あっさり白状されると逆に疑っちゃうよね
なかなかエグいことをやるもんだ。
俺はルシファイラ陣営に預けておいたカードが気になって、どこに隠したのか聞き出すべくギーゼロッテが囚われている牢にやってきたわけだが。
なんか知らんが謎の留学生の弟の方(たしかウラニスって名前)がギーゼロッテをズタボロにしているじゃありませんか。
いや、目的は明らかだ。
なぜだか知らんがギーゼロッテの体内から金属製のカードを抜き取っている。
いやホントになんで?
てかどうしてギーゼロッテの体にカードが埋まってんの?
よくわからんので終わるのを待つ俺。
ちなみに光学迷彩結界で隠れているのでまだ存在には気づかれていない。
ギャーギャーうるさかった声もなくなり、ギーゼロッテは虫の息。ん? 傷が少しずつだけど塞がってきてるぞ? 気絶してるのに回復魔法使ってんのかな? 器用なやつめ。
ウラニスは血塗れのカード六枚を扇状に広げ、じーっと眺めている。おや? よく見れば小脇に本を一冊挟んでるな。
しばらく待つ。
微動だにしない。
ギーゼロッテは死にそうだけど死んでないし、やることなくてとても暇なので、なにやってんのよ? とばかりにウラニスの顔を覗きこんでみた。
珍しく表情が険しい。
感情がまったく顔に出ないタイプかと思ったけど、こんな顔するんだね。
さて、さすがに飽きてきた。
面倒だけど問いただすとしますかね。
「なにをやっている?」
正面から声をかけつつ姿を現すと、ウラニスはほんのわずかに片眉を動かしたものの、完全無欠の無表情で視線を上げた。
「シヴァか。いつからいた? いや、ずっと後をつけていたのか」
「さてな。それよりも俺の質問に答えてもらおう」
ウラニスはすこしの間を置いて返す。
「魔神に興味があって王妃の私室を調べたところ、コレを見つけた。とある大規模魔法儀式に関してルシファイラ自身が記したものだ。この中にオマエたちが集めていたものと同種と思しきカード型魔法具の在処が示されていた」
だから今度はそのカードを調べたくてギーゼロッテに会いに来たそうな。
淀みなく告げる様は逆に怪しいような気がしなくもない。
「で? それをどうするつもりだ?」
「今言ったぞ? 調べたい、と。が、どうやらオレの手には余るようでな。どうだ? オマエが調べてみては」
ずいっとカードを俺に差し出す弟君。
もともと俺が作ったものではあるし、俺自身も回収しに来たわけだが、血でべっとりのカードなんてもらってもなあ。
とはいえ、なんとなくこいつに預けるのもダメな気がする。
俺は渋々ながらカードをふわりと浮かせて引き寄せた。触るの嫌だし。
さっそく謎時空へしまおうとしたのだが……なんだこれ?
「シヴァ、どうかしたのか?」
表情を変えずに尋ねてきたウラニスを一瞥し、再びカードに目を向ける。
なんか、変わってね?
俺が作ったカードから、妙な雰囲気を感じる。波動というかオーラというか、うまく言えないが『なんか手を加えられた』感がするのだ。
「なんでもない」
後でティア教授に調べてもらうか、と問題を先送りにして六枚のカードを謎時空へとしまった。自分で言うのもなんだが、ものすごく忘れそう。
「これも渡しておこう。同じくオレには過ぎたるモノだ」
今度は小ぎれいな本を寄越してくる。けっこうしっかりした本だな。
捲ってみた。
うげ、古代語とかいうやつじゃん。読めはするけど面倒くさいな。また今度、調子がいい時にしよう。はいそこー、読まないフラグとか言わなーい。
「ウラニスよ、カードにしろこの本にしろ、調べた結果をお前に教える気はないぞ?」
面倒だからね。そもそも調べるのがね。
「……それならそれでいいかもしれん」
ウラニスは興味なさげに続ける。
「いらないなら捨ててしまった方がいい。下手に残しておけば厄災の種になりかねん」
これはあれか? 『押すなよ』仕草か?
なんとなく捨てろと言われると捨てたくなくなる。まあ読むなと言われたら喜んで読まないんだけど。
「ではな。伝えることは伝えたぞ」
ウラニスはそう言って牢から出ていく。
床に転がるギーゼロッテは徐々に回復しているみたいなのでそのまま放置。
「……ま、どっかに保管しておいて、そのうち読んでみるか」
俺はルシファイラの本を謎時空には収めず、小脇に抱えて引きこもりハウスの自室へと戻るのだった――。