魔神、ぷちん
逃げ出そうとした、ギーゼロッテの顔した魔神ルシファイラを結界の中に閉じこめる。
今回は本気でマジなやつなので、あらゆるものから奴を切り離すことに成功した。
王都の術式にお残しがあってもルシファイラから発動させることはできないはず。たぶん。
「んじゃ、決着をつけますか」
てくてくと歩き始めると、
「ひぃっ……!?」
こっちを向いたものの尻もちをついて後じさる魔神さん。どうやら万策尽きたみたいだな。哀れよなあ。
ま、全盛期のこいつだったらどうなっていたやら。卑怯とか言わないでほしい。相手が全力を出せないうちに勝利するのは立派な作戦のうちなのだ。
「何を、するの……?」
そりゃもうご退場願う以外にないわけだけど、実はひとつ問題がある。
魔神はどうでもよいのだが、ギーゼロッテの肉体が死んでしまうと面倒なのだ。
王妃ギーゼロッテはあくまで罪人として王国の人が裁かなくてはならない。
正体不明の怪しい黒ずくめの男がその手で処断したら、王妃を慕う者たちが納得しないで暴れるかもしれないからね。こいつ、まだ一部界隈ではわりと人気あるのよね。
だからサクッとは殺せない。
かと言って魔神に乗っ取られたままだと、父さん含めて人が対応するのは危険だ。今はかなり弱ってるけど、いつ力を取り戻すかわからんからね。
そんなわけで。
もうちょっとだけ気合入れてがんばります。
でもヘルメット越しだとよく見えないな。俺はずぽっとヘルメットを脱いだ。
「っ!? ……貴方、誰?」
そういや、顔を晒して会うのって生まれた日ぶりか。
「シヴァの中身だよ。さて――」
俺は会話するのも億劫なのでさっそく本題に取りかかった。
ルシファイラを凝視する。じーっと、その体の奥底に潜むそいつを、ただひたすらに。
「いたいた」
頭の中心、脳の内部って感じか。実際には肉体にではなく、その精神体みたいなのに寄生している厄介な〝虫〟。かたちはぼんやりとはっきりしないが、まあ虫ってことで。
小さな結界をいくつも生み出した。
三次元的にやっちゃうと脳に傷をつけかねないから、より高い次元からそっと〝虫〟の周りを囲んでいき。
びっくんっ!
ギーゼロッテの身体が大きく跳ねた。その勢いではないのだが、結界にくるまった〝虫〟が飛び出してくる。
右手でキャッチ。『ぶべっ』
なんか聞こえたな。まだ話したりできるんだろうか?
耳を澄ませると、なんか命乞いみたいなのを延々としゃべり散らかしているのが聞こえてきた。
これ、どうしようかな?
ひとまず結界に閉じこめて、ティア教授にでも見せ……ふぁ、は……「――っくしゅん!」ぷちっ。
あ……つぶしちゃった?
右手を開く。じっと見ても、何もない。辺りを探るも、魔神らしきものというか、俺以外の存在は感じられなかった。
「ぅ、ぅうう……シヴァ……?」
ぼんやりしていたギーゼロッテが俺を見上げる。
このまま父さんとこに突き出してもいいんだけど……最後にひとつ、絶望と反省をプレゼントしてやるか――。