕が誰だか見当はついているんだろ?」


「……」


 正直なところ確信はない。いや、確信するのを(・・・・・・)邪魔されている(・・・・・・・)奇妙な感覚があった。おそらく儀式のシステムによる認識阻害だろう。

 それでも今の会話で、頭の中の靄が晴れた気がした。


 まいったな、とイリスフィリアはため息を吐き出す。


(もし近くに他の魔法少女がいたとしたら、今の会話で推測されたかもしれない)


 いずれにせよ――。


(彼とはここで決着をつけた方がよさそうだ)


 イリスフィリアはブレスレットが嵌まった腕を高々と掲げた。



「来い! 『破滅に誘う破城杭(パイル・カタストロフ)』!」



 叫びと同時に光があふれる。


 この演出機能って外せないのかな? とちょっぴり気恥ずかしさを抱く中、一段さらに輝きを増した。


(Einver)(standen)マスター(Meister)


 機械的な音声とともに、彼女の腕に板状の台座が、そして背中に三本の杭が装着される。


「へっ、やっぱそうかよ。んじゃ、聖武具同士のガチンコ勝負といこうじゃねえか」


 グリーンが聖剣を構えた。


 イリスフィリアが取り出したのはつい先日、古代遺跡の地下深くで発見された〝至高の七聖武具〟のひとつ――との触れこみでハルトが創った偽物である。なので彼女はちょっと申し訳なく感じていた。

 ともあれ、とイリスフィリアは気持ちを切り替える。


 数秒。

 二人の魔法少女は互いの呼吸を計っていた。


 先に動いたのは虚空に浮いた〝緑〟だ。彼は唐突に、妙な言葉を口走った。



「『俺様が主人公だぜぇ』!」



 その意味するところを想像する間もなく。

 イリスフィリアの目の前に、白刃が迫っていた――。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

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