まさに絶妙なタイミング
イリスたちとは距離を置き、
「あーっはっはっはっはっはぁ!」
とっても楽しそうに鞭を振り回す12の人ことアデーレさん。
「よっ、はっ、ほいっ、と」
対するは謎の美少女留学生ユリヤだ。刺々しい鞭の先端をパンチやキックでしなやかに弾いている。
「私の鞭捌きに素手でついてくるなんて、貴女なかなかやるじゃない」
「やっぱり少しは盛り上げないと、でしょ?」
タイマン中なのにユリヤは俺をチラリと見やる。何かご用ですか?
「支援はしないってことか……」
俺のこと? だってそっちはウラニスの援護もないしね。
「なんだか釈然としないなー。ま、今回はわたし、主役じゃないし。適当に時間を引き伸ばしておくわ」
などとつぶやいていますがアデーレさんには聞こえてなさそう。てか俺に言ってる?
ユリヤは接近しようとしては鞭に邪魔されやや後退、また突っこむ、てのを繰り返す。
ただ同じことをしているのではなく、左右に回りこもうとしたり、体勢を崩してピンチになったりもしていた。
「いいじゃない。やるじゃない。でも勝つのは私。絶対に! 倒す!」
アデーレさんのやる気が上がる上がる。意図してやってるんだとしたら大したもんだ。ユリヤ恐るべし。
こっちはもうほっといていいな。
でもって、ですね。
「……」
キリリと難しい顔したシャルちゃんも可愛い。
でもなんか睨まれてるみたいで落ち着かない。
「くっ……さすがは兄上さま。隙が、ありません……」
おかしいな。いつでもマーベラスな魔法攻撃を食らうつもりでめっちゃ隙だらけにしてるんだけどね。
「ですが!」
正義の魔法少女イモータル☆シャルちゃんは空中でステッキを振り上げた。
「いつまでも臆していては逆に失礼。参らせて! いただきます!」
気合一閃。
ぴっかーってステッキが輝くと、
「エモーショナル・デスシャワー!」
そこはかとなく物騒な技名を叫んだ。
ステッキの宝石っぽいのから七色の光が帯状に広がっていく。よくよく見れば帯状の光は極小の光粒で、その名の通りシャワーのように降り注いだ。
あー、これ俺がけっこう前に頼まれてつけた機能だわ。残念ながらただの光のシャワーであり、攻撃能力は皆無――ドドドドドドドドドド――。
ぇ、地面に触れたとたんに光の粒が爆発してんですけど?
「こっそりと! 改良しました!」
そっかー、改良しちゃったかー。殺傷能力については今後議論したいところだが、まあ人に危害を及ぼすような場面では使わないだろう。シャルちゃんだし。
ん? でも俺には使っちゃうの? お兄ちゃんですけど……。
ちょっとどんよりしてしまったが、ぶっちゃけそれどころではない。
俺の周りで激しい爆発がひっきりなしに続いている。死んじゃわないかな?
もっとも俺は我が身がとてもかわいいので、二重三重どころか二桁の防御結界を張りまくっている。ので、今のところ服にも損耗がなかった。
俺でなきゃバラバラになってたね。
思いつつ、大丈夫だとはわかっていても安心できない俺。心臓バクバクだけど、取り乱したりはできない。妹の手前ね。
やがて爆発が止んだ。ちょっとだけ風を生み出し、さらーっと煙を流していく。
「さすがは兄上さま。やはり壁は遥かに高かったですね……」
でも! とシャルちゃんはキリリとして、
「ユリヤ! イリスさん!」
何が始まるんです? 俺がさっぱりわからない中、イリスが強張った表情で応じた。
「シャル……、やるんだね!? 今、ここで!」
まるでずっと仲間だと思っていた奴らが今まさに裏切るかのような、覚悟が込められたセリフだな。
「来い! 『破滅に誘う破城杭』!」
誰? それとも何? と疑問に思う俺を捨て置き、イリスは片腕を高々と掲げた。するとどうだろう? 彼女の周りに光の粒がキラキラ現れ、掲げた腕とか背中とかに集まっていき、
ぺかーっ。
なんかカッコいい武器を身につけてる!?
思い出した。
アレだ、遺跡探索課題で俺がでっち上げた聖武具(偽)だ。そういやイリスにあげたんだっけか。そんでもってあんな風に呼び出せるように細工したんだった。
ユリヤが飛んだ。シャルに向かいながら、イリスを見下ろす。
「それじゃあイリス、そっちの二人は頼んだわ」
さっきまでユリヤの相手をしていたアデーレ先輩は動けない。イリスの異様な出で立ちに警戒しまくっているからだ。
4の人ことバルド先輩もまたイリスの出方を窺っている様子。
なのでユリヤは難なくシャルの横に並ぶことができまして。
「弱きを助けて強きをくじく」(シャルちゃんパート)
「二人が心を重ねれば」(ユリヤパート)
背を合わせ、美少女二人が言葉を紡ぐと、パブリックビューイング会場から大歓声が巻き起こった。わかるよ。俺も楽しみ――ってそんな場合ちゃう!
いやマズい不味いまずいですよこれは非常にマズいです。
二人の合体魔法はかなりの威力。俺には謎時空に飛ばすという反則防御技があるのだが、それを使えばどうなるか?
『は? 何あれ興醒め』
『俺らは力と力のぶつかり合いが見たいんだよなー』
『チッ、逃げやがった……』
ぶっちゃけ観衆にどう思われようと構わない。構わないのだが!
『兄上さま……わたくしたちでは全力を出すに値しない、と。つまりはそういう……』
ダメだめ絶対にダメです。シャルちゃんが悲しむ顔は見たくありません!
でもなあ。
二人の合体魔法、やるたびに強くなってんのよね。防げるかな?
防げたとして、シャルちゃんたちが自信喪失しちゃわない?
などなど、心配事が一気に押し寄せてきた俺はもはやこれまでと観念した――そんな、とても俺にとって都合のいいタイミングで。
ビービービービーッ!
けたたましい警報音に続けて、上空で偽シヴァが叫ぶ。
「なんてことだ! 王都に向けて巨大な合成魔獣がやってくるだと!?」
虚空に現れた大画面――その中に映し出された魔神さん作製の巨大合成魔獣さんが、どしーんどしーんと歩いている。
王都の城壁まであと数分、というところまで迫ってきていた――。