風雲急を、てことぉ!?
ミッションはコンプリートした。
ふっ、最近の俺はしくじりと無縁ですこし怖くなってしまうな。まあ失敗なんてすぐ忘れるに限るがポリシーなだけだが。
ともあれ、ライアスが立ち直ったかは知らんけど、引きこもりが部屋から出た意味は重い。この流れなら明日は無理やり学校に引きずり出して授業に出席させるのも容易い。
俺がそんなことやられたら暴れ抗うけどさ。
ログハウスのリビングに戻ると、マリアンヌお姉ちゃんが心配そうに待っていた。イリスもまだいる。ティア教授は見当たらない。待ちくたびれて帰ったのかな。
「ライアス王子はもう大丈夫です!」
俺がなんか言う前にドヤりまくる我が天使。可愛い。
マリアンヌ王女がぱっと喜色を灯す。
「やはりお二人に任せて正解でした。本当に、ありがとうございます」
よほど嬉しかったのか、目元をそっと拭う。
でも具体的に何がどうなったか言ってないけど大丈夫? 俺みたいな怪しい男の言葉を鵜呑みにしちゃダメだよ? あ、シャルちゃんを信用したならいっか。
「いいえ、マリアンヌ王女、わたくしたちだけの力ではありません」
イリスが興味深そうに「というと?」と尋ねる。
「こちらをご覧ください」
言って、シャルはさっきライアスに見せた街頭インタビューの映像を流した。
「こんなにライアスのことを慕う人たちがいたのですね……」
「彼、けっこう人気者だったんだね」
二人ともいたく感動している様子。
シャルもうんうんと同意している。
……ちょっと、胸がちくちくするのはなぜだろう?
俺の名誉のために言っておくが、けっして捏造ではない。俺は人の心を操ったり言動を操作したりはできないからね。
ただ、見せなくていいところを切り取っただけだ。
ぶっちゃけ該当インタビューはこの十倍近い人に行った。時間が圧していたので偽シヴァを大量投入しての物量作戦。
結果、ライアスに対する意見を求めたのに回答のほとんどは悪女ギーゼロッテに対する罵詈や雑言、恨み節。その息子への非難も当然、轟々だ。
ライアスに好意的だったのは比較的若い層だ。特にちびっ子に大人気。さすがマッチョはお子様の心をグッとつかみやがる。
まあそう言うわけで、少数の好意的意見を汲み取り、その中からも厳選しつつ『でもあの王妃の息子なんだよなあ』とか余計なひと言ふた言を切り捨てた程度だ。
……これ、恣意的情報操作って言うんですかね?
いいんだよ! 仲間のためなんだから!
はい、自己正当化終わり。
「明日またぐずってたら俺が学校へ引っ張り出しますよ」
最後は力づくで解決します宣言をすると、さすがに『え、ホントに大丈夫なのかな?』と不安そうな顔をされた。大丈夫、なんとかします。
さて、これで肩の荷が下りたわけだ。やれやれだね。
などと思ったのだが、そういえば当初の目的を忘れていた。
なぜ俺がイリスを探していたのか。
それは近々開催される魔法少女戦争(仮)にこれ以上イレギュラーな参加者を増やさないため、ある程度コントロールの効く人物をエントリーしてしまおうと考えたからだ。
その意味ではマリアンヌお姉ちゃんもいいよな。年齢的にも十代だから問題ないし、ついでに誘っちゃう?
イリスには断られた気がするが一度で諦める俺ではない。
「シャルよ、俺はお二人と話がある。悪いが席を外してもらえないか」
キョトンとしたシャルちゃん(可愛い)は、イリスを見、マリアンヌ王女を経て俺に視線を戻すと。
「はっ!? ついに、始まるのですね。選定が……」
あれ? これバレてる?
アレクセイ先輩とも話して、なるべく誰が参加しているかは秘密にしたかったんだけどな。
ま、ある程度は許容するか。
「実はそうなんだが、ここはほら、内緒に、ね」
これで他の参加者には伝わらないだろう。
「わかりました。兄上さまが選ばれる方を、もちろんわたくしも尊重します。そして来たる日に備えて覚悟を決めておきますね」
言葉の通り覚悟の決まった顔だ(でも可愛い)。
今回の遊びにはいつも以上に真剣に向き合っているようだな。俺も気を引き締めるか。
「ええ、お二人なら問題ありません。わたくしが独占するなどおこがましいことは考えておりませんから」
ま、知っている仲だと戦いにくいとは思うけどね。
シャルがぺこりとお辞儀して外へ出かけて行った。
よし本題に入るか、と二人へ向けば。
「ぜったい話が噛み合っていませんでしたよね」
「何がどう、との予測はつかないがボクもそう思う」
なにこそこそ話してんですかね?
「ともかく、二人に話があります」
俺はお茶を淹れ直してソファーに座る。
イリスとマリアンヌお姉ちゃんはどこか緊張した面持ちだ。
あまり重々しく話しても断られてしまいそうだし、ここは軽快にポップでキッチュにサイケデリックな感じで、とにかく意味不明でふわっとした状態にしていつの間にか承諾させてしまうのだ!
気合い入れまくりで切り出そうとしたまさにそのときだ。
「ハルト・ゼンフィス、折り入って話がある」
弟君――ウラニスが『どこまでもドア』を開いて現れたではないか。
ねえ、その先って学院内の俺の部屋だよね? なんでお気軽に通ってんの? てかこいつに限らずみんな俺の部屋に勝手に出入りしすぎじゃない?(シャルは問題ない)
「後にしてくれよ」
また忘れちゃいそうだからこっちを先に片付けたいんだよね。
ウラニスはイリスと、そしてマリアンヌお姉ちゃんを一瞥すると、
「王女がいるならちょうどいい。まず――」
なんて子なのかしら。俺を無視して話し始めやがりましたよ。
「オレは帝国から派遣された諜報員だ。大貴族の子女が通うグランフェルト特級魔法学院に潜入し、学生経由で情報を集め、本国に送るよう命を受けている」
唐突になに言ってんだこいつ? 厨二病か?
「信じていないようだが話は続けよう。オレは通信魔法が使える。シヴァほど強力なものではないがな。今回、定時報告で穏やかならぬ情報を入手した」
マイペースに続けるウラニスは、とんでもないことを口にする。
――帝国皇帝ヴァジム・ズメイが王国への侵攻を決断した。




