四騎戦が始まったぞ!(キレぎみ)
ついにやってきました、その名も『全学年共通魔法技能考査』。
堅っ苦しい名称そのままに、学院生を値踏みするための試験であるらしい。
博士コースの研究発表はそこかしこで行われ、見るからに魔法をがっつり研究してますよ、という出立ちのおそらくお偉いさんみたいな人たちが、学生相手に「素人質問で恐縮ですが」で始まり回答に窮する難しい質問を浴びせかけている光景は見ていられなかった。
一方の騎士コースは魔法をバンバン放ったりが主体。こちらはむしろ無言の圧がすごい。自信満々に繰り出した特大魔法を鼻で笑われたり素っ気なく立ち去られたりして落ちこむ学生が後を絶たず。
まあ、わりと地獄絵図よね。
そんなこんなで、大注目の『四騎戦』が始まるわけですが。
なにせエリート中のエリートが自らの力を誇示する試験科目なので、あっちこっちから人が集まってきている。
試験会場は屋外闘技場だ。
若人たちの奮闘を期待するかのような晴天の下、しかし観客席には誰もいない。訂正、特設の実況席に一人だけ、テレジア・モンペリエ学院長がぽつんと佇んでいた。なんとなく不満そうな顔をなさっている。
観客はといえば、みなもっと広い校庭に集められていた。
例年と違い、シヴァのサポートの下で殺傷能力の高い魔法も使えるので、安全を期してパブリックビューイング形式にしたのだ。
ノウハウはナンバーズとの遺跡探索勝負で培われている。隙はない。
「それではこれより、四騎戦を開始する!」
空中で全身黒ずくめの怪しい男が開幕を宣言する。声は拡声器的結界で大きくしていた。
シヴァさんチーッス。
なんと俺はハルトモード(ふだんの俺)で闘技場の入場口から覗き見ていた。
なぜか?
例によってハルトCが難色を示したからだ。
『ナンバーズの二人って声と図体と態度のでかい男と鞭を振り回すサド女だぞ? まともにコミュニケーション取れると思うか? しかも残りの一人は魔人って何よ? 絶対無理。俺やりたくない!』
俺だってやりたくねえよ!
まあこれくらいなら強引に押しつけてしまえたのだが、さすがは俺(のコピー)、痛いところをついてきやがった。
『シャルは本体との戦いを望んでいるんだ。なのに偽者と戦わせるのか? 聡いシャルのことだ、きっと気づく』
気づくかなあ? うまいこと誤魔化せばいいのでは?
『仮に! 気づかないとして、だ。それでお前の良心は痛まないのか!』
ぶっちゃけ痛む。他の誰かならまったく痛まないのだが、シャル相手だとね。弱いのよね。
まんまと丸め込まれた気がしなくもないが、やりたくない奴に任せてもろくなことにはならんだろう。
そんなわけで、ハルトCには黒ずくめの衣装を着てもらい、偽シヴァとして司会進行を頼むことで落ち着いた。
ので、俺は一般学生ハルト・ゼンフィスとして立ち回らなくてはならない。
いやでも、シヴァに求められている役割もこっそりやんなくちゃいけないんだよな?
なにせ今回はシヴァさんがいらっしゃるということで、殺傷能力の高い魔法が使い放題。俺が防御結界でサポートしなくちゃなのだ。
ついでに進行役を仰せつかり、パブリックビューイング会場もセッティングした。
働きすぎでは!?
「それでは一回戦、第一試合を開始する。両チーム、入ぅっ、場ぅぅぅっ!!」
偽シヴァがノリノリで声を張り上げる。なんか楽しそうでムカつくな。
遠くパブリックビューイングの会場で歓声がこだましたのを感じつつ、俺は先頭で闘技場に入った。
「ふはははっ! 腕が鳴るなあ!」
ごっつい人が暑苦しい高笑いとともについてくる。
「ええ、ようやくこの鞭が振るえるのねぇ」
舌なめずりしながら淫靡に微笑むこのお姉さん怖いっす。
二人はそれぞれナンバー4と12の人だ。あんなお笑い集団に属しているせいか三下感が強い。
意気軒昂な二人に対し、最後の一人は沈黙したまま続いてくる。
魔人のヴァリである。
「なんで、どうして……? 学院に潜んだカードは回収したわよね? なのにアタシはここで人ごときと慣れ合ってチーム戦なんかやらなくちゃいけない……。でもルシファイラ様がおっしゃるのだから、きっとこれにも意味があるのよね……。けどやっぱり……」
なんか不満たらたらな様子。誰にも聞こえないような小声ではあるが、俺には拾えちゃうのよね。
「それでは試合ぃぃ……開始ィ!」
俺の沈んだ気持ちとは裏腹に、偽シヴァの過剰演技でバトルが始まった。
「うおおぉりゃあぁあっ!」
「はあああぁぁああぁっ!」
まるで獲物を見つけた猛獣のごとく、雄叫びを上げて襲いかかるナンバーズのお二人。
あちらの攻撃担当さんはどうやら離れて戦う典型的な魔法使いタイプのようで、近づけまいと魔法を打ち放つも、
「ひぃぃ!?」
「ちょ、速っ!?」
怯えまくっている。
「ごばぁっ!?」
「ひぎぃっ!?」
そして速攻でつぶされた。
あっちのリーダーや支援係は完全に戦意を喪失している。が、二人は嬉々として追いかけ回して容赦なくぶっつぶした。慈悲はないのか。
まあでも、アレだな。
なんだかんだで裏生徒会的なとこに所属していた実力者だ。強さがハンパない。恥ずかしい黒歴史を自覚していないのは痛々しいけどね。
わりと楽ができるんじゃないかなーと思ったわけですが。
俺、なんもしてないように見えて対戦相手が大けがしないようにちょこちょこ結界作ってサポートしてたのよね。
複数人が同時に戦ってるから気が抜けない。完全に防いじゃうと反撃の好機を与えちゃうから加減も難しかった。
コレ、決勝までずっとやんなくちゃいけないの?
初戦ですでにやる気を失くしている俺でした――。