やったかフラグはありません
シャルちゃん気づいてるしネタバレしちゃうと。
六機の飛行物体は巨大ロボのパーツである。はいそこー、知ってたとか言わなーい。
それぞれ頭部、胸部+両腕、腰と両脚、右足、左足、そして背中の特殊パーツだ。
シャルが乗る機体は小さくてやや丸っとした、言わずもがな頭部である。
「いけません! もうあんなところまで」
機関銃で足止めを試みるも、まったく動じず巨大合成魔獣キマイラは歩み続ける。
「仕方ありません。早速ですが、合体です!」
シャルは操縦桿の先っぽについている『合体』と印字されたボタンを「ポチッとな」
ユリヤは何が始まるのかと興味津々だが、他の面々は何が始まるのかとゲンナリしている。
「ななななにが!?」
まずはイリスの乗る胸部+両腕パーツがぐぐーんと縦になって急上昇。
「うぷっ……気持ち悪……」
マリアンヌお姉ちゃん搭乗の腰+両脚パーツが追いかける。
ガシャーンとドッキングし、肩が広がり足が伸び、みたいなちょっとした変形モーションを入れつつ、左右の足がくっついていく。
「「……」」
無口なウラニスはいいとして、ライアスはどうした? 気絶してない?
「あ、今度はわたしの乗っているこれね」
ユリヤは薄っぺらくて細長い機体に乗っていた。それが背中側にガッチャンとくっつく。
ちょっと高く上がりすぎたのでしれっと下降しつつ、並走するようにシャルちゃんの機体がやってきて。
ガチョンと結合、そのままズズゥゥゥン、と着地して。
シュシュシュゥン……ピッカーッ!
頭部が露わになって後光の演出もバッチリと。
「正義の魔法少女ロボ、推参!」
シャルちゃんの決め口上で完成です。
正直なところ腕とか腰回りとか脚とかゴツゴツしていて機動性がよくなさそうに見える。でも戦隊モノの合体ロボってこんな感じだしね。
めっちゃ楽しそうに見せてきた設計者にダメ出しはしづらかったし。
「はっ!? シャル……それにユリヤとマリアンヌも? どうしてここに……?」
その三人は合体後、イリスのいる胸部に集まっていた。
「合体後は一箇所に集まるものなのです」
バラバラだと困ったこともあるしね。
「僕は移動しないのかよ!」
「……」
設計上、六人はちょっと多かったので。
ともあれ、準備は整った。
「いっきまーす!」
「いっけー!」
シャルとユリヤが声を合わせると、特に操作していないけどガチョンガチョンと巨大ロボが駆け出した。
「この子、疾いです!」
「見た目からは想像できないくらい小回りが利くわね」
まあね、実運用上はキビキビ動かんとすぐやられちゃうと危惧した結果、機敏に動けるようにしておいたのだよ。解釈違い、とか思わないでほしい。
「揺れる揺れる揺れるぅっ!?」
末端にいるライアスのことをすっかり忘れていた。まあがんばってくれ。
「パンチです!」ドゴーン!
正拳突きがクリーンヒット。キマイラの前進が阻まれた。
「キックで吹っ飛ばして!」ズガーンッ!
回し蹴りが炸裂。キマイラが大きくよろめく。そして倒れた、が――。
「なんと!? わたくしたちを無視して?」
キマイラはゴロリと転がりすぐさま立ち上がると、ドシンドシンと大地を揺らして城壁へ向かった。いや、
「走ってます!」
さっきとは打って変わっての全力疾走。え、けっこう速い。
このまま城壁にショルダータックルして粉砕する勢いだ。
俺はアレクセイ潜入調査員から得た情報をみんなに伝える。
「そいつは王都の中で暴れ回るのが目的のようだ」
コックピット内に緊張が走った。
イリスが苦々しげに言う。
「だとすれば、城壁を突破された時点で相手の目的が達成される。阻止しようにも、今度はボクたちの相手をすることで市中を破壊しまくるつもりだろう」
「つまりその前に決着をつけなさい、ってことね」
どこか楽しそうなユリヤに、シャルがキリリと声を張った。
「ならば全力で阻止するのみ。若干早い気がしますけど必殺技を出しましょう!」
さすがにここに至ればみんなも慣れたもの。『まあそれくらいあるよね』という顔をしている。
「みなさん、手元のボタンを押してください!」
それぞれの席にはコンソールっぽいのがあり、比較的デカめのボタンが一個あった。
「せぇーの、「ポチッとな!」」
声を合わせたのはユリヤだけか。まだ一体感が足りないな、このチームは。今後の課題だろう。
みんな(ライアスは目を回しながらも)ボタンを一斉に押した、直後。
巨大ロボが両手を天に掲げるポーズを取る。背中のパーツが上空に射出された。
上昇しながらカショーンキショーンとその姿を変えていき、
「正義の魔剣バルムンク!」
黄金に輝く聖――え? 魔剣? キャメロットとかだし聖剣のつもりで……まあよし!
巨大な聖剣改め魔剣が降ってくる。掲げた両手に吸いこまれるようにキャッチ。
両足の裏から突風が巻き起こり、ものすごいスピードで巨体がホバー移動を開始した。みるみるうちにキマイラに迫っていき、
「そぉーれっ!」
急遽禍々しい黒い霧を醸しながら、大剣がキマイラの背を斬りつける。
ウォーーーンッ! ってな声なき異音を響かせて、キマイラは地面に崩れ落ちた。城壁まであとわずか、というギリギリのタイミングだ。
やったか?
などとフラグを立ててはいけない。たとえやっていなくても、必殺技を出した以上はご退場願うのだ。
カッと光ってドーンと爆発。
バカでかいその体を、俺は謎時空に沈めたのだった――。