結束のパンデモニウム
シャルちゃんは今、授業中。
この機を逃してなるものか!
「と言うわけで、みんな聞いてほしい」
お日様が穏やかに照りつける中、俺はログハウスからちょっと離れた広場に立っていた。
校長先生が朝礼でお話しするような台の上に、だ。
見渡すと、大勢の魔物さんたちがいらっしゃる。いやマジでいつの間にこんな増えたの?
ガヤガヤと話し声――というかうなり声?がする。獣とか鳥とかそんな感じの鳴き声みたいなので騒がしいのだけど、
「貴様ら黙らんかぁ! ハルト様のお言葉だぞ!」
朝礼台の脇に控える赤髪メイド、フレイの一喝。
「静粛に! 我が君にぃーっ、傾聴!」
加えて最前列のど真ん中にいた骨骨軍団のリーダー、ジョニーが(空っぽの)腹から(ないはずの気道を経由して)声を張り上げると、即座にしんと静かになった。
俺がなんか言ってもこんな風には……悲しくなるからこれ以上考えてはいけないな。
「君たちの力を貸してほしい」
ウォーーーーッ!! 地響きみたいな雄叫びで耳が痛いです。みんな話聞こ?
「みんな、黙って」
フレイとは反対側で佇んでいたリザが聞こえないような声でつぶやいたのに静かになる魔物のみなさま。
ジョニーにも注意され、俺への集中度合いがハンパなく上がった。き、緊張するぅ。
「えっと、実は帝国が攻めてきてるそうなんです」
ぶっ殺せーーーッ!! みたいな声が聞こえてくるかのような雄叫び再び。
いや殺しちゃアカンのよ。これは戦争ではないので。
ティア教授曰く、『ワタシはこの手の国家間の事情やら貴族がどうたらとかはまるきり専門外で興味もないのは承知しておいてね』などと言い訳がましく前置きしつつ、
『王国と帝国が直接衝突するのを回避したとしても、帝国に死者が出るのはマズいよ。帝国側でリベンジ論が噴出して再戦してくる可能性が高まるからね』
なるほどこれが負の連鎖か。違うな。ともあれ嫌ですよね。
そんなわけで、そこのところを懇切丁寧に、身振り手振りを交えながらみんなに説明する。
またも見事に要約して伝え直してくれるジョニーさん。君ってホント優秀よね。
フレイとリザは俺の左右でにらみを利かせていた。おかげでどよめきにも統率が取れていますねぇ。
そしてひときわ大きな体をしているギガンはうとうとしていた。
話し終えると、ジョニーが総括的な言葉を並べてくれる。
「さすがは我が君、戦争を回避しつつも敢えて手加減を装うことで、事実上帝国にこれ以上ないほどの敗北を刻みつけ、再侵攻に二の足を踏ませるという、局所的・戦術的成果を大局的・戦略的成功に昇華させるその深慮遠謀、改めて感服いたしました」
まだ具体的な作戦は何も伝えていませんが?
「とりあえず君らには前に出てもらうけど、怪我しちゃったらいけないし、防御は徹底するから安心してね」
シャルが悲しむからね。フレイもしょんぼりしちゃうだろうし。
「なんとっ!? 貴重な魔力を割いてまで我らを守らんとするそのご厚志、恐悦至極にございます。我ら一同、その御心に報いるため、天地神明に誓ってこの命を捧げる所存」
いやだから命は大事にしよ?
みんなうるうるしたり号泣したり、いたく感動されている様子。
フレイははらはら涙を流しているし、リザは目を閉じ大きくうなずいている。後方腕組感がすごい。
まあ、やる気になってくれたならいいか。面倒に巻きこんじゃうわけだし。
と、大事なことを言い忘れていたことに気づく。危ない危ない。これ言っとかないと大変なことになるところだった。
「本件はシャルには内緒だ」
めっちゃどよめく魔物のみんな。ジョニーもなんだか落ち着かない様子だ。先に話していたはずのフレイとリザの表情も険しい。
これなんかの地雷だったりする? 不安に思うも、俺は理由を付け加えた。
「戦争がどうとか、あいつには無縁であってほしいからね」
え、なんで静まり返ってるんですかね。
しかも真摯な瞳のすべてが、俺に集中して…………うおっ!? さっき以上に大号泣し始めたんだが!?
「さすがはハルト様、愛の深さも計り知れん」
後方腕組み魔族その1。
「ほんと、優しいよね」
後方腕組み魔族その2。
「なんと、なんと慈悲深い……」
ジョニーもどこから出しているのか目(と言うかその窪み)から涙を溢れさせている。
「ご主人様、かっこいい……」
さっきまで寝てたはずのギガンも珍しく泣き腫らす。
「この勝利を! シャルロッテ様に捧ぐ!」
ジョニーの雄叫びでシャルロッテコールが巻き起こった。
まあ、すごく慕われてるのは知ってたけどさ。
俺との差が激しすぎやしませんかね?
ま、ひとまず彼らの協力は得られた。
朝礼台から降り立つと、なぜかついてきていた銀髪の女子生徒が駆け寄ってくる。
「キミは、本当にリーダーに向いているんだね」
この状況でそれ言う? シャルのが圧倒的に人気あるんだが?
「ボクも力になりたい。魔物たちと共に、戦わせてくれないか」
まあ、一人二人増えてもあんま変わらんし、こいつはこいつで魔法レベルが上がってかなり強くなってるし、断る理由はないか。
「んじゃ頼むわ」
軽く返しただけなのに、イリスは並々ならぬ決意を瞳に宿した……ように見えた――。




