魔法少女とは?(哲学)
どんな願いでも叶えるという、究極の願望機――〝聖なる器〟。
かつて神々がおわした時代でさえ、〝聖なる器〟を降臨させる大魔法儀式は成功に至っていなかった。
しかぁし!
なんと今回、俺たちはなんやかんやあって、その儀式を再現することに成功したのだ!
七名の魔法少女がそれぞれ補佐役の小動物的マスコットキャラを連れ、各々に与えられた特殊な能力を駆使して知略を尽くし謀略を巡らせ、絆を結び裏切りを経て、〝聖なる器〟を奪い合う。そんな内容になりました。
実際にどうなるかはまったくわからんし、そもそもシャルを楽しませるための方便なので願いをどうやって叶えてやるかは今後の検討課題ではあるのだが、それでも。
七名の魔法少女は決定した。
儀式のシステム管理者たる俺のあずかり知らぬところでけっこうな数が決まってしまったのが不思議でならないし、加えて俺が参加者に――魔法少女を陰ながら支援するサポーター役に選ばれてしまったのも不可解極まりない。
が、そういうイレギュラーにも粛々と対処していくのが優秀な管理者ってもんよ。うん、俺がんばる。
ともあれ、だ。
俺が認識している参加者は次のとおり。
シャル&リザ。
メル&ティア教授。
不明&アレクセイ先輩。
そしてイリス&俺、か。
つまり三組+魔法少女一人が不明――うん、半分がわからんな。大丈夫か、これ?
そういえば最初は嫌がっていたリザがシャルのサポーターになったのはよかった。他にいないもんなあ。
で、俺が知らない参加者を炙り出すのが急務なわけだ。
儀式のシステムを通して覗き見られそうな気がしなくはない。でもそれってちょっとズルだよね?
シャルが参加している遊びで、かつ俺自身も参加者に名を連ねている以上、あまりにこちら有利となる不正は避けたい。
というかシャルちゃんに不正をしたと知られたらがくがくぶるぶる……。
仕方ないのでイリスにがんばってもらうことにした。
あいつは俺の相方の魔法少女だ。
シャルを勝たせるべく立ち回るとの俺の方針に、実に快く応じてくれた。たぶん。
でもって俺たちの方針として、まずはあからさまにシャルに協力する姿勢を悟られないよう立ち回り、正体不明の連中に戦いを挑んでどこの誰かや、できるだけその能力なんかの情報を手に入れてシャルちゃんチームにこっそり教える流れになった。
そうして。
さっそくサポーターが持つ『魔法少女を感知する能力』により俺は「ぴきーんっ!」と比喩でなく脳内でアラームが鳴り響き、眼前に現れた『魔法少女レーダー』なる画面上で明滅する点を手がかりに、イリスと共に王都のとある裏路地にやってきた、のだけど……。
「正義の魔法少女グリーン! お前たちの悪行はこの僕が許さない!」
筋肉男やんけ!
