レギュレーションは一人で決めない(後半)
議論を再開。
さっそくイリスが質問を投げる。
「ところで、魔法少女に変身しても姿が変わるだけなのかな?」
「ふむ、それだと面白みに欠けるねえ」
それはそう。
せっかく魔法少女に変身するんだしね。
俺はシヴァモードで仰々しく言う。
「あのブレスレットには膨大な魔力が秘められている。その一端を使うのだから、当然パワーアップする」
それだけじゃないぞ。
「魔法少女にはこの儀式でのみ使える特殊な能力がひとつ、付与される」
「特殊能力? 魔法とは違うのかい?」
「ブレスレットに仕込まれた魔法効果、と認識してくれればいい。本人の属性には縛られず、通常の魔法とはやや異質な効果であることが多い」
「それもシステム側で誰にどう割り振るかは決めるの?」
「完全にランダムだ。どんな能力かは、その魔法少女の願望や特徴的な資質などが強く反映される。たとえば人の顔色ばかり窺うような者なら『相手の心が読める』能力、とかな」
参考にしたアニメだとそうだった。
今回の儀式も俺が考えて与えるんだと面白みがないし、博打要素はあったほうがいいよね。
「モノによっては勝敗を左右する切り札になり得る……のか。となれば別の陣営に知られたくはないね」とイリス。
「むろん自陣営しか知り得ない。厳密にはサポーターのみ、だな」
「なんでサポーターだけに?」と疑問を口にしたティア教授はしかし、すぐ答えに思い至ったらしい。
「あー、なるほど。魔法少女自身から情報が漏れる危険を避ける意図かな」
基本は魔法少女もサポーターから情報共有すべきだけど、誘導尋問でうっかりしゃべったり特殊能力で暴かれたりがないよう、儀式の序盤はまず『知られる危険』を排除する戦術を取るのがいい、と件のアニメでは語られていた。
まあ実際のところサポート役のマスコットキャラは運営側の立場にあって、その企みを隠すための方便だったんだけどね。
「サポーターに戦略や戦術の立案と運用を押しつける感じがしてボクは嫌だな。せっかく二人一組であるなら情報はすべて共有して二人でいろいろ考えるべきだ」
「そこはチームそれぞれの事情でやり方を決めればいい。あくまでルール上は、魔法少女の能力を知り得るのは自陣のサポーターのみ、というだけの話だよ」
加えて、とシヴァは続ける。
「特殊能力を有する魔法少女には当然として、サポーターにも発動や停止ができる権限が与えられている。要するにサポーターが許可しなければ特殊能力は使えないし、強制的に停止することもできる」
操作自体は魔法少女が主体だけどね。
「へえ、使い続けると何かしら不利益がある、あるいは初見でしかほぼ効果がない、とか。どんな特殊能力かによってその辺りはサポーターの力量が試されるってワケか」
「他にサポーターの役割としては索敵がある。他の魔法少女のステータスは読めないが、特定範囲であればどこにどの魔法少女がいるか知る術を持っている」
これ、奇襲や闇討ちができないようでいて、あくまで『魔法少女を探知する能力』なので変身前に近づいて変身しながら奇襲、なんて芸当は可能だ。
ここでは言わないけど。
「ふうん、奇襲が困難なようでいて、それを逆手に奇襲もできそうだね」
……このちびっ子メガネ、やはり鋭い。
「基本的な部分はだいたい出そろったかな。それじゃあここまでをまとめると……」
ティア教授はせっせと黒板に書き記していく。
【魔法少女戦争(仮)のルール】
・参加者は究極の願望機〝聖なる器〟を手に入れるために戦う、バトルロイヤル形式。
・参加者は七人の魔法少女と彼女らを補佐するサポーターがそれぞれ一人ずつの計十四名。
・参加者は〝聖なる器〟によりランダムに選ばれる(建前)→俺が選ぶ(本音)。
・魔法少女から魔法少女への攻撃のみ有効。
・魔法少女がブレスレットの宝石を破壊されるとその組は脱落する。
・ブレスレットは着脱可能。魔法少女は異空間から自由に収納、取出しできる。
・ブレスレットの宝石を破壊されずに最後まで残った一組が〝聖なる器〟を手にできる。
・魔法少女同士は変身後、戦闘開始が認められてから五分間は変身を解除できない。
・魔法少女に変身するとブレスレットの効果で魔法の威力が向上する。
・魔法少女にはそれぞれひとつ、特殊能力が付与される。
・サポーターだけがそのパートナーたる魔法少女のステータスを知り得る。(特殊能力含む)
・サポーターは特殊能力の発動・停止を決定できる。
・サポーターは半径1㎞圏内の魔法少女を探知できる。
うん、ひとまずはこんなもんでよさそうかな。
細かいところは都度追加したり変更したりすればいい。
これは都度説明すんのも面倒だし、魔法少女が選ばれたときはその人に自動的に表示されるようにしておこう。
こうして俺たちは、実に有意義な会議を終えるのだった――。