ついに始まる兄妹対決
一試合ずつ行われていた一回戦が終わると、次からは二会場に分かれて二試合が同時に行われた。
純粋に全チームを評価するのが一回戦、それ以降は時間との兼ね合いもあり、見たいところを見ましょうね、というスタンスに変わるようだ。
当然のように俺の負担も倍増する。誰か助けて。
誰も助けてくれない中、俺の孤独な戦いは続いた。
唯一の癒やしはシャルちゃんチームの快進撃だ。というか圧勝に快勝を重ねていた。毎回大きな穴が会場に作られましたが俺がちゃんと直しました。それは苦じゃないです。
そうしてこうして、途中でライアスのチームを粉砕した俺のチームも勝ち残り――。
「それでは決勝戦をぉぅ……始めるぜぇっ!?」
偽シヴァのテンションも相当おかしなことになってんな。
実際、なんか空気がおかしい。我がチームもそうだ。
「待っていたぞこのときを! さあ一年坊主――いやイリスフィリアよ、オリンピウス遺跡での再戦といこうか!」
「ふ、ふふふふふ、あのときは妙な邪魔が入ったものねえ。今度はあのおチビちゃんを……ふふふふふふ……」
「そうか! きっとルシファイラ様はアタシにチャンスをくれたのよ。この手で直接あの娘を抹殺するようにってね。だからアタシがこんな格好でここにいるのには絶対に意味があったのよ!」
最後のセリフは看過できないのだが、おめめをぐるぐるさせて涎を拭きもしない姿が見ていられないので見逃すことにした。
「おいハルト・ゼンフィス、相手が妹だからと手加減するなよ?」
「そうね。貴方って相当妹に甘いって聞くし」
誰がそんなデタラメを?
「俺は妹に甘いんじゃなくて溺愛しているので全力で戦うなんて無理です」
「「そういうとこ!」」
一方、自我を失くしている感じのヴァリといえば、
「出方を窺うなんてぬるいことはやってられないわよね。最初っから全力全開。ううん、試合開始前からの奇襲でサクッとあの娘の命を――」
ダメだこいつ、すぐに何とかしないと。
「ぴぎゃっ!?」
「む? 今なにか小動物がつぶされたような鳴き声が聞こえなかったか?」
「ちょっと貴女、どうしたのよ?」
12の人ことアデーレ・ゾンネさんがヴァリに声をかける。
こくん。ぐっ。
ヴァリは無言でうなずき、ぐっとサムズアップする。
怪訝そうな顔をしたアデーレさんだったが、それ以上は干渉してこなかった。
これでひとつ、懸念事項が解消された。
ヴァリの意識を刈り取ったのだ。最後まで眠っていただこう。
まあ試合中もこいつを操り人形みたいに操作しなくちゃいけないから面倒ではあるんだけどね。仕方ない。
わーっと、遠くパブリックビューイング会場から歓声が轟いた。
シャルちゃんチームの入場である。
「兄上さま、本日はそのたくましい胸をお借りします……」
小さなつぶやきには決意がたっぷり。そんなたくましくはないと思うんだけどね。
まずはお約束の変身シーンを堪能する。
はあ、シャルちゃんかわよ。
そうしていよいよ。
「それでは決勝戦! はぁ〜〜〜じめぇぃっ!」
いよいよテキトーになってんな。
締まらない掛け声ではあったが、参加者には関係なかった模様。
「うおりゃあ!」
先陣を切ったのは4の人ことバルド・ゲッテル最上級生。イリスに真っ直ぐ突進していく。
「はああっっ!」
イリスも最初から彼が来るのがわかっていたかのように、素早く前に出て迎え討った。
ガキィィン!
拳と拳がぶつかるにしては金属質の音が響き、
ガガガガガガガガガガ――。
目にも留まらぬスピードでの殴打の応酬が始まった。
「腕を上げたな! 平民風情が!」
「努力に身分は関係ないからね」
実際、オリンピウス遺跡での対決のときより成長は見て取れる。あのときはバルド先輩にスピードでは圧倒しつつも、防御を主体とした先輩を攻めあぐねていたもんな。
今はむしろ押している。
本来なら味方であるバルド先輩の支援をすべきだけど、なんとなく邪魔はしたくない。
ので、
キュィィィィィン!
ウラニスがなんか妙な結界っぽいのを飛ばしてきたので、こっちからも結界をぶつけて壊してみました。
「――っ!」
おー、なんか睨まれたぞ。いちおう意識のないヴァリの両手を突き出して、こいつがやったように見せかけたんだけどな。
イリスとバルド先輩の攻防は苛烈になっていく。
俺とウラニスの見えない攻防もまた激しさを増した。
でもさ、俺って試合にだけ対応してるわけじゃないのよね――。