いきなり魔法『少女』の概念をぶち壊す奴に遭遇してしまった。声も見た目もまごうことなきマッチョマン、つまりは男に間違いない。
自称『魔法少女グリーン』はその名のとおり、ブレスレットに嵌まっている宝石が緑色だ。緑と白を基調としたふりふり衣装が儚く映る。
空中に浮いて、眼下を睨みつけていた。
顔は見えるが俺の意識が記憶領域との照合を拒否している。そもそも知らん奴かもしれんが知っていたとしても儀式のルール上、相手の正体は隠蔽されるように設定してあるのだ。
だからまあ、誰だかわからないんだけど、
「イリス、やっちまえ」
「いや待て。目的を忘れていないか? それにまずは、あの〝緑〟の魔法少女に協力して彼らを助けるのが先だろう?」
いかんな。
あまりの嫌悪感から威力偵察であることも忘れ、速攻で片づけたくなってしまった。
グリーン(魔法少女って言いたくない)の睨む先。
そこには数人のゴロツキっぽい男たちと、怯えて震える若い男女がいた。
見た感じカップルが人気のない場所でイチャイチャしていたらゴロツキどもが因縁をつけてきたってところか。
「助ける必要なくない?」
「なんでそうなる!?」
危険な場所に立ち入って危険な行為をしたんだから自業自得やろ、とは言わないでおく。
「行くにしてもお前の正体がバレるのは避けないとな。聖武具を温存するのは当然として、ふだんどおりの行動は控えろよ?」
「ふだんどおりと言われても、ボクは意識したことがないからわからないよ」
「要するに『いい子ちゃん』を表に出すなってことだ」
「キミのボクに対する印象って……」
イリスはなんだかげんなりしてしまった。
ちなみにわりと近くでこそこそ話しているが誰にも気づかれていない。
例によって光学迷彩結界で俺とイリスの姿は消してある。音が漏れないよう防音結界で周りを囲っていた。どこにグリーンのパートナーが隠れているかわからんからね。こっちも見つかんないようにね。
と、グリーンの異様な姿にぽかーんとしていたゴロツキどもが正気を取り戻した。
「なんだテメエは!?」
「ふざけた格好しやがって」
「おい、でもコイツ、最近うわさになってる……」
お? どうやらこのグリーン、そこそこ有名人らしい。
イリスも何かを思い出したようだ。
「そういえばこのところ、正義の味方を名乗る奇妙な姿の不審者が王都のあちこちで出没していると聞いたことがある」
「まあ不審者だよな」
「いや、正義を為しているなら不審者とは……」
最後言い淀んでるってことはつまりそういうことだぞイリス、自覚しろ。
「悪! 即! 滅殺!」
グリーンは野太い声を上げるとゴロツキどもに襲いかかった。
その手にはいつの間にか――
「バカな! あれは『光刃の聖剣』じゃないか。正真正銘、〝至高の七聖武具〟のひとつのアレが、どうして……」
うん、そういや見覚えがある。ギーゼロッテが使ってた剣だ。めちゃくちゃ高価そうできれいだったから覚えてる。
ん? でもなんでイリスが知ってるんだ? 一般公開とかされてたのかな?
「ぎゃーっ!」
「ぐわっ!?」
「ぎょぇ……」
俺が疑問を浮かべたそのときには、もう勝負は決していた。
グリーンは剣の腹でゴロツキどもを殴打して気絶させていたのだ。剣を使った意味とは?
「もう大丈夫だ。けどこの辺りは治安が悪い。こういった連中がそこらにいるからな。早く大通りに出るといい」
「は、はい。ありがとう、ございました……」
カップルの男の方が礼を言うと、二人して頭を下げ、逃げるように小走りに去っていった。
まあ複雑だよな。ゴロツキどもよりよっぽど不審な奴に助けられたんだ、感謝の言葉をよく口にできたと思うよ。
「ふっ、今日も正義を為してしまったか……」
グリーンが満足げに余韻に浸っているその隙に。
「やっておしまい、魔法少女ブルー」
俺が小声で言うと、イリスは何か言いたげながらも渋々といった風でブレスレットを装着した。
青い光に包まれてのち、青を基調としたレオタード調のぴっちり衣装にふりふりスカートが付いたえっちな姿に成り変わった。
こいつ、引き締まった体してるくせに出るとこは出てるからめちゃくちゃエロいんだよな。言わんでおくけど。
と、イリス改め魔法少女ブルーが変身を終えて光学迷彩結界を解除したと同時。
「グリーン! 気をつけてください、魔法少女が現れました!」
どこからともなく、聞き覚えのあるようなないような凛とした声が響いた。
声の出所を探るとそこには、
「あら可愛い」
ウサギがいた。
某不思議な国に出てきそうな、リアルっぽくも見える二足歩行のウサギさんだ。グリーンのサポーターかな。あんな可愛らしいのにマッチョのお守りなんて気の毒だな。きっと苦労人なんだろうな。
などと、あちらさんのサポーターに同情していたら。
ガッキィィン!!
戦いの火蓋が、切られた――。