発進!(何が?)
王都に迫り来る二足歩行の巨大合成魔獣――仮称『キマイラ』。
獅子っぽい頭部に角を二本、竜の尻尾みたいなのも生やしている。類人猿に似た毛深い体はマッチョさが増し、馬だか鹿だかの後ろ足も筋肉が増量されていた。腕太ぉ……。
俺にとって非常に都合のよい状況で現れたのには理由がある。
実のところこいつはずっと前に地下の大空洞を出発し、そのまま進んでいたら決勝戦が始まる前には王都の城壁にたどり着いているはずだった。
俺は光学迷彩で使っている幻影型結界魔法を駆使して進路を偽装し、同じ場所をぐるぐる回らせて時間を稼いだ。
そうして満を持して、正しく俺に都合のよいタイミングで登場させたわけ。
決勝戦はうやむやになってしまうが、俺とシャルの戦いは永遠に決着がつかない運命なので仕方ないね。
「どどどどうしましょう!? 王都がピンチです!」
シャルちゃん大混乱。事前に伝えてなかったもんね。びっくりさせてごめんね。だが安心してほしい。
「こんなこともあろうかと、君たちに用意していたものがある」
シヴァの中身は俺である。みんなが巨大魔獣に注目している隙に、偽シヴァと入れ替わったのだ。
ピューっと口笛を吹く。
キラーンと空に輝く星が六つ。飛行物体がズギューンとやってきた。大小様々で形も同タイプは一セットのみ。ホバリングしてのち、垂直に闘技場へ降下した。
「こ、これは、もしや!?」
さすがシャルちゃん、察しがいい。
しかし六機の飛行物体に対してこちらは四人。
「きゃっ!? ぇ、ここは……闘技場?」
「ぶべっ!? な、なんで僕はここへ?」
マリアンヌお姉ちゃん、ライアス君、いらっしゃい。
これまで何度もシャルのカード集めに付き合ってくれたもんね。だから仲間外れになんてしないよ。
俺は厳かな演技で言う。
「君たちは急ぎその機体に乗り、あの魔神が造りし巨大合成魔獣――仮称キマイラから王都を救ってほしい」
うん、こいつなに言ってんの? って反応は正しい。まあシャルはワクワクしまくってるけどね。ついでにユリヤも目を輝かせてるな。順応力ありすぎー。
「さあ! そこのドアをくぐれば機体に乗りこめる。急ぐんだ!」
もう強引に進めさせていただく。
各自の目の前に『どこまでもドア』をひとつずつ用意する。
ウッキウキの二人を除き、不審がったり諦めたり無感情だったりと、残る四名もドアに入っていった。
「な、なんだここ……」
コックピットは操縦桿だけというシンプルなもの。ライアスは困惑しつつ座席につく。
「これで、この乗り物? を操作するのですか?」
マリアンヌお姉ちゃんは操縦桿をおっかなびっくりで握る。
「操作を説明している暇はない。ゲーム慣れしていない者たちは自動操縦になっているから安心してくれたまえ」
説明にも疑問符だらけのイリスたち。
みんな席にはついてくれたし、もうやってしまいましょう。
「発進!」
ブオオオオン!
垂直に浮き上がる六機の飛行物体は、ホバリングして同じ方角を向くと。
ビュォォォォン!
猛スピードで空を駆けた――。