お姉ちゃんの憂鬱
ついにシヴァの正体がバレてしまった。
しかも同時に二人。
「ひひひひーっ、ふひぃ……、おなか痛い……くっふふひひひっ……」
ティア教授笑いすぎー。マジムカつく。ので、「あきゃっ――!?」結界で固めておいた。しばらく黙っていてもらおう。
てか、のっぴきならない事情があって自ら正体を明かしたんだし。俺悪くないし。
ともあれ、本来なら目撃者は抹殺……しないまでも、うまいこと騙くらかさなきゃいけないわけですが。
――うん、まあ、そうだろうとは思っていたよ。
――私もなんとなく気づいていたというか、『そうじゃないかなー』と思っていましたよ?
どうやら二人とも薄々勘づいていたご様子。
ならまあいっか。いちおう口止めはするとして、どっちも円卓? キャメロット? それに所属してるだろうし。たぶん。
「それでマリアンヌ王女、俺になんかご用ですか?」
そういや最近見なかったな。
俺が引きこもり体質で誰とも会わん日々を送っているからってのもあるけど。たしかシャルたちとルシフェル・カードの封印をやったとき以来かな。
「開き直るのが早いね」
イリスのツッコミはスルーしてマリアンヌお姉ちゃんを招き入れ、お茶を出した。
上品に一口飲みこんでから、ほんのり躊躇いがちに話し始める。
「実はライアスのことで相談がありまして」
そういやあいつも見てないな。
「最近はずっと自室にこもってしまい、授業にもまったく出ていないのです」
なんてことだ。
あいつ俺に憧れるあまり引きこもりまでマネし始めたのか。
「それは……俺にも責任がありますね」
「いえ、ハルト君が責任を感じる必要はありません。正義を貫くシヴァの立場からすれば、貴方がギーゼロッテの罪を暴くのは当然のことと理解しています。ライアスも母親が糾弾されるのは納得していると思うのです。ただ……」
やべ、俺なんか違う話してた。ひとまず沈痛な面持ちでやり過ごそう。
「けっきょくあの子は、父親にも母親にも愛されなかった……。どうにか関係を修復しようと努力していたのです。でも、それはもはや叶わなくなってしまいました」
なんかヘビーな話になってんな。てかあのクソ親と仲よくしようとしてたのか。なんて無駄なことを、とか言ったら怒られそうだから黙っておこう。
「あの子には、知ってほしいのです。貴方を慕う人は近くにたくさんいる、と。私だってそうです。でも私の言葉が届いてくれるかどうか、自信がありません」
哀しくも慈愛に満ちた顔をゆっくりと持ち上げ、揺れる瞳を俺に向ける。
「ハルト君、どうか、ライアスを励ましてやってはもらえませんか。あの子は貴方に憧れています。直接は照れくさくて言っていないと思いますけど、ずっと、あの日貴方に敗れてから」
「なるほど」
いやいやいや、黙ってるのもアレだから当たり障りのない相槌を入れてはみたものの、俺が他人を励ますとか正気か?
「お願い、できますか?」
無理っす。
出かかった言葉を全力で飲みこむ。いやでもなー、マジ無理だと思うんだけど。
とはいえ、お姉ちゃんの真剣なお願いを無碍にはできない。
「どこまでやれるかわかりませんけど、やってみます」
キリリとこう言っておけば失敗しても『がんばったんだけどねー。いやホントがんばったんですけどねー。やっぱダメでした。サーセンww』で許してくれるはず。
「ありがとうございます、ハルト君!」
感謝の言葉に後押しされ、俺は重い腰をよっこらせと上げた。
「んじゃ行ってきます」
「わたくしもお供しますね、兄上さま」
「おう…………ぉぅ?」
あれ? いつの間にかシャルちゃんが?
「ところでどちらに行かれるのですか?」
ランドセルを背負ってるから授業終わって今帰ってきたとこみたいだな。
「ちょっとライアスを励ましにね」
言うと、なぜだかシャルちゃんは目を輝かせた。
「事情はさっぱりつかめていませんけどさすがは兄上さま! お友だち想いですね!」
ヤバいなこれ、今この瞬間をもって失敗が許されないミッションになってしまったぞ。
となれば当然、本気を出さざるを得ない。
結果がどうあれさくっと話して終わらせるつもりだったが、俺は事前準備を入念にすることに決めた。
要はあれだろ、ライアスが実はわりと人気者だって捏ぞげふんげふん……自覚させればいいんだよな。実際がどうあれ、ね。
待ってろライアス、絶対にお前を立ち直らせてやるからな!




